『未来からの脱出』あらすじとネタバレ感想!小林泰三の遺作となった脱獄SFミステリ
鬱蒼とした森に覆われた謎の施設で、何不自由ない生活を送っていたサブロウ。ある日彼は、自分が何者であるかの記憶すらないことに気づく。監獄のような施設からの脱出は事実上不可能、奇妙な職員は対話もできず、どこか不気味なロボットのようで……。サブロウは諜報担当のエリザ、戦略家のドック、メカニックのミッチと協力し脱出計画を立ち上げる。脱走劇の末に彼が直面する、驚愕の真実とは?鬼才・小林泰三の遺作となった脱獄SFミステリ。
Amazon商品ページより
2020年に亡くなられた小林泰三さん。
本書は小林さんにとって遺作となった作品です。
小林さんらしい絶望的な世界観と、それでいてどこか救いの感じられるSFミステリ。
最後まで読者の想像を超える驚きや衝撃を与えてくれるので、一時たりとも油断できません。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
監獄のような施設
サブロウは多くの高齢者とともにどこかの施設で暮らしていました。
自身も車椅子を使わなければほとんど移動できない高齢者で、記憶が曖昧なことに憤りを感じていました。
同じような日々をずっと過ごしているのではないか。
なぜ自分はこの施設にいるのか。
サブロウは施設での日常にうんざりし、この状況から逃げ出したいと考えていました。
謎の協力者
サブロウは日記をつける習慣がありますが、日記を読んでいて何者かのメッセージを見つけます。
そこにはここが監獄であり、散らばっている逃げるためのヒントを集めよ、と書かれていました。
サブロウは脱走に協力する何者かが彼に宛ててこのメッセージを残したのだと受け取り、敵をこの施設の職員、あるいはその上位の人間だと想定します。
このメッセージに従い、施設から逃げ出すためのヒント集めを始めます。
脱走計画
サブロウは一度、自力で脱出を試みますが、途中で車椅子が止まってしまいます。
おそらく施設の人間が脱走防止のために、車椅子が一定の範囲から外れると止まるように細工していたのです。
ここまで対応策を練られていると、一人で計画を練って実行するには限界がありました。
サブロウは悩んだ末に、自分と同じ入居者の中から仲間となりえる男女三人に声を掛け、彼らと共に施設からの脱出計画を練ります。
感想
広がるSFの世界観
本書では冒頭、サブロウが森をさまよい、そこには人間大の蠅が飛び回っているというシーンが描かれます。
SFとしてかなりパンチがあり、ここからどう展開するのかとドキドキしました。
ところがすぐにシーンは変わり、サブロウは百歳前後の物忘れのある男性で、施設に入れられていることが判明します。
この落差に面食らい、冒頭のシーンとどう繋がるのかと必死に考えながら読み進めまることになります。
サブロウは高齢とは思えない勢いで仲間を集め、一度は施設から脱走しますが、ここで物語が一気に方向転換をします。
なぜサブロウたちは施設に閉じ込められているのか。
冒頭のシーンは何を意味しているのか。
物語が進むにつれて一気に世界観が広がりますので、期待しながら読み進めていただきたいです。
次第にのしかかる未来の姿
小林さんらしいなと思ったのが、本書で描く未来の姿です。
彼の作品をいくつか読んだことのある人であれば分かると思いますが、描かれる未来は決して明るいものではなく、押しつぶされそうなほど不安でたまらないものです。
僕が読んだことの作品の中でいうと、以下の作品に通じるものがありました。
重たい設定ですが、小林さんらしい軽やかで、時にユーモアの入った会話はそれを緩和してくれて、結果として楽しい読書として成立するバランスを保持してくれています。
この匙加減が絶妙で、改めて小林さんの描くSFが好きだなとしみじみ思いました。
本書が遺作でがっかりしたという声をお見掛けして、すごくその気持ちが分かります。
そんな人はぜひ小林さんのこれまでの作品に手を伸ばし、彼の創り出す世界にどっぷり浸かっていただければと思います。
おわりに
角川ホラー文庫から出ている時点でなんとなく察していましたが、想像以上に満足のできる内容でした。
小林さんの作品は強烈ゆえに連続して何作品も読むのは食傷気味になってしまいますが、時間をかけて他の作品もじっくり読みたいと思います。
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