『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』あらすじとネタバレ感想!誰もが知る物語をとんでもSFに仕上げた短編集
はるか未来、あるところにシンデレラという人類の進化系=トランスヒューマンの少女がおりました。“魔女”から拡張現実ドレスを与えられた彼女はカボチャ型飛行体に乗り、お城の舞踏会へ向かいます。しかしその夜、空から宇宙最強の爆発・ガンマ線バーストの閃光が降り注ぎ―「地球灰かぶり姫」ほか「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」など、古典に最新の想像力を配合した童話改変SF全6篇を収録。超個性派による第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作!
「BOOK」データベースより
誰もが知る超有名な童話などを下敷きに、SF要素を詰めて予想の斜め上をいく物語を展開する本書。
いくつもの短編が収録され、最後にそれらがまとまる構成になっています。
SFの中でも特に奇抜なので賛否両論は避けられませんが、一部マニアにはこの上なく受ける作品です。
本書に関する三方行成さんへのインタビューはこちら。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
地球灰かぶり姫
環大西洋連合王国の区民であるシンデレラ。
この時代ではトランスヒューマンは肉体から解き放たれ、好きな場所にやどるのが普通でしたが、シンデレラは自分の具体(ボディ)を持っていました。
シンデレラは性悪な継母によって劣悪な扱いを受け、具体をひどく損傷させられてしまいます。
そんな時、魔女を名乗る謎の女性が現れ、シンデレラに新しい具体を与えます。
それだけでなくお城で行われる具体化パーティに参加するよういいます。
ただしタイムリミットがあり、時間になった瞬間、世界は一変します
竹取戦記
竹取の翁は野山で竹をとって暮らしていましたが、炭素でできた竹とはいつも戦っていました。
そんなある日、不思議な竹が爆ぜ、中から赤ん坊が現れます。
赤ん坊は何者が竹をハックして作らせたもので、器ができてから精神をダウンロードする仕様になっていました。
翁は精神のダウンロードを邪魔し、赤ん坊はほんの二日で少女に成長します。
少女はカグヤと名乗り、本来の目的を知らないまま翁と暮らすことになりますが、やがてカグヤに隠された秘密が明らかになります。
スノーホワイト/ホワイトアウト
この世界では女王が唯一無二の存在で、いつも鏡に自分を褒めさせていました。
そんなある日、雪が降って女王は驚きます。
この世界のありとあらゆるものには女王の分子サイズの肖像が刻まれているはずですが、雪にはそれがなかったのです。
バグはこれだけにとどまらず、今度は雪のように白い人型の影、白雪姫が現れます。
白雪姫は始末しても現れ、女王の苛立ちは募りますが、やがてこの世界で起きていることが明らかになります。
〈サルベージャ〉vs 甲殻機動隊
未来の話。
ガンマ線バーストが直撃して数十年が経過した、木星の第二衛星であるエウロパ。
そこには甲殻機動隊がいました。
甲殻機動隊はカニ、テナガエビなどの甲殻類で構成されています。
エウロパはトランスヒューマンの植民地の一つでしたが、彼らはなぜかいなくなってしまい、甲殻類だけが残されました。
甲殻類たちは知性化されていますが、問題を抱えていて、このままでは全員抑うつ状態になってしまいます。
そこで甲殻機動隊はトランスヒューマンたちの構造物を調べることで、なぜ彼らがエウロパを去ったのか知ろうとしますが、そこには恐ろしい真実が隠されていました。
モンティ・ホールころりん
ガンマ線バーストが地球に降り注ぎ、人類は太陽系に広がっていました。
その中で多様化が進み、テクノクラートと名乗る派閥が生まれました。
彼らはテクノロジーを無制限に追求し、やがて姿を消してしまいます。
その後、お宝を求めてテクノクラートの遺跡を漁る人たちが現れ、おじいさんとおばあさんもその内の二人でした。
二人はとある小惑星を探索してテクノクラートのいた跡を見つけますが、進んだ先に二人を待っていたのは解答席でした。
アリとキリギリス
二人の男女がいて、女性がアリ、男性がキリギリスです。
アリとキリギリスは性格的に合わない二人でしたが、なぜか惹かれるものがありました。
ところがそんなある日、地球をガンマ線バーストが襲うことが判明します。
アリはガンマ線バーストが襲来するまでに準備を整えますが、キリギリスはそうしませんでした。
やがてガンマ線バーストが地球を襲い、二人の未来を大きく変えます。
感想
とにかくガンマ線バースト
タイトルにある通り、本書を語る上でとにかく言いたいのがガンマ線バーストです。
太陽が百億年間で放出するエネルギーをも上回るエネルギーで、仮に銀河系で地球方向に生じれば大量絶滅を引き起こすというとんでもない現象です。
本書ではどの短編においてもこのガンマ線バーストが登場し、生活を一変させます。
もうガンマ線バーストの大盤振る舞いです。
ところが、人類はもうこの程度では絶滅しないくらいに進化していました。
もうめちゃくちゃな設定で、それゆえに細かいことを気にせず楽しむことができます。
ギャグが満載
本書ではガンマ線バーストが平気で登場するくらいなので、基本的に何でもありです。
竹取の翁は超科学的な考え方をするし、彼の切ろうとする竹も抵抗してくるような理解を超えた存在です。
あり得ないことをトンデモ理論で説明する様はもはやギャグで、本書ではそんな面白いネタが無数に仕込まれています。
おそらくこういった作品の原点を愛する、あるいは研究する人からすれば本書は邪道かもしれません。
もしくは単純にノリについていけないという人もいるかもしれません。
本書はとにかく尖りすぎてて、人を選びます。
しかし、それゆえにSF+ギャグという組み合わせをすんなり受けいれられる人からすればこの上ないほど魅力的な作品といえます。
僕からすればまさに大好物で、今後これほど緻密にぶっ飛んだ作品には早々出会えないのではと思っています。
考えさせられる一面もある
終始ふざけていますが、そうでない部分もあります。
不意に感動させられたり、背筋を凍るような恐怖に襲われたりと、読者の隙をついて強烈な感情をぶつけてくるシーンもあります。
こういった部分があるからこそギャグだけで終わらない魅力があり、本書の評価をより高めているのだと思います。
おわりに
ふざけたタイトルとふざけた内容。
そこに思わずうなってしまうような真理も含まれていて、真面目な方面でもギャグ方面でも大満足の一冊でした。
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