徹底ネタバレ解説!『HELLO WORLD if ――勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―― 』あらすじから結末まで!
世界で一番“誠実な失恋”をした勘解由小路三鈴の物語。平凡で物静かな中学生活を送っていた三鈴のもとに、ある日、未来からやってきた自分、ミスズが現れる。彼女は、これから三鈴が出会うとても大切な二人を助けるために過去に来たと言う。ミスズと出会ったことで、どんどん感情を解放し魅力的な少女へと成長していく三鈴。やがて高校へ進学した彼女はそこで運命の二人、直実と瑠璃に出会う。ようやく出会った二人を救うために三鈴が起こした奇跡。それは―。映画『HELLO WORLD』のifの世界を描くスピンオフ小説。
「BOOK」データベースより
『HELLO WORLD』のスピンオフ作品となる本書。
主人公は作中でも存在感を出していた勘解由小路(かでのこうじ)三鈴で、原作小説や映画とはちょっと違ったifの世界が描かれています。
原作ではあまり描かれなかった三鈴の色々な一面が描かれ、彼女のことがもっと好きになること間違いありません。
また原作の裏側を見ているような一面もあるので、物語の構造があまり理解できなかった人にも分かるような構成になっています。
この記事では、そんな本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
はじめに、原作である『HELLO WORLD』を読んだ、あるいは映画を見た前提で話を進めます。
あくまでスピンオフ作品なので、原作があるからこそ本当の面白さが発揮されますので、未読の方はぜひ読んでみてください。
変わりたい
勘解由小路三鈴は高校の推薦面接試験後、クラスメイトの女子が推薦合格は無理だと泣いている所を目撃します。
それを慰めているのは多くの女子の憧れのサッカー部のエースで、二人の距離感は完全に交際しているものでした。
三鈴はこの時点ではじめてその男子に恋をしていたことに気が付き、中学三年間を振り返っていかに自分が主張を押し殺して周囲に合わせていただけだったかに気が付きます。
その日以来、三鈴は変わりたいと強く願うようになりました。
わたしさん
三鈴は中学からの帰宅途中、京都の空だというのに赤いオーロラを目撃。
そして、謎の狐面たちに追われ、必死に逃げていました。
その時、三鈴の目の前に雪のように白い子狐に出会い、彼の後を追います。
なんとか家に帰ることができましたが、子狐は勝手に三鈴の部屋に上がり込んでしまいます。
三鈴が戸惑う中、子狐は人の言葉を話し、自分の正体を説明するといって変身します。
子狐は女性に変身し、三鈴は自分の姿を見比べて女性が自分に似ていることに気が付きます。
女性は、二十年ちょっと先の未来からきた三鈴でした。
未来の三鈴は今の三鈴の心境を知っているだけでなく、なりたい自分になれると三鈴の応援をしてくれます。
そして彼女が過去に来た目的。
それは、これから三鈴が出会う大切な二人を助けるためでした。
二人の名前を一行瑠璃、堅書直実といい、二人はやがて恋人になります。
しかし、付き合い始めてすぐに瑠璃は事故に遭ってしまいますが、彼女を直接助けるのが目的ではありません。
今から十年後の未来からナオミがやってきて、瑠璃を助けようとします。
しかし、ナオミのタイムスリップ技術には問題があり、何度も失敗しては中身のないナオミの『幻影』をこの世界に送り込んでいました。
ナオミがこの時代に来るためには、その幻影を消す必要があり、それこそが三鈴の役目でした。
三鈴は、自分を変える手伝いを未来の三鈴がすることを条件に、幻影を消すことに協力します。
以後、三鈴のことを『わたしちゃん』、未来の三鈴のことを『わたしさん』と呼ぶようになります。
ここでは混同を避けるために未来の三鈴のことを『わたしさん』と表記します。
三鈴はわたしさんの力で赤ずきんちゃんに狐耳を生やした姿に変身し、空を飛んで幻影を探します。
見つけたら魔法のステッキで触れるだけ。
そうすれば、狐面たちが幻影におおいかぶさり、消去してくれます。
そしてわたしさんのアドバイスで髪型、服装も思い切り変え、自分が好きになれる自分に生まれ変わるのでした。
出会い
そして迎えた高校入学。
直実と瑠璃は同じクラスで、三鈴は離れてしまいます。
凛とした瑠璃に対して、直実は正直頼りない少年でしたが、自分と同じで変わろうとしていることに気が付くと親近感がわきます。
三鈴はミッションと関係なく瑠璃に接触し、この子と友達になりたいと心の底から思います。
違和感
ついに未来のナオミが現れます。
幸い、三鈴たちには気が付いておらず、ちゃんと瑠璃を助けられるよう見守ることにします。
直実と瑠璃の仲はすぐには縮まりませんが、それでもゆっくりと前進します。
そして直実はナオミの指導のもと、グッドデザインが使いこなせるよう特訓に励み、三鈴はそんな彼にどんどん感情移入していきます。
直実の支えを作ろうと瑠璃との接点を増やすよう働きかけ、三鈴を橋渡しにして直実と瑠璃は距離を縮めていきます。
何もかもが順調に見えました。
唯一、三鈴の胸をよぎる違和感だけが不安として残ります。
恋
ナオミは三鈴の予定外の行動に疑問を抱いていますが、直実と瑠璃の仲が予定よりも早く深まっているのでよしとします。
三鈴はさりげなく二人の仲を見守りますが、三鈴の中の違和感は増すばかり。
そして古本市の一件が終わった時、直実のことが好きになっていることにようやく気が付き、しかし自分とは決して結ばれないことに三鈴は涙を流すのでした。
気落ちしたまま、三鈴は事故の当日を迎えます。
三鈴とわたしさんが見守る中、直実と瑠璃は狐面たちによって事故現場に強制的に連れてこられますが、直実はグッドデザインでブラックホールを作り出すことで雷を回避。
作戦は成功かと思われました。
しかし、ナオミの目的は『器』と『中身』が同調した瑠璃であり、彼女を連れ去ります。
わたしさんはこうならないよう何度もトライしてきましたが、今回も失敗に終わり、三鈴の本当のことを打ち明けます。
わたしさんは未来から来たと話しましたが、あれは嘘で、三鈴のいるこの世界も二〇四七年でした。
三鈴のいるこの世界は、アルタラⅡが記録している二〇二七年の京都で、わたしさんはその外側からやってきたのです。
そして、本当に脳死しているのはナオミで、彼本来の心を取り戻すことで器と中身が同調させることで救おうとしているのです。
しかし、何度トライしてもナオミは執念を捨てられず、失敗。
今回は三鈴のおかげで重要なデータがとれたので、わたしさんは一度この世界をリセットし、次の世界に繋げるつもりでした。
三鈴はなす術もなく立ち尽くしていると、わたしさんに通信が入ります。
その相手はわたしさんと同じ時を生きているルリで、この先にこそナオミを救う重要なキーが存在すると考え、この世界を続行することを提案。
これも三鈴のおかげです。
リスクが高いと反対するわたしさんですが、親友のルリの言葉に動かされ、三鈴と一緒にもう一度直実と瑠璃を助けることを決意します。
失恋
ルリはカラスの姿になって直実のサポートに回り、三鈴とわたしさんもナオミと瑠璃が待つ二〇三七年に移動します。
病院に着くとすでに直実が瑠璃を連れ出した後で、残っているのはナオミだけでした。
三鈴はナオミに対して好きだったことを打ち明け、ナオミも含めて二人が幸せになれる方法を探そうと提案します。
ナオミはまだ可能性があることに気が付き、三鈴と二人で行動を開始します。
道中、狐面たちが行く手を遮りますが、三鈴は魔法のステッキで狐面たちをマーキング。
マーキングされた狐面は真っ赤に染まり、三鈴の指示に従ってくれるようになりました。
ナオミと三鈴は直実と瑠璃が京都駅に向かえるようフォロー。
三鈴は自分の恋心と向き合った上で、大事な二人が助けるため奮闘します。
あとは京都駅の大階段を二人が下るだけ。
三鈴は狐面をしているので、二人が気が付く心配はありません。
三鈴はこの後に及んで気持ちにけじめをつけられずにいました。
その時、瑠璃が声をかけます。
彼女は相手が三鈴だとは分かっていませんが似ているとして、自分が三鈴のことをどれだけ羨ましく思っているのかを伝えます。
直実と同じくらい、三鈴にもそばにいてほしいのだと。
瑠璃が気が付いているかは分かりませんが、彼女は三鈴に抱きつき、それから一足先に去っていきます。
最後の最後で狐面たちが抵抗しますが、三鈴は真っ赤な狐面たちで対抗し、直実が帰る時間を稼ぎます。
三鈴の狐面が壊れるアクシデントもありましたが、これで万事解決のはずでした。
しかし、問題はまだありました。
狐面が壊れたことで三鈴は三鈴として認識され、この世界に存在する三鈴と重複してしまったことで消去対象になってしまいます。
狐面が三鈴に襲い掛かりますが、ナオミがかばってその体に刃を受けます。
三鈴は絶叫しますが、わたしさんはもっと驚きます。
今の行動で、ナオミの器と精神が同調したのです。
ルリの映像とナオミは再会し、現実に向かって歩き出します。
三鈴は安心すると同時に、失恋したことに涙を流し、わたしさんはそんな彼女の背中に手を回します。
もう少し一緒にいたい二人ですが、アルタラが情報を無間増殖させたことで三鈴の世界は新しい世界になり、アルタラの中におさめておくことがもうできませんでした。
これからは記録ではなく、現実と同じ世界が待っているのです。
わたしさんは二十年後の再会、つまり三鈴が自分と同じ年になったら鏡越しに会おうと約束し、二つの世界は離れていくのでした。
結末
三鈴は気が付くと、元の世界に帰っていました。
ここはまだ誰も知らない世界で、向こう岸では直実と瑠璃が手を繋いでいました。
この世界で最初の失恋ですが、三鈴は満面の笑みを浮かべます。
この世界で起こる失恋全てがこうであってほしいと願うほどでした。
三鈴は二人の幸せを願うと同時に、また恋をしようと思います。
大切な二人がいるこの新しい世界を味わうために、三鈴は駆けだすのでした。
感想
スピンオフ前提での原作
本書は映画公開と同時に発売になりましたので、おそらく企画段階でスピンオフもセットで用意されていたのだと思います。
それくらいクオリティが高く、単に原作を補強するだけでなく、原作を受けてそれをさらにレベルの高い作品に昇華させる役割を担ってくれています。
三鈴の可愛さ、頑張り屋さんなところなど見所も多く、原作以上に感動を得られる作品でした。
あと、原作では曖昧に終わるラストと違いスッキリ終わってくれたので、新しい世界に踏み出す気持ちがよく表現されていました。
欲をいえば、原作でもっと三鈴の存在を強く押し出してくれると、本書がより思い入れの強い作品になったのではと思います。
『HELLO WORLD』とは別もの
一方で、野崎まどさんの小説が好きな人からすると、本書は評価が分かれるかもしれません。
本書の著者は伊瀬ネキセさんで、三鈴のキャラクターにあった素直で率直な文章でこれはこれで良かったです。
しかし、慣れるまで『なぜ野崎さんじゃない…』と考えながら読んでしまったので、それが目当ての人は要注意です。
できれば先入観なしで読んでほしいです。
おわりに
そこまではまるつもりはありませんでしたが、気が付けば原作、映画、スピンオフと全て見てしまいました。
青春恋愛要素とSF要素が非常にバランス良く散りばめられ、アニメ好きもつい納得してしまうほどの高い完成度の作品だと思います。
一方、デートで映画を見たものの、話が難しくて寝てしまったというお客さんもちらほらいたので、普段こういった作品に馴染みのない方は注意した方がよいかもしれません。
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