『騙し絵の牙』あらすじとネタバレ感想!出版業界の現状と新たな未来がここにある
出版大手「薫風社」で、カルチャー誌の編集長を務める速水輝也。笑顔とユーモア、ウィットに富んだ会話で周囲を魅了する男だ。ある夜、上司から廃刊の可能性を匂わされたことを機に組織に翻弄されていく。社内抗争、大物作家の大型連載、企業タイアップ…。飄々とした「笑顔」の裏で、次第に「別の顔」が浮かび上がり―。俳優・大泉洋を小説の主人公に「あてがき」し話題沸騰!2018年本屋大賞ランクイン作。
「BOOK」データベースより
『罪の声』などで知られる塩田武士さんの作品で、大泉洋さん主演で映画化されて話題になりました。
映画の公式サイトはこちら。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部分のネタバレは避けていますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
廃刊の危機
出版大手・薫風社で働く速水輝也は嫌味のない見た目だけでなくユーモアにも富み、周囲の空気を変えてしまう力を持っていました。
月刊誌『トリニティ』を仕切って二年が経過し、活字離れが加速する世の中においてなんとか売り上げをキープしてきました。
しかし、雑誌市場はピーク時の半分にまで落ち込み、トリニティは赤字。
会社はトリニティ廃刊を匂わせ、半年の内になんとかするよう速水にいいます。
速水にとって決して楽な時期などありませんでしたが、本当の正念場が訪れました。
死闘の日々
トリニティの売り上げを伸ばすためには面白い企画、旬な話題が必要不可欠であり、それをどれだけ用意できるかが重要になります。
速水はトリニティ存続のために奮闘しますが、それは生半可なことではありません。
雑誌にはスポンサーがつくためその意向は無視できませんが、全てを速水たちの思い通りにいくわけではありません。
小説を掲載するにはその著者の意向を尊重する必要がありますが、スポンサーの満足のいく内容とは限りません。
いかに著者の機嫌を損ねることなく思うような小説に仕上げてもらい、スポンサーに満足してもらうか。
速水はあらゆる手を尽くしますが、時には同僚の失態によって窮地に立たされることもあります。
それでも足を止めることは許されない速水の立場。
そして、不況と言われ続ける出版業界の実情などが描かれ、本に馴染みのある人であれば目が一時も離せない切実さがあります。
感想
大泉洋を主人公に『あてがき』
冒頭のあらすじにもありますが、本書は大泉洋さんを小説の主人公に『あてがき』しています。
あてがきとは、演劇や映画などで、その役を演じる俳優をあらかじめて決めておいてから脚本を書くことで、本書の主人公・速水輝也=大泉洋となっています。
そのため、小説を読んでから映画を見ても、違和感を覚えにくくなっています。
しかし正直、僕は速水を大泉さんとは思えませんでした。
どうしても普段のコミカルな大泉さんのイメージが思い浮かび、それがいけなかったのかもしれません。
僕のイメージでは、もう少し渋い感じの俳優さんがぴったりな気がしました。
あまり思いつかないけれど、佐藤浩市さんとか?
作品自体は非常に好みだったので、ぜひ映画で僕のこの印象をがらりと変えてほしいと思います。
出版業界の闇
近年、出版業界はかなり厳しい局面に立たされています。
Amazonなどネットで本が購入できるようになり、街の本屋さんが次々と潰れています。
電子書籍が登場し、中には定額読み放題もあり、紙の本も減少傾向にあります。
そもそもスマホに一日の時間を取られ、そもそも本や雑誌が必要とされなくなりつつあります。
そんな苦しい状況において、出版大手「薫風社」でカルチャー誌の編集長を務める速水は小説の可能性を信じ、作家が安心して執筆できるよう全力を尽くします。
しかし会社にとって最も優先するべきものは利益であり、そこに読者や作家への配慮はありません。
不況なのは分かっていましたが、ここまで政治的なやり取りが思っていませんでした。
本が好きな人にはぜひ読んでほしい作品ですが、好きがゆえに辛くなるシーンもあるかもしれません。
僕は中古品ではなく、ちゃんと新品で本を買おうと改めて決意しました。
新たな未来
どれだけ努力しても報われない速水ですが、最後の最後でどんでん返しを見せてくれます。
まだまだ出版業界はやれるんだぞ、そんな気概が感じられました。
今の業界にとって、何が必要なのか。
この先、どんな未来が待ち構えているのか。
僕は不安でしたが、期待もしていいのではないか。
そんな気持ちになれました。
蛇足?
どんでん返し後、なぜ速水がここまで小説にこだわるのか。
その答えが、彼の反省と共に明らかになるのですが、個人的にはちょっと蛇足かなと思ってしまいました。
僕は出版業界を物語の中心として読んでしまっため、最後まで速水、というか大泉さんが出過ぎる感じが嫌だったのかもしれません。
同様のレビューも中には見られたので、人によって評価が分かれるポイントかもしれません。
おわりに
不満な点をいくつも書きましたが、僕は本書を読んで本当に良かったと思います。
熱意だけではどうにもできない現状があるけれど、それをなんとかしてみせたラスト。
それだけで報われた気がしました。
これからも出版業界が維持・発展できるよう、可能な限り貢献していきたいと思います。
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