『メロディアス~異形コレクションLVIII~』あらすじとネタバレ感想!音が奏でるホラー作品集
〈音〉や〈音楽〉をモチーフに異形な物語を集めた15篇を収録。読者の皆様を《世にも異形》でメロディアスな世界にご招待! 全篇書下ろしシリーズ、58作目。〈収録作家〉阿泉来堂 井上雅彦 空木春宵 坂崎かおる 澤村伊智 篠たまき 斜線堂有紀 田中啓文 梨 西崎憲 久永実木彦 平山夢明 宮澤伊織 木犀あこ 芦花公園
Amazon商品ページより
異形シリーズ第五十八作目となる本書。
前の話はこちら。
今回は音楽や音がテーマの異形です。
足音や叫び声、はたまた得体の知れない音。
本書には本当に数多くの音があふれていて、小説の表現の幅広さやそれらを自由自在に操る著者の皆さまにもう脱帽です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
【不思議】合唱中に謎の声が聴こえる!?音楽史に残る不思議な話 「天使の声」について解説【恐怖】.mp4【梨】
風景描写はなく、まるでゆっくり実況のようなやり取りだけで構成されています。
人間は音の構成や理論を知らなくても、音によって特定の感情を持つことが分かっています。
そこで今回取り上げられたのは、宗教に関係した音で、それは『天使の声』と呼ばれていました。
エリーゼの君に【坂崎かおる】
携帯がまだなかった時代。
小学校高学年の時子だけが家にいた時、連絡網が回ってきます。
翌日にお弁当が必要になったという内容で、時子は次の人に連絡しようとして躊躇します。
相手は須藤あかりといい、ずいぶん前から不登校でした。
意を決して連絡すると誰か女性が出て、途中で保留音が鳴りだします。
いつまで経っても相手は出てこず、時子は思い切って電話を置いたまま、あかりの家に直接伝えにいこうと決めますが、これが間違いでした。
悪いお経はご遠慮ください【宮澤伊織】
愛実とふーこが食事していると、愛実が突然歌が聴こえると言い出します。
ふーこには聞こえません。
この時点で、霊的な何かであることが予想できました。
愛実は音楽室で聴いたことがあるものだとして、二人は歌の正体を突き止めようと調査を開始しますが、その正体は意外なものでした。
軸月夜【篠たまき】
僕の大叔父の家にはお布団部屋という謎の和室がありました。
仏教に関係していそうな掛け軸や彩色画などが飾られ、親戚で集まる時、子どもたちはお布団部屋で寝ることが通例となっていました。
ある夜、僕がうつらうつらしていると、和紙に描かれた神仏たちがしゃべり始めます。
その時、それが夢なのか何なのかははっきりせず、僕の成長とともに記憶からも薄れていきますが、その意味が後になって分かります。
歌声【阿泉来堂】
私は二週間前、自宅の階段から転落し、事故前後の記憶を失うとともに、両目の視力を失ってしまいます。
そんなある日、私はどこからか聴こえてくる歌声に導かれ、一人で病院を抜け出します。
幸い、事故などにあわずに済みましたが、ここで私は以前と違い、人の声が耳障りなものに聴こえるようになっていました。
では、あの歌声は何だったのか。
その正体はすぐに分かりました。
吠えるミューズ【井上雅彦】
博士の助手のジョンは、ロンドン警視庁本部に呼ばれます。
そこは外国人に関係する刑事事件を担当している場所で、博士にある人物を診てほしいのだといいます。
その人物は男性で、銃を手にした二つの死体の間で発見され、保護されてから強いショックで意思の疎通が困難な状況でした。
博士は自身の経験や知識を活用してコミュニケーションを試み、やがて男性やこの事件の正体が少しずつ明らかになります。
蜻蛉の眼鏡は【木犀あこ】
真紀は家で、先生の額田と話しています。
彼女は学校に行けなくなってしまい、額田はそれを心配した彼女の両親が用意した家庭教師でした。
昔、このあたりには見たものを目に焼き付けるとんぼがたくさんいた、といいます。
中盤頃までとんぼの話や真紀の置かれた状況がよく分かりませんでしたが、次第に読者は自分が誤った認識をしていることに気が付きます。
小夜鳴け語れ、凱歌を歌え【斜線堂有紀】
肥前の龍造寺は、豊後の大友を幾度も退けてきました。
その理由は歌にあり、龍造寺は歌によって作戦を戦場の兵士たちに伝え、他国ではありえないような連携を見せていたのでした。
その歌い手を『夜啼番』といい、月照という少女が新たな夜啼番に選ばれます。
月照の役目は歌を乱して大友に勝利をもたらすことでしたが、夜啼番の実態は彼女に大きな衝撃を与えます。
楽庭浄土【平山夢明】
高校二年生のわたしの家には、三つ上の姉がいて、彼女は四年前から風邪にかかっていました。
しかし、冒頭の描写からそれが風邪ではないことが明白で、何らかの精神疾患にかかっているように見えます。
教師である父親の出世にとって、姉のことが明るみにでることはまずく、彼女はずっと閉じ込められていました。
家族のせいで未来が閉ざされていくことが嫌だったわたしは、夜な夜なバグという人物と会って気持ちを慰めていました。
h〇le(s)【空木春宵】
舞踏家の絢咲灰音。
彼女は数年でピークを迎え、その後、表舞台から姿を消しました。
とある人物が幾度となく取材を申し入れ、ついに灰音へのインタビューが許可されました。
灰音には無数の孔があり、それが彼女を彼女たらしめるものでした。
ここでは絢咲灰音という人物がどのような人生を歩んできたのか、本人とインタビュアーの筆者の視点それぞれから描かれますが、そこには大きな齟齬がありました。
ヨナにクジラはやって来ない【芦花公園】
樽四島という東京の離島。
そこに六十人にもの霊能者が集められ、大規模なお祓いが行われるのだといいます。
ただ実際は物部斉清がお祓いをするため、その他の霊能者は三日間、念を送れば多額のお金を手に入れることができます。
こうして一同は離島に集められたわけですが、そこには予想もしていないようなものが待っていました。
僕はここで殺されました【澤村伊智】
録音された音源が幾度となく再生される本作。
幾重にも折り重なっているため、どれが本物の語りで、何が再生物なのか曖昧になります。
どこか不気味で、それでいて肝心なものが抜けているため本格的な恐怖には欠けた音源。
しかし、本物の恐怖はちゃんと近づいてきていました。
黒い安息の日々【久永実木彦】
美句の祖母は魔女でした。
彼女が生まれる前に亡くなっているので真実は定かではありませんが、彼女はそれが真実だと信じています。
同級生の沙螺とはオカルトやホラーで繋がっていて、ある日、美句は悪魔を召喚するための楽譜を見つけて沙螺に見せます。
この楽譜の演奏を再現して悪魔を召喚し、世界を終わらせようと。
二人はとても信じられないようなことを本気で始めますが、それが思わぬ結果をもたらします。
彼女の国会議事堂【西崎憲】
清水がコンビニで働いていると、大学時代の同期・桑原が現れ、拉致のような形で清水を連れていきます。
車内で言われた目的は、ヒルコ退治でした。
ヒルコとは人間型歌唱機械だといい、桑原もまたその分野の研究をしています。
ヒルコは音によって人や物を破壊してまわっていて、清水をそのヒルコを止めるために呼ばれたのでした。
真夏の夜の夢【田中啓文】
まるで神話のような、途方もない話。
世界には一種類の音楽しかありませんでしたが、別の神がもたらした全くあたらしい音楽も存在していて、それらはせめぎ合ったのだといいます。
嘘とも創作ともつかぬ話が繰り広げられますが、それらはやがて我々の知る音楽と思いもよらないような結びつけを見せます。
感想
音との相性
ホラーは五感のどれとも相性抜群ですが、本書で取り上げている音とも最高のハーモニーを見せてくれました。
意味の分かる言葉や音のような、単純なものだけではありません。
意味がよく分からないけれど、繰り返されることで恐怖をまとってくる音。
今までどこでも聞いたことがないような言葉。
それらが読者の頭の中で形作られ、恐怖を生み出すところがもう最高でした。
これが映像化されて実際の音になってしまうと想像力が半減してしまうため、その観点からすれば、小説だからこそ引き出せた魅力だといえます。
一人、部屋の中で読んでいると、どこかからその音がしそうなほどの臨場感がありました。
オススメ
個人的におすすめなのは、篠たまきさん、木犀あこさん、久永実木彦さんの作品です。
篠さんの作品は脳が再生を拒むほどグロテスクな描写もありつつ、それが美しも感じられる妖しさが魅力的でした。
木犀さんの作品はずっと不気味な雰囲気が拭えず、その違和感が最後で爆発する瞬間が何ともいえないカタルシスがあります。
そして久永さんの作品ですが、これまでの異形シリーズから好きでしたが、今回も最高です。
どこかラノベのようなテイストがありつつも、本質にあるものは全然ライトではなく、このギャップが癖になります。
おわりに
毎回これだけのクオリティを書き下ろし作品で構成していることに、改めて驚きました。
一冊一冊がかなりぶ厚いのでチャレンジが難しいですが、なるべく早くに既巻も読破したい今日この頃です。
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