SF

『新世界より(下)』あらすじとネタバレ感想!人類の存亡をかけた決死の戦い

夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的大傑作! PLAYBOYミステリー大賞2008年 第1位、ベストSF2008(国内篇)

Amazon商品ページより

いよいよ最終巻となる本書。

これまで以上に追い詰められた緊迫感が強く、ホラーのようなテイストも一緒に味わうことが出来ます。

この手記の最後に待ち受けているのは希望か、それとも絶望か。

ここまで読んできた人は絶対にお見逃しなく。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

不穏な気配

時間が進み、早季は二十六歳になっていました。

六年前に全人学級を卒業し、彼女は保健所の異類管理課での業務、覚は妙法農場で品種改良と遺伝子の研究に勤しんでいました。

一応の平和が維持される中、覚が仕事を依頼したバケネズミがどこかのコロニーからの襲撃にあい、状況が一変します。

現在、奇狼丸率いる大雀蜂系、もしくは野狐丸が代表を務める塩屋虻系にほとんどが分類され、二人に事情を聞きますが、なかなか実態が掴めません。

そうこうしているうちに、事態は急変します。

両コロニーの本体がぶつかり、なんと大雀蜂系が奇狼丸を残して全滅してしまったのです。

武力で勝るはずの大雀蜂系がなぜ敗北したのか。

いつの間にか不穏な気配が漂っていました。

悪鬼の再来

戦争の現場の様子から、人間が呪力を使って引き起こした結果という可能性が浮上します。

しかし、この平和を乱すことを望む人間はほとんどおらず、以前に町を出た真理亜と守の名前が挙がりますが、二人はすでに死んでいることが明かされます。

何も解決されず悶々としたまま、夏祭りが始まり、そこでなんとバケネズミの急襲が始まります。

人間側は突然のことにパニックに陥るも、強力な呪力を持つ鏑木肆星、日野光風を中心に立て直します。

日野は途中で命を落とすも、鏑木が奮闘。

早季と覚はその場で知り合った三人と組み、そのうちの一人の同僚が入院する病院に向かいます。

そこで待ち受けていたのは最悪の光景でした。

医療従事者三人を除いて皆殺しにされ、それをやったのは悪鬼だといいます。

なぜ厳重に管理してきたにも関わらず、悪鬼が生まれてしまったのか。

考える余裕もなく、早季と覚は命からがら逃げ切り、町にこのことを伝えます。

早季たちは立て直すための避難所である清浄寺に向かいますが、その途中で鏑木と悪鬼の戦いを目撃します。

一見、互角に見えますが、両者には決定的な違いがありました。

鏑木は愧死機構が備わっているため呪力で悪鬼を攻撃できません。

一方で、悪鬼は先天的に愧死機構が機能していないため、鏑木を殺害することに何の枷もありません。

結果、鏑木はあっけなく殺害され、早季たちは絶望の中、清浄寺に向かいます。

早季は、悪鬼の容姿から何者であるかを直感します。

真理亜にそっくりな顔、そして守そっくりな髪の少年。

彼は今は亡き二人の息子でした。

わずかな希望

清浄寺に辿り着いた早季と覚は、絶望的な状況を知らされます。

しかし、わずかな希望も残されていました。

早季の両親は職務を全うするために二人と入れ違えで町に戻り、母親は手紙を残していました。

そこには悪鬼を殺しうる兵器、サイコ・バスターが東京都に今もなお眠っていることが書かれていました。

これであれば愧死機構に邪魔されることはありません。

早季たちは残されていた旧型のミノシロモドキから情報を取得し、奇狼丸のガイドを得て東京に向かいます。

そこに残されているのは希望か、絶望か。

人間の存亡をかけた戦いは結末に向かって一気に加速します。

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感想

死力を尽くした戦い

これまでも命をかけた逃走、戦いは幾度もありました。

しかし、今回の戦いはそれらを遥かに凌駕します。

文字通り、地獄絵図でした。

理不尽な枷に苦しみ、何の助けも期待できない絶体絶命な状況で、早季たちは生物として生き残りたいという本能に従って最後の一分一秒まで諦めません。

彼女の強さが最も現れた巻でした。

絶望を食らっては立ち上がり、生き残るためのヒントを掴み取る。

安堵と緊張を繰り返し、生きた心地のしない読書でした。

もちろん最高に刺激的で、こんなに高揚したのは本当に久しぶりでした。

後味は決して良くない

最後の戦いの末、早季の視点では語られなかったこと、さらに新たな真実が提示されますが、それは決して後味の良いものではありませんでした。

人間とは何なのか。

これまでの行いは本当に正しかったのか。

答えは出ず、僕も早季と同様に、彼らのしてきたこと、それ以前に積み重ねられてきた歴史のことを考えずにはいられませんでした。

作品として見れば、単純なハッピーエンドでないことは明らかです。

希望もある

しかし、僕はこの物語の結末に希望を感じました。

早季の手記は千年後の人間に託され、これから彼女たちのすることを判断してほしいとあります。

これまでの悲劇がひっくり返せなくても、これからの悲劇を回避することは出来ます。

そのために必要な痛み、犠牲はあるかもしれません。

それでも早季はそれらを受け入れ、人間の未来のために前に進むことを決めました。

僕はこの覚悟がある限り、この物語に希望は残されていて、次の世代に繋がるのだと信じています。

おわりに

まさかここまでのめり込むとはこれっぽっちも思いませんでした。

どんどん広がる世界にワクワクしたと思ったら、見たくない真実に心を抉られ、本当の恐怖は自分に最も近い内側にあったことに気づかされる。

ここまで緻密な世界をしっかり書き切り、僕らの心に爪痕を残してくれた貴志さんには本当に感謝しています。

今はまだ読み返すだけの気力はありません。

でも、いつかこの物語を振り返り、早季たちとまた冒険に出たいと強く思いました。