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『扉守 潮ノ道の旅人』あらすじとネタバレ感想!尾道をモデルにした町を舞台にした不思議な物語

harutoautumn
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古い井戸から溢れだす水は≪雁木亭≫前の小路を水路に変え、月光に照らされ小舟が漕ぎ来る。この町に戻れなかった魂は懐かしき町と人を巡り夜明けに浄土へ旅立つ(「帰去来の井戸」)。瀬戸の海と山に囲まれた町でおこる小さな奇跡。著者の故郷・尾道をモデルとし、柔らかな方言や日本の情景に心温まる、ファンタジックな連作短篇集。広島の魅力を描いた本を、地元書店員が中心になって選ぶ賞として立ち上げた広島本大賞、第1回受賞作。

Amazon商品ページより

平成怪奇小説傑作集で知り、手に取った本書。

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作品内では明示されていませんが、物語の舞台は広島県尾道市がモデルとなっていることが光原百合さんの口から明かされています。

同じ町で繰り広げられる物語で、共通の登場人物によって緩く繋がっています。

幻想的で、ファンタジーのようで、どこかノスタルジーが感じられる良作です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

帰去来の井戸

大学生の由宇は、伯母の七重が切り盛りする雁木亭でアルバイトをしていました。

七重は体調を崩しており、普段滅多に弱音を吐かないことからも、彼女の状態が思わしくないことがうかがえます。

ある日、雁木亭の常連である浜中が店を訪れ、引っ越すことを伝えて別れます。

その後、浜中が亡くなったことが知らされますが、ここで雁木亭の秘密が明かされます。

天の音、地の音

小学生の美咲は住職の了斎のお願いで、駅まで人を迎えに行きます。

その相手は劇団天音のサクヤという人物で、美咲の良く知る人物でした。

劇団天音は少人数で運営していて、劇場を使うような劇をしません。

サクヤたちは『おしゃべりしてくれる場所』を選ぶのだといいますが、その意味はすぐに明らかになります。

扉守

雪乃は町にある『セルベル』という雑貨店の存在にはじめて気が付きます。

主人らしき青年は初対面にも関わらず、「そんなもの背負って重くないの」といいます。

この時点で雪乃は気にかけませんが、ここから少しおかしなことが起きます。

雪乃は友人たちの言うことに逆らえない、流されやすい性格ですが、ある時を境に性格が変わり、友人や母親のいうことに反論するようになります。

その理由はすぐに明らかになり、ここから彼女と青年の物語が始まります。

桜絵師

了斎のもとに行雲という絵師が滞在することになります。

そこに早紀という少女が現れるわけですが、彼女はそこで桜の描かれた綺麗な絵を見ます。

行雲が描いたもので、早紀は絵の中に男性を見付けます。

それはいなくなってしまったので見間違いとも思われましたが、気になった早紀は度々訪れるようになります。

その中で行雲が描く絵の本当の意味が明らかになります。

写想家

菊川薫という人物が登場します。

切れ長の目と紅をさしたような唇が印象的ですが、男性です。

薫は写真家を名乗りますが、彼が撮るものは普通の写真ではないことがすぐに明らかになります。

旅の編み人

大学生の友香は電車の車内で不思議な女性を見つけます。

編み物の腕は確かで、ちょっと変わった人。

その中で女性は探し物をしていて、友香は同じ駅で降りたことからなんとなく付き合うことになります。

彼女は了斎のもとに行くことを希望していて、友香はそこまで案内することになりますが、そこで不思議な話に巻き込まれます。

ピアニシモより小さな祈り

静音はとあるきっかけから、ピアニスト・神崎雫の補佐をするようになっていました。

補佐といっても、雫たちが町を訪れた際に手伝う程度で、常に一緒に行動しているわけではありません。

静音は最近ピアノが弾きたくなったこと、家にピアノがあることを口にします。

ならばそのピアノを弾けば済む話ですが、なんとそのピアノには一本も弦が張られていませんでした。

感想

不思議な物語

僕は本書の存在を『平成怪奇小説傑作集』で知ったのですが、読めば読むほどホラーではなく、もっと違ったジャンルの物語だという風に感じました。

ジャンル分けが難しいのですが、感覚でいうとファンタジー、ノスタルジー、そういった言葉が思い浮かびます。

ノスタルジーは尾道という実際の町がモデルとなった舞台が共通していることが起因となっているのかもしれません。

訪れたことがないにもかかわらず、読めば読むほど自分も尾道を知っている、愛しているように感じられ、懐かしさがこみ上げてきました。

本書に収録された物語の不思議さがそうさせるのでしょうが、この空気感はとても好きです。

優しい物語

不思議と同時に、優しい物語だと感じました。

視点となる人物が短編ごとに変わるのですが、その人たちを包み込むような物語が展開されます。

現状に満足している人もいれば、何らかの不具合を抱えている人もいます。

その中で作中に登場する人物、現象は理屈では説明ができないほど不思議なもので、その超常さが視点の人たちを優しく包み込み、明日に繋がるエネルギーをくれます。

何かモヤモヤを抱えていて、このままでいいのかと思っているような人。

そんな迷っている人にこそ、本書は刺さるのかもしれません。

おわりに

表紙から引き込まれた一冊です。

中身に関係ありませんが、僕はイラストを描かれた丹地陽子さんの画集をすぐに買ってしまいました。

こちらも眺めては幸せがあふれ出す最高の作品なので、よければぜひ手にとってみてください。

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