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『天体の回転について』あらすじとネタバレ感想!小林泰三らしさが出たSF短編集

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科学とは無縁の世界で育った青年はある日、月世界を目指して天空へと伸びる「天橋立」に向かう。そこで待っていたものは、とびきり可愛い謎の少女だった―無垢な青年が抱く、宇宙への憧れとみずみずしい初恋を描いた表題作のほか、ロボット三原則の盲点が引き起こす悲劇を描いた「灰色の車輪」、宇宙論とクトゥルフ神話が驚愕の融合を果たす「時空争奪」など、ヴァラエティに富んだ全8篇収録の傑作ハードSF短篇集。

【「BOOK」データベースより】

僕は『アリス殺し』で小林泰三さんを知ったので、ホラー作家というイメージがありました。

しかし本書のあとがきにおいて、小林さんはご自身のことを『本質的にはSF作家』とおっしゃっていて、本書を読んで納得しました。

SF的な設定はもちろんですが、小林さんの描くやや無機質な登場人物たちのやりとりが相変わらず面白かったり怖かったりして、その持ち味が八つの短編の中で存分に発揮されています。

アニメタッチの表紙を見て購入をためらっている方がいれば、それはもったいないです。

ぜひこの記事を読んで、購入を検討してもらえればと思います。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

天体の回転について

物語の舞台は、軌道エレベーターが建設され、そのことがすっかり忘れ去られた遥か未来です。

文明のレベルは一気に退化し、人々は科学というものがどういう学問か忘れ、興味を持つことにすら恐れを抱いていました。

そんな中、主人公の俺だけは科学に興味を持ち、周囲の人間から変わり者だとのけ者にされてきました。

この土地には『天橋立』と呼ばれるどこまでも空に伸びる物体があり、俺は月と地球を結ぶものではないかと考えました。

そこで誰も近づかない『妖怪の森』に入り、天橋立の根本に向かいます。

すると天橋立の中に入ることができ、俺は案内役だというリーナと出会います。

俺はリーナと異なる言語だったため理解できませんでしたが、天橋立と呼んでいる物体は軌道エレベーターでした。

俺はリーナに案内されるがままに、宇宙へのツアーに参加することになったのでした。

そして、そこで体感することとは。

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灰色の車輪

上月麗奈は調査のためにクルーイーニャ基地を訪れます。

ここには科学者が集められ、危険な研究が行われていました。

麗奈はここで開発されている高度なロボットの有用性、安全性について調査を始めます。

通常、ロボットは『ロボット三原則』というルールに絶対に従うよう作られていて、人間に

危害を加える心配はありません。

しかし、ここで作られたロボットには陽電子脳が組み込まれ、人間以上の能力が与えられていました。

麗奈はその点について問題だと開発者の天牙博士に指摘しますが、ロボット三原則に従うから問題ないと自信をのぞかせます。

陽電子脳を組み込まれたロボットはまるで人間のように感情を持ち、読者の予想通り、予期せぬ行動に打って出ます。

あの日

未熟な小説家の卵のわたしと、小説教室の先生の話。

わたしの描く作品は地球を舞台にしていますが、わたしは地球で暮らしたことがないため重力など、基本的な物理法則などを全く理解していません。

先生に指摘されては修正し、指摘されては修正を繰り返し、物語は進行していきます。

最後に作品が完成するのかと思いきや、やがてわたしと先生の置かれている状況が明らかになり、事態は急変します。

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性交体験者

エロティックなSF。

性の価値観が現実社会とは大きくずれた世界が舞台で、基本的に女性が主導権を握り、男性が不遇な立場にあります。

作中で殺人事件が起こりますが、問題は犯人の正体で、犯人は男性の性交体験者だといいます。

性交を体験した男性は珍しいことではないのに、なぜ問題なのか。

刑事のわたしが捜査を進める中で事件の真相、そしてこの世界における性交の実態が明らかになります。

銀の舟

火星で人面岩と呼ばれる顔そっくりの岩が発見され、幼い頃のサキはそれに魅了されて将来の進路をその調査に定めます。

大人になって有人探査計画に参加し、夢を叶えるまであと少しと思われましたが、探査隊の

目的はあくまで生命体の発見であり、人面岩の調査を許可しませんでした。

納得のいかないサキは感情のままに探査隊を抜けて一人で調査に向かいますが、ろくな準備もしていなかったのですぐに命の危機にさらされます。

人面岩はただの岩だったのだろうか。

諦めかけたその時、サキは一艘の銀色の舟を見つけ、そこで真相を知ることにります。

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三〇〇万

アカルウ諸国中で最強を自負するイジュギダ。

彼らは戦いそのものを生きがいとし、勝つことはもちろんのこと、名誉ある勝ち方にこだわっていました。

そのため肉体を用いた戦いが当たり前で、技術力に長けた者は奴隷として扱い、見下していました。

タイトルは兵士の数を表し、少数精鋭で十分だとイジュギダは主張します。

数々の星を支配してきたイジュギダが次に目を付けたのが惑星テラ。

そう、地球です。

イジュギダ人は対話を求める地球人に戦いを仕掛けますが、その結末はいかに。

盗まれた昨日

とある国で行われた実験の影響で、世界中に未知のエネルギー線が放射されました。

その結果、空間の性質は変わり、全人口が前向性健忘症になり、短期記憶を長期記憶に移せなくなりました。

つまり、これまでの習慣は覚えていても、目の前の新しい事柄については十分もすれば忘れてしまうということです。

自分が前向性健忘症だと気が付いても、そのことをすぐに忘れてしまう。

そんな状況でも優秀な人々は対策を打ち、半導体メモリを人間に装着することで情報を記録し、記憶できるようにしました。

この物語は、生まれてから長期記憶を持ったことがない少女の身に降りかかる出来事と、自分の魂とは何かを描いています。

小林さんの『失われた過去と未来の犯罪』でも同様の内容が扱われていますので、気になった方はそちらも合わせて読むと面白いと思います。

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時空争奪

平安時代末期から鎌倉時代に書かれた日本最古の漫画『鳥獣戯画』が、いつの間にか見たこともないような生物が描かれている作品に変えられていることに人々は気が付きます。

元の作品だけでなく、各家庭にある本、ネット検索に出てくる画像まで全て知らない作品に変わっています。

可能性としては、全ての印刷物やデータが改ざんされたか、全人類の記憶が改変されたかしかありません。

異変はそれだけにとどまらず、常識だったはずのことが知らない間に変わり、やがて歴史に干渉する存在が明らかになります。

感想

ホラー要素が多分に含まれたSF

SFというと、僕は辻村深月さんの『凍りのくじら』という作品を思い出します。

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作中で、藤子・F・不二雄さんがSF=すこし不思議、と表現していたことが紹介されていました。

しかし、本書はすこしどころではなくかなり不思議です。

そして、大体の短編はそんな未来を考えただけで恐怖を感じるようなホラー要素も多分に含まれています。

淡々と描かれているところが怖い

『アリス殺し』でも思いましたが、小林さんの描く登場人物は淡々としていて、どこか無機質なものを感じさせるんですよね。

何事もないようにおぞましい行為を繰り返し、それが余計に恐怖をあおる。

現代の設定だと無理が出てくる場面もあるので、そういう意味でもSF×ホラーの相性がよく分かる作品でした。

僕は『あの日』の突然、雲行きが怪しくなってくるところがドキドキして好きでした。

おわりに

表紙で購入を渋ってしまう方もいると思いますが、そういう方には電子書籍がおすすめです。

正直、表紙から連想するような内容では100パーセントありません。

SFとしてもホラーとしても面白い作品なので、小林さんの作品が好きだという方は必見です。

逆に小林さんの癖はしっかり出ているので、別の作品を読んで受け付けなかったという方は、本屋ないしAmazonの試し読みで一度合うか確認した方が良いかもしれません。

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