『フォルトゥナの瞳』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
幼い頃に家族を火事で失い天涯孤独の身となった木山慎一郎は友人も恋人もなく、自動車塗装工として黙々と働くだけの日々を送っていた。だが突然「他人の死の運命」を視る力を手に入れ、生活は一変する。はじめて女性と愛し合うことを知った慎一郎の「死の迫る人を救いたい」という思いは、無情にも彼を窮地へと追いやり…。生死を賭けた衝撃のラストに心震える、愛と運命の物語。
「BOOK」データベースより
『永遠の0』などで知られる百田尚樹さんの作品で、神木隆之介さん、有村架純さん主演で映画化されました。
原作とは少しストーリーに違いがあるようなので、どちらも見てその違いを楽しんでもらえればと思います。
突然、他人の死の運命が見えるようになってしまった木山慎一郎。
彼は大勢の人の運命を背負い、自分の幸せと他人の幸せを常に天秤にかけながら生きることになります。
死の運命が見えること以外は、どこにでもあるような日常が広がっています。
誰もが何気なく生きているのに、もし自分だけがこれから起こる不幸な運命を知っていたら。
慎一郎の内向的な性格が合わないという人もいると思いますが、彼だからこそ成り立つ物語でもあります。
愛と運命の物語、まさしくその通りの作品です。
以下は本書の映画に関する神木隆之介さん、有村架純さんへのインタビューです。作品の雰囲気が感じ取れると思いますので、合わせてお楽しみください。
「フォルトゥナの瞳」神木隆之介×有村架純インタビュー – 映画ナタリー 特集・インタビュー
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。
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タイトルの意味
作中に慎一郎と同じ瞳を持つ黒川という男性が登場しますが、彼は自分たちは『フォルトゥナの瞳』を持っていると表現します。
フォルトゥナとはローマ神話に出てくる運命の女神で、人間の運命を見ることが出来ます。
そんな女神の瞳を自分たちは持っているのだと、黒川は言います。
またラテン語などては『幸運』を意味し、英語でいうフォーチュナと聞くと、ピンとくる人もいるかもしれません。
あらすじ
他人が透けて見える
ここからはあらすじ。
自動車のコーティング工場で働く慎一郎はある日、電車の中で手が透けて見える男性を見掛けます。
最初は手品、もしくは見間違えだと思いますが、その後も体の色々な部分が透けた人を何人も見て、勘違いではないと確信します。
その後、慎一郎はほとんど透明人間のように服だけが浮いた男性を見掛け、正体を突き止めようと尾行します。
すると男性はバイクに轢かれ、息を引き取ると同時に姿を現します。
ようやく慎一郎は理解します。
体が透けて見える人は近いうちに死ぬ運命にある人で、より多くの部分が透けている人ほど死期が近づいている。
亡くなると、また見えるようになる。
そして、他の人には透けることなく、普通に見えている。
慎一郎は怖くなって色々調べますが、この現象について何も分からず、忘れようと努めます。
しかし、工場を訪れる馴染みの客にも透けている人がいて、その死を経験。
死ぬ人間が分かる、まるで神のような能力に慎一郎は翻弄されていきます。
初恋の人
かつて慎一郎は、同じ工場に勤める事務員の植松真理子に恋をしていました。
真理子もまた慎一郎のことを良く思っていて、二人は工場内では公認の仲になっていましたが、あと一歩を踏み出さずにその関係は終わります。
客で来ていた宇津井という若手社長が彼女にアプローチをかけ、二人は交際を始めたのです。
日に日に見た目も性格も明るくなる真理子でしたが、それは長く続きませんでした。
何かしらの理由で真理子は宇津井とうまくいかなくなり、有給を使いきると無断欠勤、そして挨拶もなく会社を辞めてしまいます。
その後、同僚から真理子がソープで働いているといわれ、慎一郎は何かの間違いだと思いながらもそのソープに行きます。
すると、そこに確かに真理子はいましたが、覚醒剤に手を出して呂律は回らず、慎一郎のことも覚えていませんでした。
運命について考えていた慎一郎は、自分が告白していれば真理子はこうならなかったのではと、何度も自問自答するのでした。
クビ
慎一郎は同僚から金を無心されたり、嫌がらせをされることが度々あり、金田はその筆頭でした。
腕は悪くありませんが、ミスをするとすぐに慎一郎のせいにし、社長の遠藤からは何度も注意されていました。
やがて預かった客の高級車を無断で使用したことが判明し、金田はクビを言い渡されます。
その時、慎一郎は遠藤の腕が透けていることに気が付きます。
金田による報復が原因かと考えた慎一郎はその日、遅くまで残って遠藤を観察します。
残ったのが二人だけになると帰りに居酒屋に寄らないかと慎一郎から提案し、その道中でバットを持った金田に襲われます。
事前に分かっていた慎一郎は遠藤をかばい、怪我をするも遠藤の死の運命は去ります。
金田は二度と二人に近づかないことを約束することでこのことは不問とされ、田舎である新潟に帰るのでした。
同じ瞳の持ち主
ある日、慎一郎は駅のホームで透けて見える男性を見つけ、声を掛けます。
何かがきっかけとなって運命が変わることを祈りますが、男性は慎一郎を怪しみ、運命を変えることは出来ませんでした。
するとベンチで隣り合っていた中年の男性が慎一郎に言います。
さっきの男が透けて見えているんじゃないか、と。
男性は危害を加えるつもりはないとして、二人は場所を移動します。
男性は黒川といい、内科医で慎一郎と同じく、他人の死の運命が見えるといいます。
さらに彼がこの能力に目覚めたのが三十年前であるため、見れば死ぬ時期も分かるといいます。
慎一郎は同じ瞳を持つ人が存在することに驚きますが、黒川は人の運命に関わるなと忠告します。
黒川もかつて慎一郎のように、誰かを救えると思い、何人もの運命を変えてきました。
ところが、助けた人が後に事件を起こし、別の人を殺害してしまいます。
助けなければ、救われた命がある。
これは、黒川が殺したと同義ではないか。
彼はそう考え、患者が透けて見えても、異常がなければ特別な処置をしないと決めていました。
また、自分で自分の運命を見ることはできないといいます。
慎一郎は黒川との出会いを通じ、自分の持つ特別な瞳についてさらに悩むこととなります。
独立
前々から社長の遠藤から独立の話を持ち掛けられていて、慎一郎は彼の後押しもあって独立します。
社員は自分だけですが、慎一郎の腕を買っている客が来てくれ、責任感と充実感を感じていきます。
代償
黒川との出会いが忘れられず、慎一郎は川崎市内の病院のホームページを片っ端から見て、黒川という名字の医師を見つけます。
ダメ元で病院に電話をかけて取り次いでもらうと、慎一郎が会った黒川その人でした。
二人は再会しますが、黒川の忠告は変わりません。
黒川は慎一郎に対して、人を助けた時に違和感を感じなかったかと聞き、慎一郎には身に覚えがありました。
黒川がいうには、原理こそ分かりませんが、死ぬ運命にある人を助ける度に心臓や脳の血管が損傷を受けるのだといいます。
黒川もまた何人もの人を助けて自らが死に近づき、すでに血管に動脈瘤がいくつも発見され、いつ破裂してもおかしくない状態なのだといいます。
黒川は二人の持つ能力を『フォルトゥナの瞳』と称します。
ローマ神話に登場する、人間の運命が見える女神・フォルトゥナからつけた名前です。
女神には必要かもしれないが、人間には不要な能力だと黒川はいいます。
しかし、二人はお互いの死が見えてしまうため、それを知れば平気な顔をして会話をすることなどできません。
黒川はもう二度と会わないと宣言し、慎一郎を突き放すのでした。
一方、そんな理由で他人の死から逃げていいのかと、慎一郎は自問自答するのでした。
告白
慎一郎は故障した携帯を直すために携帯ショップに行き、そこで販売員の桐生葵と出会います。
彼女の手は透けていて、気になってその後も見に行くと、その度合いは日に日に増していきます。
葵も慎一郎が度々来ていることに気がついていて不思議に思いますが、彼は思い切って葵を駅前のスタバに誘います。
すると意外にも葵はすんなり来てくれ、それで未来が変わったのか彼女の体はもう透けていませんでした。
これで二人の繋がりはなくなるはずでしたが、後日、葵がお礼に慎一郎の工場まで来てくれます。
慎一郎が葵を誘ったあの日、彼女の通勤ルート付近にある工場が爆発し、そのまま帰っていたら巻き込まれて死んでいたかもしれません。
葵は、運命が見えるという慎一郎の言葉が本当かどうかは別にして、命を救ってくれた彼に感謝していました。
これまで女性経験のなかった慎一郎ですが、まっすぐで優しい葵に自然と惹かれていきます。
それは葵も同じで、お互いに何度か職場に会いに行き、そして慎一郎から告白して二人は付き合うことになります。
災害?
これまでにない幸福感に包まれる慎一郎ですが、葵と付き合うことになった日の帰りの電車で違和感を覚えます。
電車内や駅の中に透けて見える人が何人もいるのです。
最初は偶然かと思いましたが、それは翌日以降も続き、慎一郎の脳裏には『災害』という言葉が浮かびます。
透け具合からいってそれが起こるのは三週間後の年末頃です。
これまでであればみんなを助けたいと思うところですが、今の慎一郎には葵という愛すべき人がいます。
彼女の命を救うことを優先し、年末から年始にかけて、一週間に渡って遠方に旅行に行かないかと提案します。
慎一郎は、透けて見える人は駅や電車内に集中していることに気が付き、電車の事故だと判断。
それに巻き込まれないくらい遠くに逃げるという算段です。
唐突な提案に怪訝そうな葵ですが、慎一郎を尊重して了承してくれます。
一方、慎一郎は胸の痛みが強まっているのを感じ、病院を受診します。
診断結果は『狭心症』でした。
黒川の言う通り、他人の運命を変えた代償に、慎一郎は確実に死に近づいていたのです。
もし電車の事故を防いで多くの人の命を助ければ、まず慎一郎は死ぬでしょう。
彼は葵のことを一番に思い、多くの人の死から目をそらすのでした。
決意
しかし、それでも諦めることが出来ず、死なずに事故を防ぐために黒川に連絡をとります。
ところが、黒川は脳内出血で亡くなっていました。
慎一郎は悟ります。
黒川は誰かの死の運命を変え、その代償として死んでしまったのだと。
慎一郎はますます葵との時間を大切にすることを決め、ついに彼女と一つになります。
これ以上ないほどの幸せを手に入れ、葵に愛してると伝え、慎一郎は決心します。
この命に替えてでも電車の事故を防ぐと。
結末
遠藤の工場をクビになった金田ですが、遠藤の正会で今は運送会社で働いています。
以前に金田は、慎一郎の工場にきてこれまでのことを謝罪しますが、その時の彼は透けていました。
慎一郎は、金田が電車の事故に関係しているのではと思い、彼に連絡をとります。
すると、事故が起こると思われるXデーは湘南にいるといい、事故とは関係なさそうでした。
そしてXデー。
事故を起こす電車が通過を予定している線路に入ると、自転車のワイヤーロックで自分の体と線路を固定し、発炎筒に火をつけます。
すぐに異変に気が付いた人たちがロックを外そうと試みますが、そこに湘南にいるはずの金田がいました。
緊急の仕事を頼まれてこの線路を通過するはずでしたが、慎一郎が行動したことでトラックを止め、様子を見に来たのです。
ボルトカッターでワイヤーを切られる中、予定時刻を過ぎても電車は来ません。
事故は回避されたのです。
安堵した瞬間、左胸にこれまで感じたことのない痛みを感じ、慎一郎はそのまま死ぬのでした。
エピローグ
葵視点。
彼女は新聞の記事で心筋梗塞で亡くなった人がいることを知り、慎一郎だと確信していました。
実は彼女もまた『フォルトゥナの瞳』を持っていて、今回の事故のことを知っていたのです。
そして慎一郎が声を掛けてきた時点で、彼もまた同じ瞳を持っていると知っていました。
葵は弱い自分がそうしたように、慎一郎に多くの人を犠牲にしても自分との未来を選んでほしいと思っていましたが、彼は死を選びました。
世間からしたら慎一郎はただの狂人と映りますが、葵だけは彼の勇敢さを知っています。
そして、慎一郎が亡くなった日の翌日、慎一郎からグリーティングカードが届きます。
そこには葵を愛してると書かれていて、葵は今は亡き彼を思い、涙を流すのでした。
おわりに
展開こそなんとなく予想がつくものでしたか、結論に至るまでの葛藤がこれでもかと描かれ、慎一郎の決意の固さを読者に刻み込んでくれました。
重たいテーマとは裏腹にとても読みやすい文章ですので、小説を読み慣れていない人にもおすすめです。
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