伊藤計劃『ハーモニー』あらすじとネタバレ感想!ユートピアの臨界点で待つ結末とは?
21世紀後半、“大災禍”と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
「BOOK」データベースより
明示こそされていませんが、本書は伊藤計劃さんの『虐殺器官』の後の世界を描いています。
伊藤さんは2009年に三十四歳という若さで亡くなっていますが、本書は彼の死後も人々に影響を与え続け、2015年には映画化されています。
前作『虐殺器官』とは打って変わり、一見優しさや思いやりに満ちたユートピアのような世界観ですが、実はそうでないことはすぐに分かります。
こんな未来が訪れるかもしれない。
想像するだけで怖くなり、でも決してあり得ないとも言い切れないからこそ本書を読む手が止まりませんでした。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
世界観
前作『虐殺器官』で起きた『大災禍(ザ・メイルストロム)』から半世紀が経過。
世界は戦争と未知のウイルスによって大打撃を受け、新たな統治機構『生府』による立て直しを図ります。
人類は得た教訓から福祉厚生に力を入れ、大人になるとWatchMeというデバイスを体内に入れることにしました。
これによって体の恒常性は保たれ、酒やタバコといった体に害のある嗜好品は一切禁じられました。
病気になっても対抗するために必要な物質は容易に造り出すことができます。
病気から解き放たれる代わりに、人類は自由を失いました。
新世代の人類は互いを慈しみ、支え合うのが当たり前で、そこから外れる人間は徹底的に矯正されます。
息の詰まるような優しい世界。
この物語は、そんな世界に敵意を向ける女性たちが主人公となります。
世界を憎む女性
霧慧トァンは螺旋監察官として、世界中の人間が健康的で人間的な生活を送れているのかを査察し、場合によっては介入していました。
現在の人類の在り方を支える大事な仕事ですが、トァンはこの優しすぎる世界を憎んでいて、螺旋監察官という立場を利用して紛争地帯に身を投じます。
そこで今では禁止されている酒やタバコが手に入り、トァンは自分の中のWatchMeを騙すことでそれらを楽しみ、自由を得ていました。
ところがトァンの一連の違反行為が上司の知るところとなり、彼女は日本に強制帰国。
再びユートピアのような地獄に身を投じることとなりました。
同時多発自殺
帰国後、トァンは学生時代の友人・零下堂キアンと食事をとります。
彼女とはかつて拒食による自殺を一緒に図ったことがあり、それは失敗に終っています。
キアンはすっかり模範的な善良な市民になっており、トァンとは微妙な距離があります。
ぎこちない食事の時間が進む中、それは突然起こりました。
キアンがテーブルナイフで自分の首を突き刺し、自殺したのです。
それだけでも驚きですが、事態はそれだけにとどまりませんでした。
同様の事態が世界中で起きていて、その数は六五八二人。
未遂に終わった人もいますが、何か異変が起きていることは間違いありませんでした。
新しい世界
同時多発テロが疑われる今回の事態。
トァンは謹慎中の身に加えて友人の自殺を目撃したことによる心理的外傷を理由に捜査から外されますが、自分がした違反行為を公表すると脅迫することで無理やり捜査権を得ます。
しかし、猶予は五日間だけです。
唯一の手掛かりは、死ぬ前にキアンの遺した『御冷ミァハ』の名前。
ミァハはトァンとキアンと共に自殺を図り、唯一亡くなった少女でした。
トァンはいつまでも自分の中に影を落とすミァハを追い、やがて亡くなったはずの少女と今回の騒動の関係、そしてこれから迎えようとしている新たな世界を目撃するのでした。
感想
優しく息苦しい世界
本書には基本的に悪い人が登場しません。
表面的には皆穏やかで、他者を思いやる優しさを持っています。
しかし、そこに人間らしさはなく、まるでそうプログラムされた人形のようで、ある種の恐怖を抱かざるをえません。
トァンの抱いている違和感や嫌悪感は読者である僕らが抱えるものと同じで、このユートピアのような世界が決してそんな理想郷でないことを明示してくれています。
真綿で締められるような、優しく息苦しい世界。
本書は究極の未来を描いたに過ぎませんが、こんな未来がこないとは誰も言い切れないし、もしそうなった場合のことを考えると途方もない絶望感がこみ上げてきます。
一笑することの出来ない強烈なインパクトと説得力が本書にはあり、それが本書の最大の魅力だと思います。
伊藤計劃作品で一番おすすめ
伊藤さんは作家デビューして間もなく亡くなってしまったので、著作自体数えるほどしかありません。
その中で一番のおすすめを挙げるのであれば、僕は本書を迷いなく推します。
今とはかけ離れた世界なのにスッと理解できるほど緻密に世界が構成されているので、非常に読みやすいです。
そのおかげで没入感もすさまじく、得体の知れない不安、恐怖が常につきまとい、まるでハーモニーを何よりも重視する地獄に迷い込んでしまったような錯覚すら覚えます。
また映画の、原作との親和性が非常に高く、お互いを補完するような役割も担っています。
どちらも経験することではじめて十二分に『ハーモニー』という世界観を楽しむことができますので、ぜひ小説から入った人は映画を、映画から入った人は小説にも挑戦してみてください。
おわりに
ユートピアの臨界点。
一見ミスマッチに思えるのに、これ以上ないほどに本書を表現したこのフレーズが大好きで、このあらすじを書いた人は天才だと思います。
ぜひ間違ったユートピアの行く先を見届けてください。
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