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『検事の本懐』あらすじとネタバレ感想!佐方の歩んだ人生が見えるシリーズ第二弾

harutoautumn
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ガレージや車が燃やされるなど17件続いた放火事件。険悪ムードが漂う捜査本部は、16件目の現場から走り去った人物に似た男を強引に別件逮捕する。取調を担当することになった新人検事の佐方貞人は「まだ事件は解決していない」と唯一被害者が出た13件目の放火の手口に不審を抱く(「樹を見る」)。権力と策略が交錯する司法を舞台に、追い込まれた人間たちの本性を描いた慟哭のミステリー、全5話。第15回大藪春彦賞受賞作。

「BOOK」データベースより

『佐方貞人』シリーズ第二弾となる本書。

前の話はこちら。

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前作と違い、佐方の検察官時代や彼の父親の話などが中心の五つの短編で構成されていて、佐方がどのようにして今のスタイルになったのかが読み取れる内容になっています。

シリーズを追う上で重要な作品であることは間違いないので、ファンは必見の一冊です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

第一話『樹を見る』

米原東署の署長を務める南場は、一昨年から米崎市で起きている連続放火事件に頭を悩ませていました。

その数は十七件。

唯一、十三件目だけは住居が全焼するほどの大火事で、そこに住む家族三人が亡くなっていますが、それ以外は比較的小さな放火です。

警察学校時代の同期で県警本部の刑事部長の佐野はここぞとばかりに南場の責めたて、南場の脳裏に左遷の文字が浮かびます。

そんな時、十八件目の放火が発生し、新井という男が容疑者として浮上します。

通常であれば令状を取るところですが、正規ルートだと佐野の妨害によって令状が取れない可能性もあります。

そこで南場は米崎地検の筒井に相談。

筒井は南場の事情を把握し、当時、検察官になって三年目の佐方を新井の担当にします。

南場はこれで連続放火事件が全て解決すると確信します。

ところが、新井は十三件目だけは認めようとせず、佐方もその言葉を信じて十三件目の犯人を見つけるために捜査を開始します。

第二話『罪を押す』

筒井のもとに、検事になって二年目の佐方が配属になった頃の話。

佐方の評判は聞いていましたが、彼の風貌などからその実力は読み取れませんでした。

そんな時、小野という男が窃盗罪で検察に送致されてきました。

小野は『ハエタツ』というあだ名で呼ばれていて、三年前にも窃盗罪で捕まり、筒井によって起訴されていました。

今回は出所した日に腕時計を盗んだということで、誰もが小野の犯行だと疑いませんでした。

小野も自分がやったと自供しています。

しかし、佐方だけは不起訴の可能性があると信じていて、犯行に及んだ動機から犯人は小野ではないと推測。

誰もが目を向けないことに佐方は目を向け、やがて事件の本当の姿が見えてきました。

第三話『恩を返す』

佐方のもとに、高校の同級生だった天根弥生から電話がかかってきました。

かつて互いの孤独を埋め合った二人。

弥生は警察官に強請られていることを告白し、佐方に助けを求めます。

弥生はかつて友人に騙されて強姦され、その時のことが映像として残されていました。

警察官の勝野はそれをネタに弥生を強請り、彼女は婚約者にバラされることを恐れて抵抗できずにいました。

佐方は恩人の弥生を助けるべく、勝野と対峙するのでした。

第四話『拳を握る』

中小企業経営者福祉事業団とある与党議員の贈収賄容疑が問題になり、東京地検の特捜部から各地検に応援要請が出されました。

山口地検の検察事務官・加東は先輩検事と共に抜擢され、熱意を胸に東京地検に乗り込みます。

各地の実力者が集まる中、そこにいたのが佐方でした。

しかし、贈収賄の確固たる証拠は見つからず、おまけに参考人が逃げ出してしまいます。

焦った上層部は参考人の家族や親類縁者から事情聴取することを決め、人手をカバーするために佐方と加東がコンビを組んで参考人の叔父に当たります。

何が何でも証拠を得たい上層部に対して、佐方は相手を一人の人間として見て、やがて誰も見えていなかった真実に辿り着きます。

第五話『本懐を知る』

ニュース週刊誌のライターである兼先は記事のネタに困っていましたが、偶然、十年前以上に広島の弁護士が業務上横領で実刑をくらっていたことを思い出します。

その弁護士の名前は佐方陽世。

今は亡き佐方の父親でした。

陽世は実直な人柄で信頼を集め、恩義ある小田嶋建設の創始者・隆一朗に顧問弁護士として尽くしていたはずでした。

ところが、陽世は隆一朗の死後、遺産のうち5000万円分の債券を現金化して、自分の口座に移しました。

陽世はこの事実が発覚すると犯行を認め、大人しく実刑を受けています。

なぜ弁護士の陽世は何の弁解もしなかったのか。

気になった兼先は広島や佐方のもとをたずね、当時のことを調べ始めます。

やがて真実が見えてきますが、それは世間の知ることとは全く違っていました。

感想

佐方の背景

本書では弁護士になる前の、検事時代やもっと前の佐方が描かれています。

彼がどのような理由で検事を目指し、どんなキャリアを積んできたのか。

そこには一作目と変わらない、余計なものに囚われずに一人の人間と対話しようとする誠実さがあり、読んでいて非常に心地よかったです。

特に最後の『本懐を知る』は佐方という人物を知る上で絶対に外せない重要なエピソードだと思います。

親子で受け継がれる意思。

佐方の人間らしい部分。

短編なので話がスッキリまとまっていて、読みやすいと思います。

今後への期待

ここまでシリーズで二作刊行されていますが、どんな事件も佐方が鮮やかに解決しています。

見ていて清々しい一方で、もっと追い詰められて真価を発揮する佐方を見てみたい、という欲求があるのも事実です。

佐方の検事時代や弁護士としての活躍、筒井のことなど掘り下げる要素はまだまだあるので、これからそんな機会も訪れるのではないかと密かに期待しています。

柚月さんの作品はどれも骨太で安心して読める安定さがありますが、本シリーズは頭一つ抜けてその良さが出ています。

ぜひゆっくりじっくり続けてもらって、自分もそこに合わせていけたらと思います。

おわりに

若い頃の佐方が描かれ、彼の信念と呼べるものが変わらずきていることに好感の持てる作品でした。

佐方の強さはまだまだ底が知れないので、彼がうろたえるような事態を迎えるくらいにシリーズが育ってくれると嬉しい限りです。

次の話はこちら。

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