今回は僕の三十一年の人生の中で、これはぜひ読んでほしいという小説をジャンル別に50作品ご紹介します。
僕は肩ひじ張らず読める軽めの小説が好きなので、読書が苦手だという人も読みやすいものが多いと思います。
特にミステリが好きで、ミステリのラインナップがかなり豊富なランキングになっています。
初心者の方にも読書の良さを広めるために、紹介する作品には以下の制限を設けました。
・1作者につき1作品
・文庫化されたものに限る
作品は違えど作者ごとにどうしても作風が出てしまうので、よりたくさんの世界を知ってもらうために基本的に1作者につき1作品しか紹介しません。
気に入ったら、その作者の別の作品にもぜひチャレンジしてみてください。
また手に取りやすいようにコンパクトで値段の比較的安い文庫化されているものに限定しました。
最近ではほとんどの作品が電子書籍化されているので、置き場所が気になるという方はそちらもご検討ください。
- 文庫小説おすすめ23選【ミステリ・サスペンス】
- 1 儚い羊たちの祝宴
- 2 告白
- 3 火車
- 4 イノセントデイズ
- 5 アリス殺し
- 6 暗幕のゲルニカ
- 7 そして誰もいなくなった
- 8 ビブリア古書堂の事件手帖
- 9 向日葵の咲かない夏
- 10 神様ゲーム
- 11 ハサミ男
- 12 十角館の殺人
- 13 すべてがFになる
- 14 白夜行
- 15 火の粉
- 16 ジェリーフィッシュは凍らない
- 17 開かせていただき光栄です
- 18 13階段
- 19 屍人荘の殺人
- 20 七回死んだ男
- 21 【映】アムリタ
- 22 孤狼の血
- 23 噂
- 文庫小説おすすめ7選【青春】
- 文庫小説おすすめ5選【恋愛】
- 文庫小説おすすめ2選【ファンタジー】
- 文庫小説おすすめ6選【SF・ホラー】
- 文庫小説おすすめ5選【感動・エンタメ】
- 文庫小説おすすめ2選【児童文学】
- おわりに
文庫小説おすすめ23選【ミステリ・サスペンス】
1 儚い羊たちの祝宴
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
「BOOK」データベースより
僕の一押しです。
ブラックユーモアと評されていますが、背筋が凍るような恐怖が読了後もつきまとい、作品の与える影響力の強さを物語っています。
短編なのでサクサク読めますが、それぞれが『バベルの会』というワードで繋がっているので、読み進めるごとにその存在が際立っていき、ラスト一行でやられます。
あの一行を書くためなら、一つの作品を書きたくなるのも頷けます。
2 告白
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
「BOOK」データベースより
今や『イヤミスの女王』として名前が広く知れ渡った湊かなえさんのデビュー作です。
彼女の魅力はイヤミスだけでないと分かりつつも、やっぱり一番最初に読んでほしいのは本書なんです。
一人称で徹底的に掘り下げられた個人の感情と、それらが複雑に絡み合って招く最悪の結果。
人間とはここまで強い感情を抱けるのかと、良くも悪くも心に強く焼き付けられました。
以下はインタビュー記事です。
3 火車
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
「BOOK」データベースより
他人の戸籍など全てを奪って他人として堂々と生きる。
そこにどんな悪意が込められているのかと思いながら読み進めますが、次第に切実な思いに触れ、もう犯罪者としてではなく犠牲者としてしか見られなくなっていました。
とことん犯人の目線に立ち、その人生に寄り添う。
こんなに丁寧に描かれたミステリは滅多にありません。
4 イノセントデイズ
田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。日本推理作家協会賞受賞。
「BOOK」データベースより
事件としてはありふれたもののように感じますが、それを掘り下げると、そこには想像を絶するドラマがあります。
本書を読むと、裁判を見る目が百八十度変わります。
読後もやり場のない悲しみや怒りが残りますので、すっきりしたいという方には向かないかもしれません。
5 アリス殺し
最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗栖川亜理。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、亜理の通う大学では玉子という綽名の研究員が屋上から転落して死亡していた―その後も夢と現実は互いを映し合うように、怪死事件が相次ぐ。そして事件を捜査する三月兎と帽子屋は、最重要容疑者にアリスを名指し…邪悪な夢想と驚愕のトリック!
「BOOK」データベースより
誰もが知る『不思議の国のアリス』をモチーフにした、地球と不思議の国を股にかけた殺人事件の真実。
童話特有の残酷さが癖になる作品です。
物語に直接関係はありませんが、続編も発売されていますので、ぜひ合わせて読んでみてください。
6 暗幕のゲルニカ
ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒涛のアートサスペンス!
「BOOK」データベースより
現在、そして過去がやがて一つに繋がる壮大な物語です。
作者の原田マハさんはキュレーターの経歴を持ち、その美術知識から描かれる物語のスケールは圧巻の一言です。
原田さんの美術作品の中でも本書の表紙にある『ゲルニカ』は知名度が一際高く、作品に込められた思いに読者も共感しやすいのではないでしょうか。
原田さんの描く世界は本当に美しいので、ぜひこの記事を読むあなたと共有したいです。
以下は刊行記念インタビューです。
原田マハ・インタビュー 「暗幕のゲルニカ事件」が伝えたもの『暗幕のゲルニカ』刊行記念
7 そして誰もいなくなった
その孤島に招き寄せられたのは、たがいに面識もない、職業や年齢もさまざまな十人の男女だった。だが、招待主の姿は島にはなく、やがて夕食の席上、彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が響く…そして無気味な童謡の歌詞通りに、彼らが一人ずつ殺されてゆく!強烈なサスペンスに彩られた最高傑作。新訳決定版。
「BOOK」データベースより
ミステリ好きなら誰もが通るであろうアガサ・クリスティーの不朽の名作です。
今では当たり前の『クローズドサークル』は本書から始まったと言われていますので、ミステリの歴史を辿るという意味でも面白い作品です。
また時代的にもミステリがこれ以上なく映えますので、ミステリにある程度精通してから読むと、より贅沢な読書を楽しめると思います。
8 ビブリア古書堂の事件手帖
鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。
「BOOK」データベースより
とある古本屋に集まる古書にまつわるエピソードと、それを紐解いていく二人の男女を描いた作品です。
ここまで古書の魅力を深く、そして分かりやすく掘り下げた作品を僕は知りません。
三上さんの本に対する愛情が感じられ、本書を通じてあなたも本の虫になってしまうかもしれません。
またエピソードを追う上で、仲を深めていく二人も必見です。
以下は本書に関する三上さんへのインタビューです。
『bestseller’s interview 第36回 三上 延さん』
9 向日葵の咲かない夏
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
「BOOK」データベースより
賛否両論が予想される作品です。
大胆なトリックが敷かれていますが、それに納得できるかどうかで本書の評価は真っ二つに分かれます。
もしトリッキーな要素が許せないという性分の方は、レビューなどを読んでからご検討ください。
僕はトリックに納得できた上に、夏休みというどこか哀愁漂う雰囲気がドンピシャでした。
10 神様ゲーム
神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか、謎の転校生・鈴木太郎が犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか。神様シリーズ第一作。
「BOOK」データベースより
可愛い表紙に騙されると、とんでもないことになる作品です。
残酷さ、醜さが盛り沢山で、人間不信になりかねない破壊力を秘めています。
『さよなら神様』という続編もありますので、読んで気に入った方はぜひ読んでみてください。
11 ハサミ男
美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。
「BOOK」データベースより
殺人鬼の模倣犯が現れ、殺人鬼視点で事件を追うという斬新な設定ですが、そこには大きな伏線が張られています。
小さな違和感から気が付く可能性もありますが、気が付かない方が楽しめます。
途中で思い込みがひっくり返った時、全く別の物語になるので、必見です。
叙述トリックが読みたいけれど、『殺戮にいたる病』などグロテスクな描写が苦手という人にはぜひおすすめしたいです。
12 十角館の殺人
十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。
「BOOK」データベースより
ミステリーの最高峰とも言われる作品です。
王道のミステリーだからこそ出せるロマンがあり、ミステリー好きであれば読まないと絶対に後悔します。
読んで気に入れば、本書をはじめとした『館シリーズ』にもぜひ挑戦してみてください。
以下はデビュー三十周年を迎えた綾辻さんへのインタビューです。作品の雰囲気が伝わると思うので、よければ合わせてお楽しみください。
13 すべてがFになる
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。
「BOOK」データベースより
工学部の助教授もしていたことがある森博嗣さん。
そんな彼だからこそ描ける確かな理系ミステリーです。
しかし、僕はミステリーというよりも、森さんの描くキャラクターがとにかく好きです。
西尾維新さんもそうですが、会話を読んでるだけでニヤニヤしてしまうんですよね。
森さんのユーモア溢れる会話が楽しめ、ミステリーが苦手だという方にもおすすめです。
ただし、かなり長いシリーズなので、全てを読むのであれば多少の覚悟はいるかもしれません。
本書は一作目なので、これだけ読んでもOKです。
14 白夜行
1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。
「BOOK」データベースより
本を読まない人でも知るほど有名な東野圭吾さん。
ドラマ化、映画化されたものの多くはさらりとしたエンタメ作品が多いのですが、本書はそれらと全く違います。
深い怒りと悲しみ、そして二人の男女の人生が描かれていて、八〇〇ページもの文章ですら足りないのではと思えるほどの圧倒的な密度を誇る物語です。
読んで後悔はさせません。
とはいえ、読み始めるにはそれなりの覚悟がいると思いますので、一旦本棚にしまい、気が向くのを待つのも良いでしょう。
また明言こそされませんが『幻夜』という続編もありますので、こちらも合わせて読むと面白さは倍増します。
ただし、こちらも八〇〇ページ近くありますので、読み始めるにあたってしっかり覚悟を決めてください。
15 火の粉
元裁判官で、現在は大学教授を務める梶間勲の隣家に、かつて無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い…武内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴んでいく。手に汗握る犯罪小説の最高傑作。
「BOOK」データベースより
ミステリというよりも、サスペンス色が強い本書。
無罪を信じて判決を下した男が本当は根っからの犯罪人で、無罪を下した元裁判官の家族をゆっくりと侵食していく。
本性に気が付いて警告しても、家族は誰も信じてくれない。
分かっていても止められずもどかしさ、絶体絶命の窮地に追いやられていく恐怖はもはやホラーです。
16 ジェリーフィッシュは凍らない
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船“ジェリーフィッシュ”。その発明者である、ファイファー教授たち技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところがその最中に、メンバーの1人が変死。さらに、試験機が雪山に不時着してしまう。脱出不可能という状況下、次々と犠牲者が…。第26回鮎川哲也賞受賞作。
「BOOK」データベースより
市川憂人さんのデビュー作で、2016年と比較的新しい作品です。
「二十一世紀の『そして誰もいなくなった』」というとんでもない売り文句がつけられていましたが、そう呼びたくなるのも分かるほど魅力的な作品です。
小型飛行船『ジェリーフィッシュ』、そして不時着した山という閉ざされた空間で次々と行われる殺人。
そして、それを追うマリアと漣という二人の刑事。
王道ミステリが良いけれど、昔の作品はなんだか受け付けない。
そんな方には迷わず本書をおすすめします。
『マリア&漣』シリーズと銘打っていますので、これから新作が出てくる点もおすすめポイントです。
ただし、マリアの態度や言葉遣いが受け付けないというレビューも散見されるので、相性が試されるかもしれません。
17 開かせていただき光栄です
18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が…解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。前日譚を描いた短篇を併録。
「BOOK」データベースより
徹底的にリアルに描写された18世紀のロンドン。
細部まで調べ上げて徹底的に作り込まれているので、その時代の香りさえしてきそうな気がしました。
登場人物たちはどれも癖が強くユーモアに溢れていて、当時の偏見に満ちた汚い世界でも読者を楽しい気分にさせてくれます。
ミステリなんだけれどそれ以外にも楽しみが満載ということで、ミステリが好きでないという人もタイトルや表紙に惹かれたら一度読んでみてください。
すぐにその世界に引き込まれます。
18 13階段
犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
「BOOK」データベースより
高野和明さんのデビュー作であり、第47回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。
審査員の満場一致が得られたことで有名ですが、読んでみると新人とは思えない落ち着いた文章、難しいテーマを見事に書き切る構成力など本当に驚かさせることばかりで、知らずに読めば大御所小説家かと思うほどです。
ストーリーとしてはそこまで入り組んでいるわけではないので、読者は安心して読み、死刑やそれに関わる制度の矛盾についてじっくり考えることができます。
それでいて結末に辿り着くまでに何度も驚かされるので、一気読み必至です。
19 屍人荘の殺人
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子とペンション紫湛荘を訪れる。しかし想像だにしなかった事態に見舞われ、一同は籠城を余儀なくされた。緊張と混乱の夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。それは連続殺人の幕開けだった!奇想と謎解きの驚異の融合。衝撃のデビュー作!
「BOOK」データベースより
国内ミステリーランキング四冠達成というバケモノのような偉業を達成し、有栖川有栖さんからは『新・新本格の目玉が入った』といわれるほど期待されています。
しかし、平成以降に生まれた人からすれば、生まれた時にすでに新本格があったわけで、何も新しくありません。
そういった意味で、本書は若い人にとっての『新本格』であり、時代の分かれ目になりえる作品ということになります。
内容や設定は『十角館の殺人』に共通する部分が見受けられ、一方で時代を受けての推理方法の違い、二十一世紀においての探偵の意義など現代に即した内容になっています。
新しい作品が好きな方であれば本書をぜひおすすめします。
一方でノリが軽く、リアリティが感じられないなどの点から否定的な評価も目立ちますので、人を選ぶことは間違いありません。
しかし、賛否両論がつく位に多くの人に読まれた作品なので、惹きつける何かがあるのは間違いありません。
話題作はとりあえず読んでみたいという方であれば、これ以上のミステリはないでしょう。
20 七回死んだ男
高校生の久太郎は、同じ1日が繰り返し訪れる「反復落とし穴」に嵌まる特異体質を持つ。資産家の祖父は新年会で後継者を決めると言い出し、親族が揉めに揉める中、何者かに殺害されてしまう。祖父を救うため久太郎はあらゆる手を尽くすが―鮮やかな結末で読書界を驚愕させたSF本格ミステリの金字塔!
「BOOK」データベースより
同じ日を何度も繰り返してしまう特異体質の主人公が、祖父の死を回避するべく奮闘します。
SFとミステリーが調和した作品で、パズルのピースがはまっていくような快感を味わうことができます。
また全体のテイスト的にいい意味でくだらなく、キスする時の音には思わず電車の中で吹き出しそうでした。
21 【映】アムリタ
自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂されるつかみどころのない性格の女性、最原最早の監督作品だった。最初はその天才という呼び名に半信半疑だったものの、二見は彼女のコンテを読み始めた直後にその魅力にとりつかれ、なんと二日以上もの間読み続けてしまう。彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が二見を撮影へのめりこませていく。そしてついに映画は完成するのだが―。第16回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞作。
「BOOK」データベースより
天才とはなにか。
そんな究極の問いに、野崎まどが答えます。
人智を超えた人間をここまで違和感なく描けるのは、野崎さんだけだと僕は思います。
以下は本書に関する野崎さんへのインタビューです。
『[映]アムリタ』でMW文庫賞を受賞した野﨑まど先生にインタビューを敢行!
さらに本書の集大成ともいうべき続編『2』がありますので、ぜひここまで読んでください。
ただし、野崎作品のキャラクターが総出演なので、予習が大変かもしれませんがその価値以上のものがあります。
22 孤狼の血
昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。
「BOOK」データベースより
どの作品でもオススメできるくらい信頼している柚月裕子さんですが、その中でも群を抜いてオススメしたいのが本書です。
偏見を恐れずに書くと、男性ですらなかなか踏み込めない警察とヤクザの世界を女性としてここまで骨太に描けることに驚き、登場人物の持つ信念には柚月さんの気持ちの強さが宿っていたように感じます。
昭和の世界観は今の価値観からすると共感できない、納得できない部分が多くあるかもしれません。
しかしその一方で、現代ではあまり見られない人情があり、熱さがあり、読んでいてヒリヒリした緊張感を楽しむことが出来ます。
23 噂
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
「BOOK」データベースより
荻原浩の作品は僕の中で当たり外れが大きく、いつも手を出すことを躊躇してしまいます。
しかし、本書は大当たりでした。
都市伝説、噂といった曖昧なものがやがて現実となる様子の恐怖はもちろん面白かったですが、久しぶりにオチでおお、と声が出てしまいました。
結末はもちろんですが、あのワードは今でも頭から離れません。
文庫小説おすすめ7選【青春】
1 つきのふね
あの日、あんなことをしなければ…。心ならずも親友を裏切ってしまった中学生さくら。進路や万引きグループとの確執に悩む孤独な日々で、唯一の心の拠り所だった智さんも、静かに精神を病んでいき―。近所を騒がせる放火事件と級友の売春疑惑。先の見えない青春の闇の中を、一筋の光を求めて疾走する少女を描く、奇跡のような傑作長編。
Amazon内容紹介より
森絵都さんといえば『カラフル』や『DIVE!!』を思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、僕はこの『つきのふね』を断然推します。
第36回野間児童文学芸賞を受賞していますが、万引きに売春斡旋、放火に心の病とかなり重たい問題が盛り沢山で、青春小説と呼ぶには首を傾げたくなるような内容になっています。
本書には主人公の中学生・さくらの若さゆえの無力感が漂っていて、あるかどうかも分からない光に手を伸ばすような不安が読者を襲います。
しかし、諦めないさくらたちの思いが奇跡を呼び、最後の展開はある程度予想がつきつつも、感動せずにはいられませんでした。
重たいテーマを扱う一方で、月明かりの下のようなどこかぼんやりとした幻想感のある読み心地が病みつきになります。
ただし、ノストラダムスの大予言が流行した1998年が舞台なので、古めの設定が苦手な人はご注意ください。
2 砂漠
「大学の一年間なんてあっという間だ」入学、一人暮らし、新しい友人、麻雀、合コン…。学生生活を楽しむ五人の大学生が、社会という“砂漠”に囲まれた“オアシス”で超能力に遭遇し、不穏な犯罪者に翻弄され、まばたきする間に過ぎゆく日々を送っていく。パワーみなぎる、誰も知らない青春小説。
「BOOK」データベースより
名作を数多く生み出してきた伊坂幸太郎さんですが、僕はその中でも本書を挙げました。
一見、ただの青春小説に見えますが、その実、社会という砂漠に放り出される若者に向けたメッセージが印象的な作品です。
さらにタイトルについて後日談があり、それがとても素敵なので、あとがきもお楽しみください。
伊坂さんのファンも勧める隠れた名作です。
変哲もない日常だからこそ、実は愛おしいということに後になって気が付くものです。
自分もまだまだ若いつもりですが、特に学生の方は今を全力で楽しんでください。
以下は、本書に関する伊坂さんへのインタビューです。
3 きみの友だち
わたしは「みんな」を信じない、だからあんたと一緒にいる―。足の不自由な恵美ちゃんと病気がちな由香ちゃんは、ある事件がきっかけでクラスのだれとも付き合わなくなった。学校の人気者、ブンちゃんは、デキる転校生、モトくんのことが何となく面白くない…。優等生にひねた奴。弱虫に八方美人。それぞれの物語がちりばめられた、「友だち」のほんとうの意味をさがす連作長編。
「BOOK」データベースより
友だちの本当の意味を探す『きみ』が本書にはたくさん登場します。
その中に、もしかしたら読者であるあなたがいるかもしれません。
友だちって何だろう。
意味が分かったとしても、得ようと思っても得られるものではありません。
まさしく一期一会。
だから大切にしなきゃな、と思える一冊です。
最後はまるで人生の集大成のような豪華で贅沢な時間で、たくさんの『きみ』を見てきたからこそ深い感動を味わうことが出来ます。
4 いなくなれ、群青
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凛々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎…。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。
「BOOK」データベースより
『サクラダリセット』がアニメ化されたことで、その知名度をさらに伸ばした河野裕さんの作品です。
この世界のどこにあるのか分からない『階段島』で繰り広げられる少年少女の青春物語。
河野さんの描く青春は苦めですが、不器用でまっすぐな優しさもあって僕は好きです。
すでにコミカライズが決まっていて、今後、アニメ化される可能性もありますので、様々な形で楽しめるかと思うと今から楽しみです。
以下は、本書に関する河野さんへのインタビューです。
5 私を知らないで
中2の夏の終わり、転校生の「僕」は不思議な少女と出会った。誰よりも美しい彼女は、なぜか「キヨコ」と呼ばれてクラス中から無視されている。「僕」はキヨコの存在が気になり、あとを尾行するが…。少年時代のひたむきな想いと、ままならない「僕」の現在。そして、向日葵のように強くしなやかな少女が、心に抱えた秘密とは―。メフィスト賞受賞の著者による書き下ろし。心に刺さる、青春の物語。
「BOOK」データベースより
少年は謎の多い少女に惹かれますが、彼女の心には少年ではどうすることもできない秘密が隠されていました。
それに対して、二人が選んだ答え。
最良ではないハッピーエンドは、今でも読み返すと胸が痛くなります。
青春のほろ苦さとは、まさにこのことです。
6 また、同じ夢を見ていた
「人生とは和風の朝ごはんみたいなものなのよ」小柳奈ノ花は「人生とは~」が口癖のちょっとおませな女の子。ある日、彼女は草むらで一匹の猫に出会う。そしてその出会いは、とても格好いい“アバズレさん”、手首に傷がある“南さん”といった、様々な過去を持つ女性たちとの不思議な出会いに繋がっていき―。大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の住野よるが贈る、幸せを探す物語。
「BOOK」データベースより
『君の膵臓をたべたい』の住野よるさんの作品です。
ちょっとおませな少女の視点を通じて、様々な出会いをして、それが後に重要な意味を持ちます。
伏線が回収されていくのはお見事の一言で、その安定感ゆえに安心して読むことの出来る温かい作品です。
以下は、本書に関する住野よるさんへのインタビューです。
『bestseller’s interview 第81回 住野 よるさん』
7 僕の小規模な奇跡
「あなたのこと全く好きではないけど、付き合ってもいいわ。その代わりに、わたしをちゃんと守ってね。理想として、あなたが死んでもいいから」彼女に告白し、そして奇妙な条件付きの返事をもらった瞬間から、僕は彼女の為に生きはじめた。この状況が僕に回ってきたことが、神様からの贈り物であるようにも思える。この結果が、いつの日か、遠い遠い全く別の物語に生まれ変わりますように。入間人間の名作が、宇木敦哉のイラストによって、待望の文庫化。
「BOOK」データベースより
入間人間さんの描くキャラクターはとにかく個性的で、どこか憎めないのがグッドです。
本書では小さな奇跡が積み重なり、新たな物語を紡いでいきます。
ライトノベルが苦手だという人にも、表紙に臆せず読んでもらいたい一冊です。
彼女がとにかく可愛い、と思ってもらえればこの上ない喜びです。
文庫小説おすすめ5選【恋愛】
1 図書館戦争
2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。
「BOOK」データベースより
有川浩さんの極上恋愛小説です。
甘すぎる恋愛はもちろん魅力的ですが、今とは違う厳しい世界の中で、どうやって本の表現を守るのか、そのために命を懸ける人たちの姿を見ることができます。
本好きには二倍おいしい作品です。
2 夜は短し歩けよ乙女
私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。
「BOOK」データベースより
森見登美彦さんは『森見ワールド』といわれるくらい世界観が独特で、本書はその筆頭作品です。
冗長とも思える文章なのに、森見さんにかかるとテンポ良く読めてしまい、気が付くと中毒になっているほどです。
現実離れしたファンタジー要素もふんだんに取り込まれていて、とにかく天真爛漫な黒髪の乙女が可愛い。
他にも有名な作品で『四畳半神話大系』がありますが、こちらの方が多少の忍耐を必要とします。
3 耽美なわしら
超兄貴サイズの体格に白薔薇のごとき心をもつ大学生作家・矢野俊彦は、同性の百合小説作家・千里を「世界一美しい人」と崇拝していた。しかしある日、千里の作品に感動した漫画家の彩子が、彼を女性と思い込み、同性愛のターゲットにしてしまう。横暴で好戦的な美女・彩子に、クールな毒舌漫画家・志木、さらには小悪魔的な美少女・美穂に翻弄されながら、俊彦は愛する千里を守れるのか?伝説の恋愛コメディ、ついに復活。
「BOOK」データベースより
今でこそ多様性が認められるようになりましたが、その前にこういった小説を生み出した森奈津子さんには感服しました。
ゲイとレズとバイ(男)とバイ(女)とノンセクシャルが送る物語。
『耽美』にふさわしい、一味違う恋愛コメディです。
本人たちはいたって真剣なのに、笑わずにはいられません。
4 言の葉の庭
また会うかもね。もしかしたら。雨が降ったら―。雨の朝、静かな庭で2人は出会った。靴職人を志す高校生の孝雄と、謎めいた年上の女性・雪野。迷いながらも前に進もうとする2人は、どこへ足を踏み出すのか。圧倒的な支持を受けた劇場アニメーション『言の葉の庭』を、新海誠監督みずから小説化。アニメでは描かれなかった人物やエピソードを多数織り込み、小説版ならではの新たなる作品世界を作り上げた傑作。
「BOOK」データベースより
新海誠さんといえば『君の名は。』を思い浮かべる方も多いと思いますが、僕は本書を推します。
理由としてアニメ映画版の素晴らしさはもちろんのこと、小説版は内容がアニメ映画よりも濃密になり、心情や描写が非常に美しいからです。
本書は従来の少年×少女ではなく、少年×年上の女性という組み合わせなので、従来の作品が肌に合わないという方にもおすすめです。
5 マチネの終わりに
天才クラシックギタリスト・蒔野聡史と、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十代という“人生の暗い森”を前に出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に、芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死などのテーマが重層的に描かれる。いつまでも作品世界に浸っていたいと思わずにはいられないロングセラー恋愛小説を文庫化!
Amazon内容紹介より
運命のような恋。
しかし、二人の間には様々な障害が立ちはだかり、たくさんの悲しみを生み、マチネ(劇場での昼公演)の終わりに感動のラストを迎えます。
大人な恋愛なのに、初恋のようにピュアで、様々な年代の方に時間を忘れて読んでほしい一冊です。
文庫小説おすすめ2選【ファンタジー】
1 光の帝国
膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への思向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。優しさに満ちた壮大なファンタジーの序章。
「BOOK」データベースより
特別な力を持つ常野一族。
そんな彼らをめぐる物語は優しい雰囲気に包まれ、穏やかな読書を楽しむことができます。
短編集なので一つの話が短く、飽きっぽい人でも読みやすい点もおすすめです。
シリーズものなので、気に入ったという人はぜひ他の作品にもチャレンジしてみてください。
2 新世界より
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
「BOOK」データベースより
貴志祐介さんはホラー、ミステリなど様々なジャンルの作品に精通し、それらをエンタメとして読者に最大限に面白く届けるのがこの上なく上手い作家さんですが、その中でも僕はダントツで本書を推します。
本書は1,000年後の日本を舞台にしたSF+ファンタジーのような作品で、平和な世界が真実によって残酷なものに豹変していくところが面白く、上・中・下巻の圧倒的なボリュームも気にならないほどです。
世界観がよく練られていてグングン惹かれる一方で、見知らぬ単語の数々に辟易としてしまう人も出てくると思います。
細かいことはなんとなくで読み飛ばしても本書の面白さは損なわれないので、気楽に本書の世界観を楽しんでもらえればと思います。
アニメ化もされていて、非常に原作の世界観を忠実に守りつつも独自の魅力を提示してくれたので、細かい設定が頭に入りにくいという人はアニメ→小説という順番もオススメです。
アニメ公式サイトはこちら。
文庫小説おすすめ6選【SF・ホラー】
1 ハーモニー
21世紀後半、“大災禍”と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
「BOOK」データベースより
若くして亡くなった伊藤計劃さんの作品です。
『虐殺器官』の後の世界を描いていますが、直接の関係はないので前作を読んでいなくても問題ありません。
世界は大災禍(ザ・メイルストロム)を経てユートピアと化しますが、それは仮初の理想郷に過ぎず、例えるなら真綿で首を締めるような優しい苦しさをともなうものでした。
ユートピアが行き着く先とは、を描いた壮大なSF作品です。
以下のページで本書に言及されているのですが、非常に興味深かったので、本書を選ぶ上での参考にしてみてください。
魂と私をめぐる物語–伊藤計劃『ハーモニー』の視点・前編【視れば揺らぐこの宇宙】第5回
2 殺戮にいたる病
永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。
「BOOK」データベースより
叙述トリックといえばこれ、というほどの代表なホラー小説です。
最後まで読んでも、何が起こっているのか把握するまでに時間がかかるほど読者を見事に騙してくれます。
読み返すことで叙述トリックがどれだけ巧みに仕込まれていたのかが分かりますので、二度おいしい作品です。
ただグロテスクな描写が多いので、苦手な方は要注意です。
3 アンドロイドは電気羊の夢を見るのか
第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しか飼えないリックは、かくて火星から逃亡した〈奴隷〉アンドロイド八人の首にかかった賞金を狙って、決死の狩りを始めた! 現代SFの旗手が斬新な着想と華麗な筆致で描く悪夢の未来世界!
Amazon内容紹介より
タイトルからして名作だと確信できるSFの傑作で、名作映画『ブレードランナー』の原作でもあります。
海外作品は和訳に違和感を覚えることも少なくありませんが、本書は素晴らしい和訳のおかげでその魅力が十二分に発揮されています。
火星から逃亡したアンドロイドとの戦いだけでなく、アンドロイドとの違いを通じて人間とは何か、など考えさせられる内容になっています。
作品発売の当時からすればこの時代は遠い未来に当たりますので、現代の文明と比較してそのギャップを楽しむのもいいかもしれません。
4 マレ・サカチのたったひとつの贈物
誰か、私を留めて。どこかへ跳び去ろうとする私を―世にも奇妙な「量子病」を発症して以来、自らの意志と関係なく世界中をワープし続ける稀。一瞬後の居場所さえ予測できず、目の前の人と再び会える保証もない。日々の出会いは儚く、未来はゆらぐ。人生を積み重ねられない彼女が、世界に爪痕を残すためにとった行動とは?『天盆』『青の数学』の著者が放つ、感動の青春長篇!
「BOOK」データベースより
謎の病気『量子病』を発症し、自分の意志とは関係なく世界中にワープし続ける主人公の稀(まれ)。
衣服さえもワープで置き去りにされ、連れて行けるのは身に着けている青いものだけ。
さっきまで目の前にいた人と次の瞬間、永遠に別れることになるかもしれない。
だからこそ稀は出会いの大切さを知り、最後に大事なことを読者に教えてくれます。
ウィットに富んだ表現は他の小説家にない王城夕紀さんの魅力で、事の深刻さを感じさせない軽快さは読んでいて楽しいです。
知名度がそこまで高くないからこそ、ぜひおすすめしたい作品です。
以下の書評が興味深かったので、合わせてお楽しみください。
5 夜市
大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
「BOOK」データベースより
いつどこで開かれるか分からない、何でも売っている夜市を舞台にしたホラー小説です。
冒頭の掴みから抜群に面白く、すぐにその世界に引き込まれてしまうはず。
異形の者たちが登場して恐怖はもちろんありますがただのホラーでは終わらず、物語が進むにつれて感動が生まれてくるところが本書の見どころです。
表題作の『夜市』以外に『風の古道』も収録され、また違ったテイストの恐怖と感動を味わえるので、よほど怖い話が苦手でなければぜひ読んでみてください。
6 ぼぎわんが、来る
幸せな新婚生活をおくっていた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。原因不明の噛み傷を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、今は亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか?愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか…。第22回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
「BOOK」データベースより
ぼぎわんという一見ユニークな名前ですが、これがとんでもなく恐ろしい化け物で、後半に進むにつれてさらに狡猾になっていくのだから手に負えません。
ぼぎわんが近づいてくる恐怖、そして退治するために正体を突き止める推理が面白く、ホラー小説好きであれば読んでおいて損はありません。
澤村さんへのインタビューはこちら。
第二十二回日本ホラー小説大賞・大賞 澤村伊智『ぼぎわんが、来る』刊行記念インタビュー
文庫小説おすすめ5選【感動・エンタメ】
1 スロウハイツの神様
人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ―あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。
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誰よりも読者に寄り添う、読者の最大の理解者ともいわれている辻村深月さん。
そんな彼女の描く世界はどこまでも優しく、その中でも本書は群を抜いています。
夢を追う辛さと、がむしゃらに追いかけた先にあるこの上ない喜び。
手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら著名な漫画家が住んでいたトキワ荘をモチーフにした、現在版トキワ荘は伊達じゃありません。
辻村さんは、僕の青春時代を彩ってくれたかけがえのない小説家です。
2 昨夜のカレー、明日のパン
悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。
「BOOK」データベースより
何気ない日常に見えて、実はその裏に悩みを抱えた人たちを描いた連作長編です。
それぞれ独立した話ですが、脇役だった人が別の話では主役で出てくるなど様々な視点から一つの日常を眺めることが出来ます。
生きることは大変で、不変なものは何もない。
だから輝かしい未来でないとしても受け入れ、変わって生きていかなければならない。
大変なことですが、その分、何気ない日常の尊さを教えてくれる名作です。
登場人物たちの気楽なキャラクターによって気負わずにサラリと読めるのもポイントです。
3 舟を編む
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!
「BOOK」データベースより
今ではあまり手にすることのなくなった辞書ですが、それが完成するまでにどれだけの人が情熱を注いできたのか。
その魅力が十二分に描かれた作品です。
また三浦さんの描くキャラクターはどれも魅力的で、つい笑顔になってしまうのもポイントです。
三浦さんは本当に人を描くのが上手なんですよ。
4 コンビニ人間
「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより
一人の人間、いいえ、一人のコンビニ人間を描いた作品、ただそれだけです。
コンビニ人間とは何か、ぜひ読んでみてください。
以下は本書に関する村田さんへのインタビューです。
「コンビニ人間」37歳村田沙耶香は今もコンビニで働いているのか コンビニで好きな仕事「○○」
5 夏美のホタル
写真家志望の大学生・相羽慎吾。卒業制作間近、彼女の夏美と出かけた山里で、古びたよろず屋「たけ屋」を見付ける。そこでひっそりと暮らす母子・ヤスばあちゃんと地蔵さんに、温かく迎え入れられた慎吾たちは、夏休みを「たけ屋」の離れで暮らすことに。夏空の下で過ごす毎日は、飽きることなくシャッターを切らせる。やがて、地蔵さんの哀しい過去を知った慎吾は、自らできることを探し始めるが…。心の故郷の物語。
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素朴で優しい物語で、いつまでもその世界に浸っていたくなります。
心を満たしたい時に、ぜひ読んでほしい一冊です。
文庫小説おすすめ2選【児童文学】
1 モモ
町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります…。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。小学5・6年以上。
「BOOK」データベースより
子ども向けと侮ってはいけません。
本書には、大人が失ってしまった大事なことが描かれています。
『時間』とはなにか。
その問いについて、年齢関係なく皆さんに考えてほしいと思います。
以下の記事では、エンデの考えた経済思想について語られています。ランキングには関係ありませんが、よければ合わせてお楽しみください。
2 不思議の国のアリス
ある昼下がり、アリスが土手で遊んでいるとチョッキを着た白ウサギが時計を取り出しながら、急ぎ足に通り過ぎ、生き垣の下の穴にぴょんと飛び込みました。アリスも続いて飛び込むと、そこは…。チェシャーネコ、三月ウサギ、帽子屋、ハートの女王など、一癖もふたくせもあるキャラクターたちが繰り広げる夢と幻想の国。ユーモア溢れる世界児童文学の傑作を、原文の言葉あそびの楽しさそのままに翻訳した、画期的新訳決定版。
「BOOK」データベースより
もはや誰もが名前くらいは知っているほどの名作ですが、意外と読んだことがあるという人は少ないのではないでしょうか。
本書は不思議の国を舞台に、この世のこととは思えないことがユーモアたっぷりに描かれているので、肩ひじ張らずに雰囲気を楽しんでください。
意味が分からなくても、それはそれでオッケーです。
僕は話の内容を正直あまり覚えていません笑
おわりに
なるべくバラエティーに富んだ作品を選んでみました。
それでもミステリ・サスペンスで半分近く占めてしまい申し訳ありません。
偏ったオススメですが、その分、僕と波長の合う人であればどれもきっと気に入ってもらえる名作ばかりです。
一冊でも好きな本が見つかり、そこから皆さんの世界が広がることを切に願っています。
読書をより楽しみたい方はこちらもどうぞ。