小説

『ショートショートドロップス』あらすじとネタバレ感想!豪華女性作家陣が送る多彩な短編集

豪華執筆陣!どこから読んでも楽しめる、ショートショート・アンソロジー。著者と収録作品(五十音順)
新井素子「のっく」/上田早夕里「石繭」/恩田陸「冷凍みかん」/図子慧「ダウンサイジング」/高野史緒「舟歌」/辻村深月「さくら日和」/新津きよみ「タクシーの中で」/萩尾望都「子供の時間」/堀真潮「トレインゲーム」/松崎有理「超耐水性日焼け止め開発の顛末」/三浦しをん「冬の一等星」/皆川博子「断章」/宮部みゆき「チヨ子」/村田沙耶香「余命」/矢崎存美「初恋」ある朝やってきたベビーシッターはぬいぐるみ!?(「初恋」)
アルバイトで着ぐるみのウサギの頭を被ると不思議なものが見えて――(「チヨ子」)
短くて、すらすら読めて、面白さ太鼓判!とびきりのお話を新井素子が厳選。
いろんな味が詰まったドロップの缶詰のように、ときめきや切なさ、驚きに怖さも、読み心地さまざまな15の物語。ものの数分で非日常の世界へと連れて行ってくれる、豪華執筆陣による極上のショートショートアンソロジー。

Amazon商品ページより

本書は新井素子さんが選者として15のショートショートを集めた作品です。

女性作家限定ということで、女性ならではの細やかな気付きや描写が楽しめます。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

ショートショートの定義

冒頭、新井さんはショートショートの定義について語っています。

これは人により考え方が異なり、明確にこれでなければショートショートとはいえない、という定義はありません。

よく言われる定義として

・完全なプロット

・新鮮なアイディア

・意外な結末

が挙げられますが、作品が出れば出るほどアイディアは枯渇し、全てを満たすことは難しくなります。

さらにページ数も問題で、理想をいえば原稿用紙十~二十枚くらいですが、実際の短編のほとんどがそれ以上なので、本書では四十数枚くらいまでは許容することを明言しています。

それでも隙間時間で読めてしまうくらいの文量なので、長時間小説が読めないという人でも問題なく読むことが出来ます。

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あらすじ

『初恋』矢崎存美

出典元は『ぶたぶた』です。

私はいつものベビーシッターを待っていました。

ところが現れたのは、いつものベビーシッターの上司である山崎ぶたぶたでした。

代役は分かりますが、私は驚きます。

山崎はどこからどう見てもぶたのぬいぐるみでした。

『チヨ子』宮部みゆき

出典元は『チヨ子』。

わたしはスーパーのバーゲンのアルバイトで、くたびれた小汚い着ぐるみを着ることになります。

埃臭くてうんざりしますが、着ぐるみの目を通して周囲を見ると驚きます。

人間がみなぬいぐるみやおもちゃなど別のものに見えるのです。

『舟歌』高野史緒

出典元は『人工知能の見る夢は AI ショートショート集』。

ピアニストのヴィは華々しくデビューするも、現在はピアニストに報酬が支払われることなどほとんどなく生活に苦しんでいました。

そんな時、友人伝いで短時間・高報酬の依頼が入り、ヴィは依頼主であるエイチ博士と会います。

エイチ博士の依頼とは、音楽AI・ピィ君にピアノを弾いて聞かせることでした。

『ダウンサイジング』図子慧

出典元は『人工知能の見る夢は AI ショートショート集』。

ぼくは小説家として食べていけないものの、小説を書くことを生きがいとしてきました。

ところが若年性認知症になり、生きる希望を失ってしまいます。

その時、医師から開発中の治療法のモニターを依頼されます。

これからぼくが経験するのは、脳のバージョンダウンでした。

『子供の時間』萩尾望都

出典元は『美しの神の伝え~萩尾望都小説集~』。

アーシは帰路の途中で漂流する宇宙船を見つけます。

接触すると、船の第二コンピューター・ディマが事故の経緯を答え、生存者を救ってほしいと頼みます。

アーシが宇宙船に乗り込むと、中にいたのは九歳の痩せた少女でした。

『トレインゲーム』堀真潮

出典元は『抱卵』。

本作品の世界では『トレインゲーム』なるものが認められていて、このゲームに勝つことで合法的に電車内の席を奪うことが出来ます。

勝ち負けだけでなく、見ず知らずの人間との戦いは緊張感があり、乗客にとっても娯楽となっていました。

『断章』皆川博子

出典元は『影を買う店』。

本作品は非常に幻想的で、言葉にすればするほど描かれていることと離れていく気がします。

あえて何も書かないので、ぜひその世界にどっぷり浸かってください。

『冬の一等星』三浦しをん

出典元は『きみはポラリス』。

映子は八歳の時、たまたま親の車の後部座席に寝ていて、文蔵という男がその車を盗んだことで結果的に誘拐されてしまいます。

文蔵は自分の犯した罪について語らないものの、映子に優しくしてくれます。

こうして誘拐犯と人質の奇妙で短い旅が始まります。

『余命』村田紗耶香

出典元は『殺人出産』。

医療が発達し、死がなくなった世界。

人口が爆発するかと思いきや、人々は自分の思ったタイミングで自殺するようになりました。

『さくら日和』辻村深月

出典元は『ネオカル日和』。

美樹は『ひらかわ』のたい焼きが大好きでしたが、今のお小遣いではたい焼きに回すお金はありません。

そんなある日、公園にいる美樹に『坊ちゃん』と従業員から呼ばれるひらかわの二代目が声を掛け、たい焼きをタダでくれます。

その日以来、美樹は二代目のことが気になって仕方ありません。

『タクシーの中で』新津きよみ

出典元は『俳優 異形コレクション13』。

タクシーの運転手は山の中で一人の男を乗せます。

男の挙動は怪しいですが、それもそのはず。

男は殺人を犯していたのでした。

『超耐水性日焼け止め開発の顛末』松崎有理

出典元は『5まで数える」』。

ヨーコは汗でも落ちない超耐水性日焼け止めを二年かけて開発しますが、思わぬ結末が待っていました。

『石繭』上田早夕里

出典元は『夢みる葦笛』。

私が通勤の途中で見つけたのは、人間が入れるくらい大きな白い繭でした。

好奇心を持って近づくと繭は割れ、中から無数の宝石のような石が飛び出します。

そして、『他の石も拾え……』という声が聞こえました。

『冷凍みかん』恩田陸

出典元は『朝日のようにさわやかに』。

私は大学時代の友人と一緒に旅行に出かけ、駅の売店で冷凍みかんを見つけます。

それは売り物ではないと口にした店主は倒れ、残された手紙にはこの冷凍みかんを箱にいれて、安全なところにしまってほしいということが書かれていました。

『のっく』新井素子

出典元は『ちいさなおはなし』。

私の家の近くの公園には大きな楠がありました。

ある日、知らないおばあさんが楠をノックすると、澄んで気持ちの良い音がしました。

それからも私は楠をノックする人を人生で目撃しますが、やがてその正体に気が付きます。

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感想

書き下ろしではない

感想に入る前に一点だけ注意事項をお伝えしておくと、本書に収録されている短編はどれも既出で、書き下ろしではありません。

僕はそうとは知らずに手をとりましたが、幸いなことにほとんどがはじめて読んだ短編だったので、特に問題はありませんでした。

本書の執筆陣を複数人追いかけているという人は、もしかしたらすでに読んだことのある短編が多めかもしれません。

心配な人は購入前に収録作品を調べることをオススメします。

個人的には既出作品でもこういったショートショートの作品集に収録されることで違った役目、魅力を持つと思っているので、すでに読んだことのある短編でも本書でもう一度読む価値は十分にあると思います。

SFテイストが多い

本書に収録されている短編の多くは、ジャンル分けするとすればSFにカテゴライズされます。

ショートショートという特性上、どうしても短い文章の中で話を広げてオチをつける必要があるので、常識が通用しないSFというジャンルは相性が良いのだと思います。

SFといっても純粋なサイエンスフィクションもあれば、どうにも説明のできないような不思議体験までかなり幅広くラインナップされています。

一つ一つが短く短時間で読めてしまうので、SFに興味がないという人にもぜひ読んで欲しい一冊です。

好きな作家を見つける入門書

僕が本書を読んで良かったと思ったのは、知らない作家さんを見つける良い機会になったことです。

本書を手にとったのは大好きな皆川博子さん、辻村深月さん、恩田陸さんの作品が収録されていたからでしたが、読了後の印象としては今まで読んだことのなかった作家さんの作品の方が強いくらいでした。

特に図子慧さん、村田紗耶香さん、松崎有理さん、上田早夕里さんのことを知れたのは大発見でした。

村田さんは『コンビニ人間』で知ってから追いかけようと決めていたので、その決意がより強固になりました。

図子さんの文章は無機質に見えて切なさがあり、ぜひ長編で読みたいと思える魅力がありました。

松崎さんの作品は単純に自分と相性が良いように感じ、期待通りの作品が読める予感。

上田さんの作品は世界観がとにかく素敵で、自分に合うかどうかは分かりませんが、ぜひ別の作品も読んでみたいと思えるほど衝撃的な出会いでした。

おわりに

まさに色々な味の詰まったドロップの缶詰のように多彩な物語が集まった作品集です。

ぜひ本書をきっかけに新たな作家さんや作品を知り、読書の幅を広げてもらえればと思います。

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