『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VIII 太宰治にグッド・バイ 』あらすじとネタバレ感想!
太宰治の遺書とみられる文書が、75年ぶりに発見された。太宰本人の筆である可能性が高いことから筆跡鑑定が進められていたが、真贋判定の直前に仕事部屋で起きたボヤにより鑑定人が不審な死を遂げる。李奈が真相究明に乗り出すが、同時期に本屋大賞にノミネートされた同業者の柊が行方不明になったことで、胸中は穏やかではない。太宰の遺書と気鋭の作家の失踪に関連は? そして遺書は本物か? 手に汗握るビブリオエンタメ!
Amazon商品ページより
シリーズ第八弾となる本書。
前の話はこちら。
今回はは『人間失格』などで知られる太宰治の新たな遺書をめぐって、李奈がまたしても奔走することになります。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
五通目の遺書
太宰治は三十八歳の若さで入水自殺し、その時に四通の遺書を用意していました。
それから七十五年ぶりに五通目の遺書と見られる文書が発見され、世間で話題になります。
科学鑑定でこれまでの遺書と同じ半紙、毛筆、墨汁が用いられていることがすでに判明していて、筆跡鑑定人の南雲は太宰本人の直筆である可能性が極めて高いと公表しています。
サイン会
李奈の著書『マチベの試金石』は本屋大賞にノミネートされ、以前に比べると注目度があがり、作家として前進していました。
とあるサイン会の時のこと。
李奈はファンの対応をしながら、同じ作家である柊日和麗(ひいらぎひかり)のことを気にしていました。
彼は李奈と同じく本屋大賞に作品がノミネートされ、パーティーで少し話した程度の関係ですが、柊の繊細でお互いに共感できるところに惹かれているようでした。
柊はサイン会に顔を出すと言ってくれていましたが、結局現れず、李奈は落胆します。
ある日の夜中、李奈はKADOKAWAの担当編集者・菊池に起こされ、どこかに連れていかれます。
そこは南雲の自宅で、彼は一酸化炭素中毒で亡くなっていました。
書斎でボヤがあり、太宰の遺書と思われる文書は灰になってしまったのだといいます。
事故当時、南雲の家には彼の鑑定結果を待ちわびた多くの編集者が待機していて、誰も南雲のいた書斎に近づいていないことを証言しています。
これは南雲による放火自殺なのか。
太宰の遺書は本当に燃えてしまったのか。
それだけでも李奈は困ってしまうのに、同時期に柊が失踪してしまったことが判明し、李奈は二つの件を追いかけることになります。
感想
素晴らしい題材
僕は太宰治の作品は数冊程度しか読んだことがありませんが、彼の自殺した土地に多少の縁があることもあり、小さい頃から何となく身近に感じていた作家でした。
特に『グッド・バイ』は伊坂幸太郎さんの『バイバイ、ブラックバード』を読んでからずっと興味があったので、本書による解説は非常に面白いと感じながら読みました。
太宰の魅力は共感性である。
本書ではそんな風に語られていて、僕はその視点で読んだことがなかったので、かなり新鮮でした。
せめて『人間失格』くらいはこの視点を踏まえて再読したいものです。
納得のいかない部分
本シリーズをいつも楽しく読んでいるのですが、本書だけはどうしても最後まで消化できずにモヤモヤしたものが残ってしまいました。
それは、柊の存在です。
本書の冒頭にポッと登場して、李奈の心を占めるほどの大きな存在であることが描かれます。
ところが、読者に与えられた情報ではそこまで惹かれる部分が見つからないし、生の柊が描かれることもありません。
そのため読者の気持ちと李奈の気持ちに乖離が生まれ、感情移入ができない事態を生んでいました。
それからほぼ『グッド・バイ』の引用だけで進行するパートもあり、いくら題材にしているといってもそれはやりすぎではないかとため息がこぼれました。
刊行スピードが早いので、内容をそこまで忘れずに次巻を読めるのは大変ありがたいのですが、それでも読者置いてけぼりのこの展開はいただけません。
おわりに
釈然としない部分もありましたが、太宰治のことをより深く知れたという点では面白い一冊でした。
次巻では本来読みたかった本シリーズの流れに戻っているのか。
注目したいと思います。
次の話はこちら。
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