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森絵都『つきのふね』あらすじとネタバレ感想!青春では片付けらない闇とその先の光を描く物語

harutoautumn
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あの日、あんなことをしなければ…。心ならずも親友を裏切ってしまった中学生さくら。進路や万引きグループとの確執に悩む孤独な日々で、唯一の心の拠り所だった智さんも、静かに精神を病んでいき―。近所を騒がせる放火事件と級友の売春疑惑。先の見えない青春の闇の中を、一筋の光を求めて疾走する少女を描く、奇跡のような傑作長編。

「BOOK」データベースより

森絵都さんといえば『カラフル』や『DIVE!!』を挙げる人が多いと思いますが、僕はこの『つきのふね』を特に推します。

第36回野間児童文芸賞を受賞した作品ですが、万引きや麻薬、売春の斡旋や心の病気と取り扱う内容は重ため。

友情を描いた青春小説である一方で、ノストラダムスの大予言を組み込むことで未来への不安、生きることと死ぬことのどちらが楽か、など中学生の主人公たちではとても答えが出せないような難問が問いかけられます。

しかし、作品を通して感じられるどこか幻想的な雰囲気、優しい文章がそういった重たいテーマを和らげ、最後には明確ではないけれど心が救われるような答えが出る、そんな内容になっています。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

裏切り

ノストラダムスの大予言がそこまで迫る一九九八年。

世間では予言が実現するのではと見えない不安が漂う中、主人公の中学生・さくらは問題を抱えていました。

彼女は親友の梨利や仲間とともに万引きに手を染め、ある日、さくらが捕まってしまいます。

その際、仲間を売らないことが約束となっていたのに、さくらは思わず梨利に助けを求めてしまいました。

結局、捕まったのはさくらだけですが、それ以降、さくらは他の友達だけでなく梨利からも距離を置かれてしまうことになります。

唯一の心の拠り所

さくらは万引きをして捕まったあの日、戸川智に逃がしてもらい、それ以来、智の家に遊びに行くようになりました。

優しくて、おいしいミルクコーヒーをくれて、どこか不思議な人。

智は誰かに頼まれ、全人類が地球から脱出するための宇宙船の設計を行っていました。

さくらは事情を聞かず、ただ智と一緒にいる時間に浸ります。

しかし、二人だけの時間は長く続きませんでした。

かつてさくらと梨利と三人で行動を共にしていた勝田が割って入ってきたのです。

勝田は梨利が好きですが、さくらと梨利がギクシャクしたことを心配し、仲直りのきっかけを作ろうとさくらを追いかけまわしていたのです。

さくらはささやかな幸せを脅かす勝田を疎ましく思いますが、次第にこんなことは不幸のはじまりに過ぎなかったことを思い知ります。

嘘の予言

智は前から心の病気を患っていましたが、ここにきて症状が悪化。

どんどん現実と妄想の境目が曖昧になり、自分の体を傷つけるようになります。

どうにもできないさくらですが、勝田は智の関心を宇宙船から外そうと嘘の予言が書かれた古文書を作って智に見せます。

そこには真の友や四人集いし時、月の船が舞い降りて人類を救うということが書かれていました。

当然、こんな嘘を智が信じるわけがないし、勝田も本当にそうなると思っていたわけではありません。

しかし物語の終盤に、この予言が重要な意味を持ちます。

加速する不幸

智の件だけでもさくらと勝田は消耗しているのに、加えて梨利が売春の斡旋容疑で取り調べを受けます。

梨利は理由を聞かされずに悪い人間の指示に従っただけですが、売春だとは薄々と気が付いていました。

梨利は部屋に閉じこもり、勝田の声は届かず、さくらは声を掛けることすらできません。

これ以降、さくらと勝田は学校が終わると智、梨利を訪ねる日々を送りますが、次第に二人は消耗していき、智の症状はもう見過ごせないところまで悪化していきました。

月の船

さくらは病院に行こうと智を説得しますがうまくいかず、彼の作った宇宙船には乗らないと突き放します。

すると、智は失踪。

さくらはパニックになりますが、勝田には智の行き先が分かりました。

その日は一九九八年最後の満月の日であり、勝田が予言に書いた日でした。

智は予言を頼って、そこに書かれたさくらや勝田の母校である小学校に向かったのです。

二人は慌てて向かおうとしますが、予言では真の友が四人とあり、梨利が足りません。

月の船がないのはいいとして、真の友が四人揃わなくては予言を信じた智の心が本当に壊れてしまいます。

二人は電話で梨利を必死に説得し、来てくれることを祈りながら智がいるであろう小学校に向かいます。

そして、そこで思いがけない出来事が二人を待っていました。

感想

青春としてはかなり苦い

最近、重松清さんの『きみの友だち』を読んだばかりだったので、本書もあらすじ的にそんなテイストかな?なんて思いながら読み始めました。

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しかし、序盤から重たい話が続き、読み進めれば進めるほど問題が現れ、一向に救いの手が現れない。

理解のある人がいて協力してくれるのに、それでも良い方向に向かないという現実の厳しさを突きつけられました。

単純に仲違いした少女二人が仲直りして、男子の片想いが成就する、なんてハッピーエンドを思い描くと、痛い目を見るのでご注意ください。

得体の知れない恐怖

平成以降に生まれた方からすると、ノストラダムスの大予言といわれてもあまりピンとこないかもしれません。

そういう僕も当時、小学生で世間が騒いでいることなんて全く気が付きもしませんでした。

しかし、後になって過去のニュースなどを見ると、こんなにわかには信じられない予言が世の中に浸透し、いかに人々が不安を感じていたかが分かります。

本書はこの予言が背景にあることで、もしかしたらこんな不安も的中するのでは?という雰囲気が漂っています。

さらに智について、はじめはさくらの視点でのみ描かれているので、優しくてどこか不思議な魅力のある大人として描かれています。

ところが、勝田がここに入ることで徐々にその仮面が剥がれ、彼の本当の姿が見えてきます。

しかも智は会うたびに元々の心の病気を悪化させ、さくらは理解できずにただ得体の知れない恐怖だけを感じるようになります。

親友の梨利との問題を抱えた上でのこれですから、気が狂ってもおかしくないような地獄絵図ですよね。

『つきのふね』は月の光の下で広がるような、どこか幻想的な雰囲気があるのでそこまで深刻に捉えずに済みますが、こういった点も青春小説と呼ぶにはかなりキツめな内容かなと思います。

みんなを救ってくれる月の船

智の考案した宇宙船。

ノストラダムスの大予言。

そんなものありはしないのに、いつも忘れた頃に心に引っ掛かってきます。

そして、勝田が智のことを思って考えた嘘の予言。

そこには月の船が登場することが書かれています。

これも起こりえるはずのないものですが、最後にこの予言、そして月の船が物語における重要な役割を果たします。

結末にちょっと物足りなさを感じつつも、綺麗に物語がまとまったことにホッとしました。

おわりに

森さんの書く文章は特に人間の内面を的確に捉えていて、しかもそれを表現するのがとても上手なんだと本書で改めて実感しました。

同年代の少年少女が共感することはもちろんのこと、大人にとっても本書はとても刺さる内容ではないかと思います。

むしろ色々な事情が分かるからこそ、大人にこそ読んでほしい一冊です。

何か明確な答えが出たわけではないのに、救われた気がした。

そんな不思議で、どこか温かい読了感を本書は与えてくれます。

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