『黒と茶の幻想』あらすじとネタバレ感想!少しずつ明らかになる過去の本当の姿
太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。
「BOOK」データベースより
雨の音を聞きながら、静かな森の中を進んでいく大学時代の同窓生たち。元恋人も含む四人の関係は、何気ない会話にも微妙な陰翳をにじませる。一人芝居を披露したあと永遠に姿を消した憂理は既に死んでいた。全員を巻き込んだ一夜の真相とは?太古の杉に伝説の桜の木。巨樹の森で展開する渾身の最高長編。
「BOOK」データベースより
『三月は深き紅の淵を』から始まる理瀬シリーズの第三弾で、上下巻でけっこうなボリュームを誇ります。
第二弾はこちら。
前作『麦の海に沈む果実』に登場した梶原憂理が登場(過去の話で)しますが、前作と繋がっているとは言いにくい内容なので、本書から読み始めてもそこまで違和感はないと思います。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
非日常を味わう旅
学生時代を共に過ごした四人の男女。
十数年ぶりに再会した四人は、四十歳手前にして現実から離れて非日常を味わうことを目的とした旅行を計画します。
目的地はY島(屋久島)。
非日常を味わうためにそれぞれが謎を提示し、解決するために意見を出し合うというミステリのような手法を楽しみます。
本書では四人それぞれが視点となり、やがて話や思考は共通の過去に及びます。
浮かび上がる過去
過去に話が及ぶと、そこで出てきたのは四人の学生時代の共通の知人・梶原憂理でした。
子役時代から演劇の舞台を踏み、美しい少女。
ある人にとっては親友で、ある人にとってはただならぬ仲で。
憂理はある夜を境に姿を消していて、その後の消息はつかめていません。
彼女はその後、どうしたのか?
それぞれの立場から語られる話が合わさり、だんだんと憂理だけでなく、その頃は知らなかった真実が明らかになっていきます。
旅が終わる頃に謎は解けるのか。
四人は期待と不安に揺られながら会話を続けます。
感想
現実的なのに幻想的
前二作は幻想的で、現実というよりも分かりやすく物語というテイストでした。
しかし本書は三十代後半の男女四人が現実を振り切るようにY島を旅行するという内容で、会話の端々から現実の世知辛さが見受けられます。
しかし、誰かの言葉をきっかけに過去を振り返ると、それが一気に幻想的な雰囲気に変わります。
本当にあったことなのか。
その過去が本当に今に繋がっているのか。
上巻から下巻に進むにつれて幻想的な雰囲気は濃くなっていき、気が付けば恩田ワールド全開になっています。
この境目の曖昧な感覚が秀逸で、恩田作品に慣れ親しんだ人であればすぐに作品に引き込まれると思います。
憂理の本当の姿
『麦の海に沈む果実』では理瀬のルームメイトとして、そして親友として登場した憂理。
本書では、メインとなる四人の共通の知人として登場します。
それぞれの中で憂理の思い出がありますが、一人ずつ彼女のことを口にすることでおぼろげだった過去の輪郭が明確になり、見えていなかった真実が明らかになっていきます。
『麦の海に沈む果実』に登場した彼女と同一人物かといわれると微妙な気がしますが、彼女のその後が明らかになるので読んで損はないと思います。
しかし、物語的にもほとんど独立しているので、憂理のことを知らずに本書だけ読んだとしてもそこまで問題はないと思います。
ある意味退屈かも
上下巻とかなりボリュームがありますが、物語はあまり展開しません。
行動といえば数日の旅行だけで、後は会話と回想のみで構成されています。
この会話や回想が最初こそ様子見という感じですが、後半になるにつれてそれぞれの思い出がリンクして一気に面白くなります。
恩田さんの作品の愛読者であればまず間違いなく楽しめると思います。
一方で、彼女の作品をあまり読まない、あるいは合わない人にとっては退屈に感じられるかもしれません。
おそらく恩田さんの初作品としていきなり本書を選ぶ人はいないと思うので問題にならないかもしれませんが、そういう人がいればご注意ください。
おわりに
最初は次第に高まる不安にドキドキしますが、後半になるにつれて真実が分かったことによる爽快感があり、特に最後に一番客観的な節子が語り手になったのが後味の良さに一役買っています。
ある程度大人になってから読んだので、こんな旅行ができる仲間がいることを羨ましく思いました。
本当に良いタイミングで出会えたと思います。
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