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西加奈子『さくら』あらすじとネタバレ感想!壊れかけた家族をサクラが救う

ヒーローだった兄ちゃんは、二十歳四か月で死んだ。超美形の妹・美貴は、内に篭もった。母は肥満化し、酒に溺れた。僕も実家を離れ、東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾にピンク色の花びらをつけていたことから「サクラ」と名付けられた十二歳の老犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏に薄い鉛筆文字で書かれた家出した父からの手紙が握られていた―。二十六万部突破のロングセラー、待望の文庫化。

「BOOK」データベースより

西加奈子さんの人生を変えた一冊。

家族を描いた作品といえばありきたりですが、そこには笑いあり涙あり、それでも揺るがない家族の絆が愛おしくなるような文章で丁寧に描かれています。

あと飼い犬のサクラがとにかく可愛いので、犬好きな人は必見です。

本書は北村匠海さん、小松菜奈さん、吉沢亮さん主演で映画化されることが決まっていて、2020年11月13日全国ロードショーとなります。

以下は映画の公式サイトです。

映画『さくら』公式サイト

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

ヒーロー不在の家族

長谷川家の次男・薫が年末に実家に戻るところから物語は始まります。

数年ぶりに戻ってきた父に母、妹のミキ(美貴)、今年十二歳になる犬のサクラ。

何も変わっていない実家に見えますが、懐かしい場所に戻ってきて薫は兄の一のことを思い出します。

薫とミキにとってかっこよくて頼もしくてヒーローだった兄。

しかし一は、四年前に亡くなっていました。

個性の異なる三人

一は幼い頃から女の子にモテ、みんなの注目の的でした。

ミキもまたその美しさから、そしてすぐに暴力を振るうところなどから常に話題の中心にいました。

その点、薫は常に『長谷川くんの弟』、『長谷川さんの兄』のように兄妹と比較されながら生きてきて、本書からもそれによる閉塞感が感じられます。

静かな戦い

そんな薫ですが、暗記力が高いことから成績は常にトップクラスで、見る人が見ればすごい

ことが分かるポジションを確立していました。

本人にもその自覚があり、意外としたたかな一面ものぞかせます。

一方、みんなが羨む存在の一とミキですが、彼らには彼らにしか分からない悩みがあり、平凡な日常の中には常に見えない小さな戦いがありました。

本書にはそれが余すところなく描かれ、三人が少しずつ成長していく姿が見られます。

このまま三人の関係は変わらない。

そう思わせるくらい幸せな日々でした。

しかし、時の流れは三人に少しずつ変化をもたらし、ついに四年前のあの日を迎えるのでした。

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感想

瑞々しい文章

本書の描写は当たり前の表現は本当になくて、西さんの観察力、それを的確に表現する力がこれでもかと発揮されています。

それは冒頭の広告を表現するところからも明らかです。

また、家族に対する描写にも特徴があります。

薫は家族に対してよく汚い、あるいは馬鹿にするような表現を使いますが、そこに悪意などこれっぽっちもなく、あるのは確かな愛情だけです。

この飾らない表現が愛情の深さを表していて、まるで自分の家族のように誇らしい気持ちで読むことが出来ました。

閉塞感があるのに爽やか

あらすじで書いたように、三人それぞれ苦悩があり、挫折を経験します。

しかし、本書は不思議とどこまでも爽やかで、明日になれば忘れてしまうといわんばかりの説得力を持っていました。

例えどんな困難にぶつかっても、必ず乗り越えられる。

傷ついてもいつか忘れて、大丈夫になる。

破壊と再生を繰り返す人生そのものが描かれていて、何気ない描写が実はかげがえのないことを教えてくれました。

おわりに

穏やかなのに、なんてパワーを持った作品だろうと読んでからも満足感からしばし放心してしまいました。

家族が素晴らしい、というだけならそんな小説はごまんとありますが、本書には誰もが愛おしくなるような家族が目一杯の愛情で描かれていて、西さんの本書に込める思いがこれでもかと伝わってきました。

家族ものとしてもそうですが、サクラに対する愛情もものすごいので、彼女の可愛いらしい姿を見るだけでも読む価値があると思います。