『暗黒童話』あらすじとネタバレ感想!いくつもの話が絡み合う長編ホラー小説
突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに…。乙一の長編ホラー小説がついに文庫化。
「BOOK」データベースより
乙一さんの初長編ホラー小説となる本書。
様々な視点が入り混じって進行する物語は展開が読めず、ミステリ要素も兼ね備えています。
ホラーらしい強烈な恐怖がある一方で、心を動かす温かさもあり、乙一さんらしさが詰まっています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
カラスの物語
言葉を話せる鴉は、大きな屋敷に暮らす少女と出会います。
少女は目が見えないせいで鴉を人間だと思い込み、鴉もまた自分のことを驚かずに話せる存在に喜びます。
心を通わせる中で、鴉は少女にもう一度光と色を感じさせたいと思い、そのためであればどんな犠牲をも惜しまない覚悟でした。
そして、その覚悟を体現するように、行動を開始します。
記憶を失った少女
高校生の白木菜深は左眼を失い、その時の心理的ショックで記憶を失ってしまいます。
家族や友人のことはおろか、自分のことさえ覚えておらず、周囲の自分に対する評価の高さに戸惑い、その期待に応えられず失望させてしまう日々を過ごします。
そんな時、母方の祖父が非合法な手段で移植用の左眼を手に入れてきて、菜深は左眼を取り戻します。
しかし、それでも菜深の記憶は戻らず、それどころかおかしなことが起き始めます。
何がきっかけになるのか分かりませんが、不意に左眼に焼き付いた記憶を見るようになり、やがてそれが冬月和弥という少年のものであることに気が付きます。
なぜこんなものを見るのか。
菜深は和弥の記憶を見るたびに記録をとるようになり、すでに和弥が亡くなっていることを知ります。
犯人の行方
和弥はいつ亡くなったのだろう。
菜深は新聞で調べますが、そこで見つけた相澤瞳という行方不明の少女の名前を見つけた瞬間、左眼がうずきます。
左眼が記憶していたもの。
それはどこかに監禁された瞳と、監禁した犯人から和弥が逃げようとして、車に轢かれた様子でした。
菜深にとって和弥は大事な人であり、彼の命を奪ったに等しい犯人が許せない。
そして、瞳がまだ監禁されたままなら、助けたい。
そう思い立った菜深は、左眼で見た記憶を頼りにその場所を目指します。
感想
絡み合う物語
本書に慣れるまで、少し時間がかかりました。
冒頭の鴉の話が菜深のパートにかかってこず、どういうことだろうと考えていると、どうやら鴉の話は童話作家の創った童話であることが分かります。
童話作家の視点でも描かれ、物語の構成がようやく飲み込めてきました。
と、思えば、菜深と童話作家の話が絡み合ってくると、合致すると合わない部分が出てきて、ここでも考えることになります。
なぜ食い違いが生まれるのか。
乙一さんによる、何らかのミスリードではないか。
誘拐事件を取り扱っていることもあり、ホラーというよりも、ミステリという側面で楽しみました。
もちろんホラー要素も十分で、むしろ強烈です。
直接的な描写もあるので、ホラーというよりもグロテスクが表現が苦手という人は注意が必要かもしれません。
心の触れ合い
僕は本書をホラーが読みたくて手に取りましたが、途中からは菜深と登場人物の交流を通して人間の温かさを楽しむようになっていました。
元々の性格ではなくなって居場所を失い、和弥がいた場所で新たな人間として生まれ変わる。
和弥を失った人たちの時間が動き出し、菜深もまた彼らや亡くなった和也のために犯人を追う。
終盤にかけては心の動きの振れ幅は最高潮になり、胸が不思議な感情で満たされました。
嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか、もっと違う感情なのか。
乙一さんの作品だなと、もう満足です。
全体像を知ってから再読すると、違った味わいがあることを確信しているので、時間を見つけてじっくり再度その世界に浸りたいと思います。
おわりに
タイトル通りのダークさ、そしてそこからは予想できない温かみのある作品でした。
ホラー、ミステリ、感動もの。
様々なジャンルを内包して、それでいてどれも一級品なので、自信を持ってオススメできる一冊です。
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