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『私が大好きな小説家を殺すまで』あらすじとネタバレ感想!小説家とそのファンの歪んだ物語

突如失踪した人気小説家・遙川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった一人の少女の存在があった。遙川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遙川が小説を書けなくなったことで二人の関係は一変する。梓は遙川を救うため彼のゴーストライターになることを決意するが…。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女―なぜ彼女は最愛の人を殺さなければならなかったのか?

「BOOK」データベースより

『私が大好きな小説家を殺すまで』。

非常に興味と想像力を掻き立てられるタイトルと表紙の本書。

すでに小説家が殺害されていることが判明しているということで、問題はその動機や方法にあります。

小説家とはどのような関係なのか。

なぜ大好きな小説家を殺害するに至ったのか。

登場人物は少なく、読み進めればオチ自体はピンとくると思います。

しかし、そこに至るまでの希望や絶望、様々な感情が、非常に読み応えがありますので、ぜひその過程も楽しみながら読んでみてください。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

謎の多い事件

人気小説家・遥川悠真が失踪。

彼の部屋には何者かが同居していた痕跡がありました。

洋服などから女性、それもかなり若いことが推測されます。

警察は彼の部屋から風変わりな遺書のようなものを見つけますが、やがてパソコンからとある小説が見つかり、それらは遥川、もしくは同居人が書いたと思われます。

遥川悠真に死んで欲しかった。

そこに書かれた文章を警察は読み、やがて失踪事件に至るまでの物語であることが分かってきます。

救い

物語のほとんどは、警察の読む小説がそのまま描かれています。

小学生の幕居梓は、母親が恋人に子持ちであることを隠すために一日の大半を押入れに閉じ込められていました。

真っ暗で自由の効かない空間の中で、梓の唯一の楽しみは覚えるほどまでに読んだ遥川悠真の小説だけでした。

梓はほんの出来心で遥川の新作を図書館で借りますが、それを母親に見つかってしまいます。

言いつけを守れなかった梓は捨てられ、家は残ったものの母親は帰ってきません。

絶望の淵に立たされた梓は、遥川の作品を持って線路への飛び込み自殺を図ろうとしますが、それを止める人がいました。

なんと遥川その人でした。

遥川の自分の作品を持って死なれたら迷惑だとあくまで自分のために梓を止め、自殺自体は止めません。

しかし、梓はそこで思いとどまり、何かを察した遥川は梓を自宅に連れ帰ります。

小説家とそのファンの奇妙な出会い。

梓はそれから度々遥川の家に遊びに行くようになり、遥川のいけないと思いつつもそれを許しました。

ゴーストライター

奇妙な生活が何年も続いた中、遥川はスランプに陥り、新しい物語を書くことができずにいました。

梓は遥川を何とか助けたいと思い、彼の小説で自分が救われたことを思い出し、今度は自分が救おうと自作の小説を書いて遥川に渡します。

その思いが通じたのか、遥川は二年ぶりに新作を発表しますが、本屋で新作を買った梓は驚きます。

それは、自分が遥川にプレゼントした小説の原稿そのままの内容だったのです。

梓はそれでも遥川のために小説を書き続けますが、ここから二人の関係は破滅に向かって進み出します。

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感想

小説家とファンの関係

これは小説家に限らずですが、アーティストとそのファンという関係はちょっとした変化でバランスを崩し、行き過ぎた愛が憎しみに変わることもあります。

こんな作品はらしくないとか、なぜこんなに愛しているのに分かってくれないのかだとか。

本書はそれを書くのが本当にうまくて、自分は正しくファンでいられているだろうかとドキドキさせられました。

あくまで好意や尊敬にとどめるべきで、例えその気持ちが正しく相手に伝わらなくても、相手を責めていいわけがありません。

崇拝や狂信までいってしまうと、それはもう愛ではありません。

温かさや切なさが徐々に冷えて憎しみや怒りになっていく様子が苦しく、でも読むのを止められませんでした。

またタイトルはもちろんですが、表紙もまた梓の心情をいかようにも想像できる内容だったので、想像しながら読むのが楽しかったです。

自業自得がうまく描かれている

はじめは小説家=遥川、ファン=梓という図式でしたが、後半では異なります。

この時の梓の気付きが秀逸で、まさに自業自得にふさわしい内容でした。

因果応報というか、自らしでかしたことが自分に返ってくる。

本書の中でも特にグッときたシーンです。

オチに過度な期待は禁物

題材といい描かれた関係性といい、非常に好みの物語でしたが、オチについてはやや拍子抜け感がありました。

もちろんそこが一番重要というわけではありません。

はじめから結末が分かっている時点で、そこに過度の期待をすることが間違っていることも分かっています。

しかし、結末に至る過程があまりに順当だったので、もう少し驚きが欲しかったというのが本音です。

それがあれば、本書はより強烈に僕の中に焼き付けられたのかなと思います。

これから読む人は、過度の期待にご注意ください。

おわりに

タイトルと表紙に惹かれ、その期待が中身を読んでも全く裏切られない。

メディアワークス文庫の作品にはこういった傾向があり、本書もそれに該当する良作でした。

物語に没頭し、自分の身を振り返るところまで含めて良い経験になりました。