ミステリー

『失われた過去と未来の犯罪』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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女子高生の梨乃はある日、記憶が短時間で消えてしまうことに気付く。この現象は全世界で発生し人類はパニックに陥った―。それから数十年。記憶する能力を失った人類は、外部記憶装置なしでは生きられなくなっていた。記憶=心が切り離せるようになった世界で「わたし」は何人分もの奇妙な人生を経験する。これは本当に自分の記憶?「わたし」は一体、何者なのか…?『アリス殺し』の鬼才が贈る、予測不能のブラックSFミステリ。

【「BOOK」データベースより】

全人類が突然記憶喪失になり、新しい記憶が十分程度しか保持できなくなったらどうなるか。

そんなSF設定が根底にしかれ、小林泰三さんの持ち味であるユーモア溢れる会話の中で淡々と怖いことが描かれている本書。

『アリス殺し』などがはまった方であれば読んで損はありません。

まだ小林さんの作品を読んだことがないという人にも、『アリス殺し』よりも人を選らばない作品なのでぜひ読んでほしい一冊です。

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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記憶喪失

女子高生の結城梨乃はある時、記憶の欠落に気が付き、そのことをパソコン上にメモします。

すると一時間もしないうちにそのことを忘れ、パソコンを見ると奇妙なメモを見つけ、新たな書き込みをします。

やがて梨乃は自分が短期間で何度も記憶喪失になっていることに気が付きます。

しかもSNS上では、自分以外の大勢にも同じ現象が起こっていました。

このままではパソコンの書き込みを見るだけで時間切れになり、またしても記憶をなくしてしまうため、梨乃は記憶を失ってから状況把握までにかかる時間を短くし、全ての人間が記憶障害に陥っていることをSNSで発信します。

すると同じように動き出した人と繋がり、記憶が個人差こそあれど、十分前後しか持たないことが判明します。

このままでは電気、ガスといったインフラは機能不全に陥り、やがて生活を維持することができなくなってしまいます。

そこで梨乃たちは十分という時間を使って記憶障害の対策を練り、次の自分に繋げていきます。

後に梨乃たちは『第一動人(プライムムーヴァーズ)』と呼ばれ、文明存続に多大なる貢献をしました。

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原因

この一連の騒動は『大忘却』と呼ばれるようになり、原因はとある独裁国家の核実験でした。

疑似核反応が起きた結果、空間の相転移が起こり、短期記憶から長期記憶への移行ができなくなりました。

その結果、記憶は数分から数十分しか持たず、『大忘却』以前のことしか人間は覚えていません。

しかし、梨乃たちの活躍により、文明は少しずつ回復します。

人間は短期記憶を外部メモリーに記録するようになり、そのデータを脳内に送ることで以前と変わらない生活が送れるようになりました。

今では体の好きなところにソケットを設置し、そこに外部メモリーを差し込むことができます。

大忘却以降に生まれた子どもたちは、生まれた時から外部メモリーに依存した長期記憶のない人間であり、人間の文化もそれに合わせて変わっていきます。

記憶

ここからは外部メモリーが普及した時代の話。

一人の人間は見知らぬ場所で目覚め、読者は彼の思い出す記憶を辿ることになります。

お見合い

広田哲史は外部メモリーが抜けてしまって自分を忘れてしまいますが、通りがかった人に外部メモリーを差し込んでもらうことで記憶を取り戻します。

しかし、すぐに異変に気が付きます。

外部メモリーは広田哲史のものですが、体は見知らぬ女性のものだったのです。

哲史が記憶を辿ると、女性とぶつかった覚えがあり、その時に哲史の体がこの女性のメモリーを挿して立ち去ってしまったことが予想されます。

途方に暮れた哲史はとりあえず自分の家に戻りますが、問題は簡単に解決します。

今日、哲史はお見合い会場に向かう予定で、お見合い相手こそがこの体の持ち主だったのです。

二人は無事に再会を果たし、外部メモリーを交換します。

その際、抜いた後の時間が不十分だったため、お互いに相手の記憶が残ってしまいました。

しかし、お互いに一番深い秘密を知っている中になれたことで、二人はその場で結婚を決めるのでした。

替え玉

徳川俊哉は病院の経営者である石田巌に呼び出されます。

巌は大金と引き換えに、息子の健人に代わって医学部のテストを受けてほしいと俊哉に依頼します。

顔が似ていないため普通ならバレるところですが、俊哉の外部メモリーを健人の体に挿すことでその問題をクリア。

無事に試験には合格しますが、俊哉が戻ってきた時には、俊哉の体は鉄道事故にあってなくなっていました。

俊哉は健人として生きていかざるをえなくなります。

それから十五年、俊哉は自分が健人とは思えないまま健人として生きます。

巌の死後、健人のメモリーが保管されているのが見つかりますが、今更体を返すつもりはなく、俊哉は健人として生きていくのでした。

双子

陽菜と陽香は双子で今は別々に暮らしていますが、ある日、二人の外部メモリーに重大な欠陥が見つかり、メーカーの工場で適切な処置を受けます。

ところが陽菜が目を覚ますと、体が陽香になっていました。

挿し間違えで、陽香のメモリーが陽菜の体に入っていると思った陽菜は、陽香がいつ気が付くだろうかと最初は面白がっていました。

しかし、陽香は何も言わないまま陽菜として帰ってしまい、数か月もの間連絡をしません。

そんな時、メーカーから重大なミスについて知らされます。

実は記憶が収められた半導体にも欠陥があり、メーカーは二人の記憶をコピーして別の半導体に移植したつもりでした。

しかし、誤って陽菜の記憶を二つコピーし、それぞれの体に挿し込んでしまったのです。

つまり、どちらも意識は陽菜であり、オリジナルはすでにこの世にありません。

メーカーは陽香のメモリーを返し、陽香の体に入った陽菜のメモリーを返してほしいと頼みますが、返されたメモリーは二度と体を得ることができず、死んだも同然です。

そこで二人の陽菜は話し合い、一つの陽菜の体に二つの陽菜の意識をインプットし、日替わりで表に出ることにしたのです。

こうして双子の中に三つの意識が共存するようになったのでした。

家族

大槻家はドライブ中に不幸な事故にあい、父親である智也と息子の悟が死亡。

死ぬ間際、智也は娘の彩のメモリーが破損していることに気が付き、自分のメモリーを彩の体に挿し込みます。

その結果、智也は彩として生きることになりますが、妻の美月にはそのことを伝えず、あくまで母と娘という形で付き合っていきます。

やがて美月の死ぬ間際、彼女の意識は実は悟であったことが明かされます。

美月もまた事故の時、悟が死ぬことに耐えられず、彼のメモリーを自分の体に挿し込み、自分のメモリーを捨てたのでした。

ここで智也は、事故の後も家族四人で暮らしていたことに気が付き、ある決意をします。

それは養子などどんな形でもいいから子どもを迎え、手元に残った美月として生きた悟のメモリーを挿し込んで蘇らせることでした。

一線

水科奈々は市役所に勤めていて、外部記憶装置をつけない人たちが集まったコミュニティに対して、外部記憶装置をつけるよう交渉していました。

奈々は説得よりも先にコミュニティに溶け込み、どうにかしてこのコミュニティが存続できないか考えるようになりました。

そこで奈々が思いついたのは、自分のメモリーをコミュニティの様々な人間に挿し込み、生活の手助けをするというものでした。

これであれば職務の範疇を超えることなく、コミュニティ自身の手で問題を解決したことになると奈々は考えました。

ところが、奈々はだんだん本来の目的を忘れ、様々な人間の体を体験できることにのめり込み、気が付いた時には後戻りできないところまできていました。

そんな時、奈々のもとに彩(智也)が現れ、コミュニティの誰かに死んだ悟の外部メモリーを使わせてほしいといいます。

明らかに違法行為ですが、それは奈々も同じだったため、奈々は自分の体を貸し与え、悟の意識は再びこの世に戻ってくるのでした。

この時、奈々は人類が超えてはいけない一線をすでに超えてしまったことを知るのでした。

イタコ

死者の魂を呼び寄せ、自分に憑依させるイタコという人がいましたが、今は形を変え、死者のメモリーを自分に挿して蘇らせることがイタコの生業になっていました。

俺はイタコとして様々な人の記憶に触れ、だんだんと生きる意味が分からなくなっていました。

そんな時、大忘却博物館に立ち寄ります。

そこでは大忘却の時代に何があったのかを説明する展示があり、その説明をするホログラムは梨乃でした。

もちろん本人ではなく、人工知能を搭載したただの記録です。

俺は梨乃との対話の中で、心のままに生きることを決意。

これまでより格段に安い料金で依頼を引き受け、老夫婦の息子・聡を蘇らせるために体を貸します。

ところが老夫婦は聡をこのまま生かしたいと考え、俺に体を返さないのでした。

聡は罪悪感を抱えながらも生き続け、やがて家庭を持ちます。

聡の死後、聡と俺のメモリーは代々受け継がれるのでした。

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結末

ここで、第二部で見てきた記憶は全てイタコだった俺のものだったことが判明します。

彼のメモリーは遺跡で発見され、新たな人生を歩むかそのまま眠っているのか選択肢を与えようという配慮で、科学者たちの手で蘇りました。

しかし彼の体はなく、人口脳に俺の記憶が呼び出されただけです。

技術は発達し、五感全て正確に再現できるようになっていましたが、それが本物か偽物か区別する手段はなく、俺が知覚するもの全てが現実なのか仮想現実なのかも分かりません。

最初、俺は現実を受け入れられずに半ば発狂してしまいますが、順序を経て現実を受け入れる準備が整い、再び呼び出されます。

話している相手は、梨乃でした。

俺はイタコをすることで様々な記憶を積み重ねてきました。

それは輪廻転生を繰り返したことと同義であり、究極の進化の途中といえます。

もはや、俺が思い描けばそれが現実になります。

たとえ間違えても、時間は永遠にあるので何度でもやり直すことができます。

俺は前に梨乃に言われた言葉を思い出し、心のままに生きるのでした。

最後に

SNSなど最近のコミュニケーションツールを利用して危機を脱する設定は面白く、また結末についても、僕たちの世界においてもあり得ないとは言い切れない内容に複雑な気持ちになりました。

淡々と書いてあるからこそ、そこに宿る狂気は本物であっという間に読み進めてしまいました。

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小林泰三さんの他の作品はこちら。

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