『夏への扉』あらすじとネタバレ感想!今も語り継がれる不朽のSF小説
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか―新版でおくる、永遠の名作。
「BOOK」データベースより
言わずと知れたSFの金字塔ともいえる作品です。
発表されたのは1956年にもかかわらず、様々な媒体で紹介され続け、年代問わず多くの人を魅了しています。
2021年に映画化されたこともあって、再び注目を集めています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
夏への扉
主人公・ダンの愛猫であるピートは冬が嫌いで、その時期になると決まってダンに家にある十一のドア全てを開けさせます。
それは、ピートが十一のドアにいずれかが夏に通じているという固い信念を持っていたからです。
そして一九七〇年十二月のロサンゼルス、ダンもまた夏への扉を探していました。
裏切り
ダンは親友のマイルズとともに会社を設立し、ダンが開発を、マイルズが経営を担当します。
時代は一気にオートメーション化が進み、ダンはその中で家庭に目をつけ、革新的な装置を発明して業績を順調に伸ばします。
そこに今度はベルという女性が加わり、いよいよダンの人生が大きく変わります。
ベルはタイピスト兼会計係として雇われ、ダンはいつしか彼女にのぼせ上り、婚約まで結びます。
この時点でダンはベルの言いなりで、自社の持ち株の一部を彼女に譲渡。
これが悲劇の始まりでした。
ダンとマイルズは事業のことで争うことになり、株主三人で決を採ることになります。
ベルを味方につけていることから、ダンは自分の勝ちを確信していました。
ところがベルに裏切られ、ダンは会社を追いやられてしまいます。
冷凍睡眠
失意に暮れるダンはピートと共に冷凍睡眠で三十年間の眠りにつこうと考えましたが、途中で気が変わります。
一矢報いてやろうと考えたダンは、マイルズとベルに再度戦いを挑みます。
しかし、ベルの策略に破れたダンは催眠自白強制剤によって自身を失い、そのまま冷凍睡眠によって三十年の時を経ます。
目を覚ました時、そこは二〇〇〇年の世界でした。
感想
タイムトラベルだけではない魅力
本書では冷凍睡眠、後にタイムトラベル技術が登場し、これだけ聴くと典型的なSFです。
しかも現在のSF的な常識と照らし合わせるとありふれたネタで、決して目新しいというものではありません。
しかし、一九五〇年代という時代から未来を想像して執筆されたことを考慮すると、非常に夢がある内容だということに気が付くと思います。
古典SFとして名を馳せているのは伊達ではありません。
もちろん本書はそれだけが魅力ではなく、ダンや彼を取り巻く人物、環境もまた魅力的です。
特に愛猫ピートがドアを開けさせる姿を例にとって、夏への扉を探すという表現がとにかく好きすぎてたまりません。
こみ上げる感動
僕は本書をSF小説として読み始めました。
はじめは冷凍睡眠、タイムトラベルといったSF要素に目がいき、当初思い描いていた作品を読めたことに満足感を覚えていました。
ところが中盤以降、ダンの心の動きに僕も動かされ、感動が何度もこみ上げてきました。
大切な人たちに裏切られたダンが、本当に大切な存在を再認識して、そこに幸せを見つける。
どれだけ文化が変わり、技術が進化したとしても、人間の本質はそこにあるのではないか。
そんなことを思いながら最後まで読み終え、何とも言えない幸福感に包まれました。
本書はとても人間的な作品で、SFとして括ってしまうにはもったいない。
作品に心を動かされたいと願う人に、一人でも多く届くと嬉しいです。
おわりに
タイトル、表紙から受ける爽やかイメージと序盤はかけ離れていますが、やがてイメージに近づき、それを大きく超えた感動を与えてくれます。
六十年以上経っても色あせない輝きを、ぜひ堪能してください。
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