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『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』あらすじとネタバレ感想!先の読めない文学ミステリ

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ラノベ作家の杉浦李奈は、新進気鋭の小説家・岩崎翔吾との雑誌対談に出席。テーマの「芥川龍之介と太宰治」について互いに意見を交わした。この企画がきっかけとなり、次作の帯に岩崎からの推薦文をもらえることになった李奈だったが、新作発売直前、岩崎の小説に盗作疑惑が持ち上がり、この件は白紙に。そればかりか、盗作騒動に端を発した不可解な事件に巻き込まれていく……。真相は一体? 出版界を巡る文学ミステリ!

Amazon商品ページより

多彩な作品で知られる松岡圭祐さんの新たな作品です。

本書では数多くの純文学作家、作品が引用され、読書好きであれば思わずニヤリとしてしまうはずです。

その一方で引用はあくまでさりげなく、押しつけがましくないことによってエンタメ性を保っているところも上手いと感じられる作品です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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タイトルの意味

内容に入る前に、タイトルの意味について。

タイトルにある『ecriture(エクリチュール)』はフランス語で『文字、筆跡、書くこと』などを意味します。

ずっと意味を考えてもしっくりきませんでしたが、シリーズ三冊目の解説にて末國善己さんは『書くこと』と記載していました。

また『文字と読者を仲介するメディア』という批評用語であります。

何のために主人公の小説家・杉浦李奈は小説を書くのか。

本書を通じて、読者に何を伝えたいのか。

そんな思いが込められていると推察されます。

あらすじ

対談

二十三歳の杉浦李奈は、ライトミステリ三冊をこの世に送り出した駆け出しの小説家です。

そんな李奈が今回対談することになったのは、『黎明に至りし暁暗』で二百五十万部超えのベストセラーを記録した新鋭・岩崎翔吾。

一見接点のないように思える二人ですが、実はお互いに芥川龍之介と太宰治が好きであることを公言しており、それがあってこの対談が実現しました。

岩崎は李奈をリードして、いつしか二人は文学の話に花を咲かせます。

その縁もあって数か月後、李奈の新作には岩崎の推薦文付きの帯が巻かれ、良いこと尽くしでした。

ところが李奈の手元に自著に届くや否や、編集者から電話が入り、帯を返送してほしいといわれます。

理由すら言われず戸惑う李奈ですが、ツイッターで岩崎の名前を検索して絶句します。

彼の二作目に盗作疑惑が浮上していたのです。

盗作と失踪

岩崎は二作目『エレメンタリー・ドクトリン』を発表しますが、一週間前に発売されていた嶋貫克樹の『陽射しは明日を紡ぐ』の盗作ではないかという指摘が相次ぎます。

嶋貫側には原稿の書き始め、脱稿の日付、時刻がしっかり記録されていて、岩崎の原稿は三日遅かったことが分かっています。

まるで今回の騒動を予期していたかのような対応です。

しかし、李奈には信じられませんでした。

岩崎のデビュー作に比べると二作目はあまりに駄作で、とてもクオリティが低かったからです。

しかも岩崎と嶋貫に接点はなく、どこで原稿のやりとりがあったのかも分かりません。

李奈には岩崎の無実を信じたい気持ちがありましたが、当の本人は失踪していました。

名誉挽回

一連の騒動の中で、李奈はKADOKAWAの編集者から今回の件についてノンフィクション作品を書かないかと持ち掛けられます。

KADOKAWAには報道系の雑誌がなく、岩崎と接点のある李奈だけが頼りです。

しかも李奈の作品には岩崎の推薦文付きの帯が巻かれているため、騒動にすでに巻き込まれたも同然。

李奈は拒否権すらなくこの仕事を受けることになり、小説のネタではなく真実を知るために取材を行うことになりました。

感想

李奈の成長物語

本書の魅力は一点だけではとても語りつくせないほど多重的ですが、一番に感じたのは主人公である李奈の成長です。

はじめは気弱で引っ込み思案で、家族からも小説家という職業について理解を得られず、とにかく自信のなさが目立ちました。

しかし、物語が進むにつれてそんな印象は次第に拭われていきます。

不本意な取材ですが、それを通じて様々な人と李奈は触れ合い、自分の殻を破っていきます。

時には周囲が驚くほど物怖じしない姿勢を見せ、小説家としてこれから羽ばたく可能性を示してくれました。

先の読めない展開

本書はミステリとして、とにかく面白いです。

李奈を通じて関係者の声を聞き、どうしても偏った印象を持ちます。

ところが違った方面から証言が挙がると、状況は一変。

今まで被害者と感じた側が加害者のように感じられ、いつしか誰も信じられないようになっていました。

誰が本当のことを言っていて、どこに真実が隠されているのか。

とにかく飽きさせない展開の数々が待っていて、最後まで一気に読めてしまいます。

純文学を読むきっかけになる

僕は純文学というジャンルが正直苦手です。

慣れない言葉、表現の数々にだんだん読む気を削がれ、最後までどうしてもたどり着けなかったからです。

しかし本書を読むことで、読まないともったいなという気持ちになりました。

実際にあった盗作事件を引用することでその作品に興味が出たし、本書で語られる作品はとにかく魅力的だし、と読まない手はありません。

おそらく最後まで読めない作品も多々あると思いますが、そうしたらまた数年寝かせてしかるべき時を待つだけです。

おわりに

本好きに新たなインスピレーションを与えてくれるこういった作品はもう大歓迎です。

続編も出ているので、そちらも合わせて楽しみたいと思います。

次の話はこちら。

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