『魍魎の匣』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物―箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。
「BOOK」データベースより
京極夏彦さんの作品の中で、一般的に知名度が一番高いのはおそらく本書ではないでしょうか。
妖怪シリーズ二作目ですが、本書から読んでも十分楽しめます。
文庫本にして千ページを超える大作で、その厚さ・重さを楽しむのもいいですし、上・中・下の分割版で楽しむのも良いと思います。
物語は複数の事件が絡み合って把握が難しくなっているので、この記事を読んで頭の整理をしてもらえればと思います。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
上巻
憧れ
楠本頼子は学校でお金持ちのお嬢様たちに囲まれ、苦痛を感じていました。
そんな中で、同級生の柚木加菜子だけは違いました。
加菜子は誰よりも聡明で、気高くて美しく、十四歳にして達観していて、頼子はそんな彼女に憧れを抱きます。
ある日、加菜子から話しかけられて二人の交流は始まり、他の誰も教えてくれないことを教えてくれる加菜子に、頼子は日を追うごとにはまっていきます。
一方、加菜子に飽きられてしまうのではという恐怖に襲われ、なぜ自分と一緒にいてくれるのかと問います。
それに対して加菜子は、頼子は自分の生まれ変わりなのだと答えました。
お互いが生まれ変わったら、加菜子は頼子に、頼子は加菜子になるのだと信じていました。
加菜子は頼子と永遠に一緒なのだと話し、頼子もその言葉を信じます。
一方で、頼子は家庭に問題を抱えていました。
頼子はひな人形の頭師である母・君枝に育てられますが、必要以上に男の出入りが激しいこと、また日に日に老いていく君枝に耐えられず、疎ましく思っていました。
そんなある日、頼子は加菜子から最終電車に乗って遠出しようと誘われます。
遠くの湖に映る月を見るのだと。
頼子にとってこれ以上素敵な提案はなく、加菜子と駅で待ち合わせますが、加菜子は目を赤く泣き腫らしていました。
加菜子の項の下に、にきびが見えます。
そこで頼子の記憶が途切れます。
飛び降り?
刑事の木場修太郎は頼子から事情聴取をし、引き出したのが上記の内容でした。
こうなった経緯はこうです。
木場は勤務を終えて電車に乗っていましたが、降りる駅である武蔵小金井駅で電車が急停車。
人が線路に飛び込んで電車とぶつかったことが分かりますが、その人物が加菜子でした。
幸い、まだ息はありますが、目撃者は頼子だけ。
しかも頼子は加菜子が自分で飛び込んだのか、それとも誰かに突き落とされたのかよく覚えていません。
本来、木場が出る幕ではありませんが、追加の人間が来るまではと頼子の相手をしていたのでした。
巡査の福本が駆け付けますが、木場はそのまま福本、頼子を連れて加菜子の搬送された病院に向かいます。
加菜子は生死の狭間をさまよっていますが、まだ死んではいません。
すると、そこに加菜子の関係者が三人現れます。
加菜子の保護者だという雨宮、弁護士の増岡、そして加菜子の姉を名乗る陽子でした。
木場は陽子に見覚えがありました。
彼女は木場がずっと片想いをしている元女優の美波絹子だったのです。
陽子たち三人の関係はよく分かりませんが、加菜子の生死についてこだわっていることは分かります。
陽子は加菜子を死なせないために、懇意にしている名外科医の元に転院させることを決めました。
バラバラ殺人事件
小説家の関口巽は、『蒐集者の庭』で新人賞を獲得した久保竣公と知り合いますが、この時は好きなタイプではないという感想だけで終わります。
久保は指が何本か欠損しているのか、手袋をしていました。
その後、関口のもとを出版社の編集者・鳥口が訪れます。
鳥口の依頼は、今世間を賑わせているバラバラ殺人事件の記事の執筆でした。
鳥口は関口の知人である木場が捜査に加わっていることを把握していて、関口を事件現場に連れて行くことで警察からの情報提供があるのではと期待していました。
気の弱い関口は押し切られる形で、鳥口と死体遺棄現場である相模湖に向かいます。
事件について、現場にいた刑事から教えてもらえました。
昨日の朝、国道二十号線で若い女性の右腕が見つかり、今朝、この現場で両足が見つかったのです。
そして、両足は鉄の箱に入ってました。
場所が神奈川県ということで木場は捜査に参加していませんでしたが、代わりに勝手な単独行動で違う事件に首を突っ込んでいることが判明します。
その後、同じく現場に来ていた新聞記者・中禅寺敦子を車に乗せ、敦子の兄で関口の友人・秋彦(通称・京極堂)の考えを聞きます。
一方、鳥口はその方向音痴によって本来通るべき道とは全く違う道を通り、やがて巨大な箱のような建物・美馬坂近代医学研究所に辿り着きます。
そこにはなぜか多くの警察官がいて、木場もいました。
木場は関口たちが事件に無関係であることを説明する代わりに、事情を伝えずに三人を追い返すのでした。
御筥様
加菜子の事件から何日も経ちますが、頼子は事件の日のことがよく思い出せないまま無気力に過ごしていました。
そんなある日、家によく出入りする笹川の紹介で新興宗教『穢れ封じ御筥様』教主である寺田兵衛が現れ、この家には魍魎がとりついていて、売り払って浄財として寄進することが唯一の解決方法だと説明します。
胡散臭い話でしたが、寺田は他人が知るはずのない君枝の事情を言い当て、君枝は御筥様にはまっていきます。
一方、頼子は加菜子との日常をなぞっていくうちに、加菜子が真っ黒い服を着た男に突き落とされたことを急に思い出し、福本にそのことを伝えます。
頼子はその場で加菜子がまだ生きていることを知り、福本に強く訴えかけることで美馬坂近代医学研究所に連れて行ってもらいます。
加菜子の正体
なぜ加菜子の死に警察含めてこれだけの人数の人間が動くのか。
木場は部外者なので詳しい話は聞けていませんが、加菜子が日本の富の何分の一を手中にしているという、とある財界の大物の直系であることが判明しました。
陽子たちは、財産分与などで討議していたことが予測されます。
そして、もし犯人がいるのであれば加菜子の死を望んでいるはずであり、その魔の手から加菜子を守るために警察は美馬坂近代医学研究所に張り込みます。
木場も命令を無視し、研究所に一週間もいます。
そこに福本と頼子が現れ、新たな供述によって事件はますます複雑になっていきます。
木場は二人を連れて陽子たちのもとに行くと、頼子の話を聞かせます。
話を聞くうちに、男は手袋をしていたことが明らかになりました。
その後、加菜子との面会が許可され、一同は加菜子のいる集中治療室に向かいますが、そこにはミイラのように顔以外を包帯で覆われた加菜子が横たわっていました。
加菜子の意識はあり、にこりと笑いますが、すぐに面会は終了。
研究所の所長である美馬坂幸四郎、助手の須崎が診察でやってきて、須崎は金属の箱を持っていました。
ところが美馬坂たちがベッドに向かうと、そこには加菜子の姿はありませんでした。
霊能者
関口ははじめての単行本を出すことになり、雑誌に掲載した作品を全て載せることになりましたが、その掲載順で悩んでいました。
そこに鳥口が現れ、バラバラ殺人事件の続報を知らせます。
事件が大きくなってしまったのでスクープは狙えず、代わりに鳥口は御筥様について取材していました。
鳥口は取材した信者の大多数が不幸になっていることから、御筥様はインチキだと考えていて、その相談を持ち掛けたのでした。
関口は自分より適任がいるとして、単行本の掲載順の相談も込みで京極堂のもとを訪ねます。
京極堂は陰陽師であり、何がペテンなのか、霊能者とはどういったものなのかをはじめに説明。
それから鳥口は、御筥様の信者である清野という男から信者の名簿を買い取ったことを明かします。
ここから話はバラバラ事件と繋がります。
これまでに四人の被害者が確認されていますが、ほとんどが身元不明です。
警察は十三人までに絞っていて、そのうちの七人は御筥様の信者の娘だったのです。
鳥口は御筥様がバラバラ事件に関与していると考え、その点から摘発したいと考えていました。
一方、関口は名簿の中に久保の名前を見つけます。
中巻
謹慎
木場は命令無視の結果、一ヶ月間の自宅謹慎を言い渡されました。
自宅で加菜子がいなくなったあの日のことを思い出します。
突然の失踪に警察が混乱する中、雨宮もまた姿を消してしまいました。
また、須崎は持ってきた小箱を抱えて真っ先に部屋を出ています。
木場は須崎が怪しいと思っていましたが、追及する間もなく彼は遺体となって発見されました。
そうなると、真っ先に疑われるのは失踪した雨宮です。
謹慎中の木場のもとに、部下の青木が訪ねてきます。
青木は加菜子誘拐事件の捜査情報を教える代わりに、木場の知恵を借りたいのだといいます。
まずは加菜子の事件について。
陽子は研究所のある森の中で黒い服を着た、手袋をはめた男と出会ったのだと証言していますが、状況から嘘だと木場はすぐに気が付きます。
木場は事件後、陽子の部屋に行きますが、そこで陽子の持っていた脅迫状を見つけていました。
加菜子を誘拐した、命が惜しければ大金を用意しろという内容でした。
しかし脅迫状にも不自然な点があり、警察は狂言誘拐の線も考えています。
情報提供が終わると、ここからは青木の相談で、彼はバラバラ殺人事件について捜査していました。
最初の体の一部は鉄の箱に入っていましたが、残りは木の箱に入っていたこと、現場で木場の知り合いである関口と会ったことを話します。
そして、青木の相談はここから。
四人目の被害者は柿崎芳美だと判明していますが、彼女は失踪する直前に黒い服を着て手袋を嵌めた男と歩いているところを目撃されています。
夏に手袋を嵌めている人間などそういないことから、青木は手袋を嵌めた人物が加菜子の事件にも関係しているのではと考えていました。
木場としては信じられない気持ちでしたが、これでやる気になり、バラバラ殺人事件の検死を担当した里崎に会いに行きます。
二つの事件の関係
加菜子の事件とバラバラ殺人事件は同時期に起きていますが、血液型と時期から加菜子がバラバラ殺人事件の被害者ではないことが分かっています。
それから被害者は生きているうちに切られていることから、切るために殺害された可能性があります。
美馬坂は不死の研究をしていたことから、人体実験という言葉が思い浮かびます。
木場はここでも関口の名前を聞きます。
関口は里村を訪れ、御筥様の信者名簿の写しを置いていったのだといいます。
木場は名簿を見ます。
すると、そこには頼子の母・君枝の名前があり、ここでも二つの事件が交わります。
木場は少しずつ真実に近づいているのを感じるのでした。
探偵
京極堂や関口の学生時代の先輩で、木場の幼馴染である榎木津礼二郎。
彼のもとに依頼人として現れたのは増岡でした。
榎木津は他人の記憶を見ることができるため話が混乱しますが、増岡の依頼は加菜子の捜索でした。
そして増岡は、加菜子は陽子の娘であることを明かします。
事の経緯はこうです。
関東でも一二を争う財界の巨頭に柴田財閥があり、創業者の孫に弘弥という人物がいました。
弘弥は役者や芸人にはまり、その中で陽子と出会って恋愛関係に発展します。
二人は駆け落ちをしますが、一日で追手に捕まりそれで終わりかと思われました。
ところが、陽子は妊娠。
加菜子が生まれ、創業者である耀弘はいくつかの条件の上で弘弥と陽子が二度と会わないようにして、その約束が果たされることを見届けさせるために雨宮を送り、陽子たちの側に置きました。
問題はここからです。
最近になって耀弘が亡くなりますが、彼は死ぬ間際、財産の全てを加菜子に譲ると言い出したのです。
増岡は陽子から加菜子に事実を告げ、加菜子の意思で判断できる状況を作るのが目的でした。
ところが加菜子は失踪。
耀弘が亡くなった今、遺言は執行されなければなりませんが、現段階では加菜子の生死が分からないため、どうすることもできません。
そこで榎木津に加菜子を探してもらい、生死を確かめたいということです。
榎木津は増岡の話を口外してはいけないと言われていましたが、すぐに明かしてしまいます。
そこには京極堂、関口、鳥口がいました。
鳥口が御筥様について調べたことを話す中で、木場も合流します。
京極堂はこれまでの情報で事件についてある程度分かったようで、後味が悪いものだと話します。
御亀様
関口は榎木津の運転する車で楠本家を訪ねます。
最初の訪問で留守だったため、二人は喫茶店に立ち寄ります。
そこで会ったのは久保でした。
久保は榎木津から加菜子の写真を手渡されると、知らないはずなのに明らかに動揺していました。
久保を置いて喫茶店を出て再び楠本家に向かうと、二人は頼子と会います。
頼子は誰かと会うためにいなくなりますが、今日は平日で学校があるはずです。
学校をさぼって、誰に会うのか。
久保はこの近くに住んでいるのか。
様々な疑問が湧く中、家の扉が開き、君枝が現れます。
君枝は自身が魍魎だと考え、自殺して、頼子にこの家を残したいと考えていました。
全て御筥様と出会った結果です。
すると、榎木津は関口のことを日本でも指折りの霊能者『御亀様』だと嘘をつき、このままでは頼子の命が危ないことを伝えます。
もちろんでたらめです。
しかし効果はてきめんで、君枝の自殺を踏みとどまらせることに成功します。
一方、木場は陽子の家に行き、彼女のついた嘘について聞きます。
しかし、陽子はまだ隠し事をしているようです。
京極堂からは事件から手を引くよう言われていましたが、木場はますます事件にのめりこんでいくのでした。
勘違い
京極堂のもとに集まった関口と榎木津、鳥口。
鳥口は、御筥様になる前の寺田について調べていました。
寺田は腕の良い箱屋でしたが、一昨年の暮れぐらいから二十歳前後の若者が出入りしているのが目撃されています。
手袋をしていたことから、この男が久保である可能性が出てきました。
京極堂は何かに気が付き、青木がやって来ると頼子を保護するよう指示。
それから京極堂は以下の四つの事件の関連性について話し出します。
・柚木加菜子殺害未遂事件
・柚木加菜子誘拐未遂事件
・須崎太郎殺害及び柚木加菜子誘拐事件
・連続バラバラ死体遺棄事件
まずバラバラ事件について、犯人は久保だといいます。
最も証拠に欠けるため、今は頼子の保護が優先です。
鳥口の調査から見えてきたもの。
それは、御筥様は創られた霊能者であり、後ろで糸を引いているのは久保だということです。
久保は幼少期を福岡で過ごし、青年期は伊勢神宮の外宮の近くで暮らしていました。
御筥様の祝詞(のりと)は伊勢神宮の祝詞をよく知っている人物でないと作れないものであり、久保はうってつけの人物です。
頼子を保護したのは、一昨日彼女が会う約束をしていたのは久保であり、命の危険があるからです。
久保は御筥様の住所録の上から順番に見ていって、十四、五歳の少女だけを狙っていました。
次の順番は頼子です。
しかし、これでは話が成り立たなくなりますが、京極堂はこういいます。
最初に相模湖で発見された手足はバラバラ事件とは無関係だったのです。
二件目以降は久保によるものですが、一件目は違います。
しかし、京極堂は頼子の証言に出てくる手袋の男についても言及。
あれは久保ではなく、京極堂のことでした。
詳しくは関口の作品『目眩』に登場する京極堂をモデルにした殺し屋で、頼子の証言した人物そっくりなのです。
では、なぜ頼子はそんな嘘をついたのか。
それは、加菜子を突き落としたのが頼子だったからです。
動機はいくつかあります。
頼子は加菜子と自分を同一視し、いつしかその気持ちが強くなりすぎ、ついに加菜子が邪魔になってしまったのです。
加菜子がいなくなってから、彼女のように振舞っているのがその証拠です。
そして、加菜子を押すだけで殺害できるチャンスがやってきたため、魔が差してしまったのです。
事件後すぐは保身に走りますが、加菜子が失踪したことで頼子の罪は問われることがなくなり、彼女は喜んだのでした。
青木が一度電話のために席を外すと、京極堂は美馬坂と旧知の仲だったことを明かします。
元々は軍の命令で不死の研究をしていましたが、あまりに費用がかかるためとん挫したのだといいます。
その時、青木が電話を終えたかと思うと、血相を変えていいます。
武蔵境で木箱に入った両腕が見つかり、それは頼子のものだと。
下巻
退治
木場は京極堂の忠告を無視して捜査を続け、陽子が誰かに強請られていたことを突き止めます。
見た目を聞きますが、誰かはまだ分かりません。
一方、京極堂は今回の事件を重く受け止め、魍魎退治に乗り出します。
まずは御筥様です。
早朝、京極堂は霊能者、榎木津は弟子、関口は魍魎に憑りつかれたと嘘をついて寺田に会います。
京極堂は寺田が偽物、素人であることに気が付いていて、嘘を織り交ぜながらいかに愚かで危険なことをしているのか訴えかけます。
狼狽える寺田。
祭壇にはたくさんの箱が並んでいて、京極堂はそのうちの一つに久保の指が入っていることを見抜いていました。
秘密を暴かれた寺田は、完全に崩壊しました。
救いを求める寺田に対し、集めた魍魎をご喜捨のお金と共に返すしかないとアドバイス。
寺田の身の回りの世話をする二階堂が使いこんでしまった分がありますが、それもこの家を売り払うことで工面することを決めるのでした。
過去
寺田とのやりとりの中で、久保が彼の息子であることが判明します。
妻のサトは鬱病だったため、寺田が久保の面倒を見ていましたが、仕事ができる状態ではありませんでした。
やがて寺田は戦争に駆り出され、戻ってくると家には誰もおらず、箱の中に干からびた指が四本入っていました。
そして、一昨年になって大人になった久保が寺田の前に現れます。
久保の指はどういう経緯からは分かりませんが、寺田の作った鉄の箱に挟まれて切断されたのだということだけが分かりました。
サトはいつからか箱が怖くなって家を出ますが、その先でサトは自殺。
親戚の家に預けられますがそこでも疎まれますが、その親戚が亡くなった際に久保は財産を相続し、上京したのでした。
久保は寺田に憎しみをぶつけ、寺田は久保の下僕になりました。
御筥様の誕生です。
逃走
青木は刑事の木下と共に久保の自宅に行きますが、久保に逃げられてしまいます。
久保の家にはこれまでの被害者の捨てられていなかった部位だけでなく、手足を切断されて箱に詰められた頼子の死体もありました。
久保は指名手配されますが、その二日後、バラバラ遺体となって発見されるのでした。
京極堂の指示で榎木津、関口、鳥口は途中で陽子を拾って美馬坂の研究所に向かいます。
そこには、拳銃を持ちだした木場と美馬坂がいましたが、榎木津が木場を止めます。
遅れて京極堂が現れ、魍魎退治に伺ったと美馬坂と対峙します。
この場には青木や福本、増岡といった事件関係者が勢ぞろいしていて、事件の真実が京極堂の口から明かされます。
真実
はじめに京極堂は、陽子を強請っていたのは須崎で、彼女は美馬坂の娘であることを明かします。
しかし、美馬坂の娘であることは強請りのネタにはなりませんが、京極堂はまだそのことを伏せておきます。
それから加菜子について、彼女は柴田弘弥ではありませんでした。
須崎はこれをネタに陽子ではなく加菜子に接触を試み、加菜子は自力でこのことに思い至ってしまいます。
頼子と電車に乗ったのはこの時のことで、そこで頼子に突き落とされたのでした。
その後、陽子は加菜子を助けるためにはここしかないと美馬坂に十四年ぶりに連絡をとり、加菜子を研究所に搬送します。
しかし、美馬坂の考えは一般人とは異なっていました。
生きるとは生命活動を続けていることであり、元の状態に回復させる気など元からありませんでした。
美馬坂は加菜子の頭以外を破棄すると、全ての臓器を機械で代用しました。
この研究所そのものが加菜子の体の役目を果たしていたのです。
しかし、その維持には莫大なお金が必要となり、美馬坂は柴田の遺産を狙ったのでした。
ちなみに陽子の持っていた脅迫状は彼女の自作で、見せるつもりがなかったにも関わらず木場に見つかってしまい、話をややこしくしただけでした。
次に須崎のしたことについて。
加菜子の生命の維持するための資金が尽き、それが彼女の失踪した日でした。
死なれてしまうと柴田の遺産を受け取れなくなるため、柴田が亡くなるまで生かす、もしくは生きているふりを見せる必要があります。
そこで須崎は独自の方法で加菜子の手を生かし、それを定期的に送りつけるつもりでした。
これであれば加菜子が生きていると誤魔化すことができます。
バラバラ事件かと思われていた一件目の手足は加菜子のもので、雨宮がトラックで運ぶ途中に誤って落としてしまったのでした。
左手は須崎が持っていました。
ここからは加菜子失踪の日のこと。
木場たちが加菜子を見た時、彼女はすでに体の大部分を失っていました。
須崎は箱に加菜子の頭を入れただけなので、あの短時間でも消すことは可能です。
その後、須崎は簡易生命維持装置となっていた焼却炉に向かいます。
中にはすでに加菜子の左腕が入っていました。
しかし、すでに先客がいました。雨宮です。
雨宮は加菜子のことが好きで、警察がいる中で、彼女の左腕との密会を以前から楽しんでいました。
それが雨宮の見つけた幸福です。
須崎は無防備に左腕を取り出す雨宮を咎めますが、雨宮は須崎の持ってきた加菜子の頭を見つけました。
その瞬間、加菜子の腕を入れるつもりだった鉄の箱で須崎を殴り殺し、加菜子の頭を持って出奔したのでした。
次に登場するのは久保です。
久保は列車の中で雨宮と出会い、箱の中でまだ生きていた加菜子を見つけてしまいます。
久保は加菜子の幻影にとりつかれ、自分も同じ娘が欲しくなり、それを自分の手で作ろうとしたのでした。
もちろん、うまくいくはずがありません。
その後、久保は榎木津から見せられた写真で箱の娘が加菜子という名前であることを知り、喫茶店で頼子と会って美馬坂の研究所の存在を知ります。
結局、頼子での実験も失敗し、久保は美馬坂と会います。
しかし、久保はその方法を知ることはなく、自分が加菜子と同じく箱に詰められてしまうのでした。
そう、今一同がいるのは久保の中なのです。
そして、最後に明かされる真実。
加菜子は美馬坂と陽子の間にできた子どもだったのです。
つまり、加菜子は陽子の妹であり、娘でもあります。
陽子は美馬坂のことが好きで、母・絹子になり代わりたかったのです。
女優名を絹子にしたのはそういうわけでした。
罪が明かされた美馬坂と陽子ですが、京極堂たちの制止を振り切って久保の入った箱を持ってエレベーターで屋上に上がります。
そこで一同を待っていたのは、陽子と美馬坂の死体でした。
美馬坂の首には久保の残骸が食らいついていました。
久保は箱に入ってはじめてそれが想像を絶する苦しさであることに気が付き、美馬坂に復讐を果たしたのでした。
結末
結局、事件のことは報道されず、嘘の情報で締めくくられました。
最後に魍魎について、京極堂は人に憑くものではないと説明します。
魍魎とは人を惑わすものであり、形はあっても中身はなく、惑って何かをしてしまうのは人だと。
京極堂は、心を揺さぶって余計なものをふるい落としただけでした。
その後、京極堂たちの友人で『いさま屋』の愛称で呼ばれる伊佐間がやってきて、山陰で旅行をした時のことを話します。
いさま屋は旅行先で鉄の箱を持った男、つまり雨宮と出会い、箱の中を見せてもらいました。
中に入っていたのは、真っ黒い干物のようなものでした。
いさま屋はそれが少女の顔であることに気が付いていません。
雨宮の罪について、一同は諦めていました。
例え捕まえて監獄に入れたところで、雨宮ならばそこに順応して幸福を手に入れるだろうと。
美馬坂があれだけやって手に入れられなかったものを、雨宮はさっさと手に入れてしまったのです。
そして、京極堂はいいます。
幸せになるのは簡単で、人を辞めてしまえばいいのだと。
おわりに
大ボリュームですが、魅力的な登場人物と物語のおかげでスラスラと読むことができます。
電子書籍で改めて読みましたが、やはり京極夏彦の作品はあの分厚い紙の本で読むのが醍醐味だなと感じました。
これから読む人は、ぜひとも分厚い文庫本で読んでみてください。
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