『リカーシブル』あらすじとネタバレ感想!未来予知と町の伝承が絡み合うミステリ
越野ハルカ。父の失踪により母親の故郷に越してきた少女は、弟とともに過疎化が進む地方都市での生活を始める。だが、町では高速道路の誘致運動を巡る暗闘と未来視にまつわる伝承が入り組み、不穏な空気が漂い出していた。そんな中、弟サトルの言動をなぞるかのような事件が相次ぎ…。大人たちの矛盾と、自分が進むべき道。十代の切なさと成長を描く、心突き刺す青春ミステリ。
「BOOK」データベースより
一年くらい本棚で眠っていた作品です。
米澤穂信さんのことは信頼していますが、文庫版で五〇〇ページを超えるボリュームと表紙の味気無さに躊躇していました。
しかしいざ読んでみると、その面白さに一気に引き込まれました。
いくつか注意点はありますが、米澤さんの闇を含んだ青春がツボにはまり、読んで後悔させない作品になっています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルの意味について。
タイトルは『recursive(繰り返す)』に『able』をあわせて『recursi-ble(繰り返すこともできる)』という曖昧にさせた造語です。
何を繰り返すのか。
繰り返さないという選択肢もあるのか。
その答えは本書の中にあります。
あらすじ
死んだ町
越野ハルカは父親の失踪をきっかけに、母親の故郷に引っ越してきました。
父親の再婚相手である母親とその連れ子・サトルとの生活。
過疎化が進んで死に絶えていく町。
明るい話題など見つからない中で、ハルカは生きていくために強い気持ちを持ちますが、そんな彼女の周りにおかしなことが起こり始めます。
未来視
サトルはある日、この町で起こったことに既視感を覚えたことをハルカに伝えます。
母親の故郷ということで、前にも来たことがあるからそう思うのでは?
ハルカはそう思いますが、母親はサトルがはじめてこの町に来たと断言。
偶然だと片付けようとしますが、サトルの発言はその後も何度も現実のこととなり、ハルカはこの未来視には何か秘密があると調べ始めます。
町に伝承
一方、ハルカはこの町に『タマナヒメ』という伝承があることを知ります。
タマナヒメはこれから何が起こるのかを知ることができ、その解決策も知っていました。
その力を活かして村を救うも、タマナヒメは自殺。
その後は誰かに乗り移り、歴史上に何度も登場しています。
今でもこの町ではタマナヒメの伝承が息づいていて、特定の人物がタマナヒメとしてその役目を果たしていました。
サトルと似てるが、関係なさそうな伝承。
しかし、ハルカはやがてサトルのタマナヒメの伝承の関係に気が付き、この町の正体を知るのでした。
感想
驚くほど面白かった
読むことを一年以上躊躇した自分を怒りたいほど面白い作品でした。
閉塞感が漂う町に引っ越してきた少女が、身近な謎と町の伝承を繋ぐ謎に立ち向かう。
重苦しい雰囲気が常に漂う中、ハルカはあくまで前向きで、弟のサトルとの反射的な悪口合戦にずいぶん救われました。
中盤以降の勢いはさすがの一言で、物語の方向性が定まってからは一気読み必至です。
雰囲気や設定の問題ですが、個人的には『犬はどこか』にはまった人であれば間違いありません。
米澤穂信らしいダークさ
米澤さんの青春作品といえば、青春特有の華々しさの裏に潜む不安などの闇の部分を描くことが特徴になっています。
本書もそれに当てはまり、さらに闇の部分を描いてかすかな光を際立たせる内容になっています。
これまでの男性主人公の性格であれば深い闇に押しつぶされていたかもしれません。
しかし、本書の主人公のハルカはそれに負けない強さを有しています。
気を許しきれない家族。
町全体を包む不穏で閉塞感のある空気。
その中でもハルカはあくまでも冷静で、自分のしなければいけないことに集中する彼女の姿はカッコイイの一言です。
中学一年生とは思えないという意見もありますが、僕は気になりませんでした。
そもそも、それを言い出したらミステリの主人公に小中学生を置けないですからね。
序盤は辛抱が必要
とはいえ、本書を手放しで褒めることはできません。
難点を挙げるのであれば、序盤の方向性が定まっていない点にあります。
登場人物や設定に面白さがあればそれでも問題ありませんが、本書はこれらに重きをそこまで置いていません。
そのため、序盤は物語の目的地が見えず、何を楽しんで読めばいいのか少し不安になります。
『タマナヒメ』の話題が出てから少しずつ加速していますが、それでも勢いに乗りきるまでにまだ時間がかかるので、ある程度の辛抱が必要です。
それを乗り越えれば米澤さんの真骨頂がこれでもかと発揮されるので、ぜひお付き合いいただければと思います。
おわりに
もうちょっと表紙を何とかしてくれれば。
何度もそう思うくらい名作な本書でした。
米澤さんの青春小説に慣れると、他の青春小説に馴染めなくなるくらい印象的で衝撃的な作品でした。
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