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『死神の浮力』あらすじとネタバレ感想!仕事に真面目でどこかボケたあの死神が長編で帰ってきた!

娘を残虐に殺された小説家の山野辺は苦しみのなかにいた。
著名人であるが故にマスコミからの心無い取材に晒され、さらに犯人とされていた男・本城が第一審で無罪になったのだ。
しかし、山野辺は彼が犯人であることを「知っていた」。 彼はサイコパスと呼ばれる反社会的人格者で、 自分が犯人である証拠を、山野辺宛てに送ってきていたのだった――。

控訴の猶予期間は二週間。山野辺とその妻、美樹は一時的に自由の身になった本城を探し、動き始める。そこに千葉という男が現れ「本城の居場所を知っている」と言う。 山野辺夫妻は半信半疑ながらも、この妙な男と行動を共にすることにする。
山野辺夫妻・千葉チーム対サイコパス本城の勝負の行方は?
今回、千葉が「担当している」のは誰なのか? そして調査の結果は?

Amazon商品ページより

職務に真面目な死神・千葉が登場する連作短編集『死神の精度』の続編に当たる本書。

千葉自身の魅力は変わらず、加えて長編だからより活きてくる死、死神のルールや特性が物語を面白くしてくれています。

続編というものの、話自体は特に繋がっていないので、本書から入っても全く問題ありません。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

事件の爪痕

小説家の山野辺遼と妻の美樹は、とある事件で十歳だった娘の菜摘を亡くします。

死因は窒息死ですが、薬物を投与された痕跡が見つかっています。

当時、犯人として山野辺家の近くに住んでいた本城崇が逮捕され、本城自身も殺害を認めていたし、物的証拠や目撃証言もありました。

ところが、裁判になると一転、本城は殺害を否認。

加えて証人が目撃証言を翻し、物的証拠を無効にする新たな証拠も現れ、裁判はまさかの無罪に終わります。

マスコミの苛烈な追及に追い詰められていた山野辺夫妻にとって、これ以上ないほど辛い仕打ちでした。

復讐

司法は本城が無実だと判断しますが、山野辺夫妻は本城が犯人であることを知っていました。

それは本城自身が明かしたことですが、証拠はもう存在しないため公に訴えることは出来ません。

しかし、山野辺夫妻はそんなことは当に諦めていました。

彼らの望みはただ一つ。

本城への復讐です。

二人は本城が世間に戻ってくるこのタイミングを待っていて、その日のために念入りに準備をしていました。

ところが、いざ復讐しようと動き出す山野辺夫妻の前に、見知らぬ男が現れます。

死神の判定

山野辺夫妻の前に現れたのは、『死神の精度』にも登場した死神の千葉でした。

死神はこれから何らかの理由で死ぬ人間の前に現れ、死ぬ一週間後までに死を許可するか、あるいは見送るのかを判定するという役目を担っています。

大体の死は死神の調査に関係なく許可されるため仕事の手を抜く死神が多い中、千葉は職務に真面目です。

今回の調査対象は山野辺遼で、彼はこのままだと一週間後に亡くなります。

もちろんそれを本人打ち明けることは出来ず、千葉は本城の隠れ家を山野辺夫妻に教え、復讐の旅路に同行します。

復讐を肯定するでも否定するでもなく、ただ山野辺夫妻のすることを見守り、時に手を出す千葉。

山野辺夫妻の復讐は成就するのか。

そして、彼が七日間調査した結果、どんな決断を下すのか。

長編ということもあって『死神の精度』よりも物語に深みがあり、より千葉という男や山野辺夫妻などの活躍を楽しめるようになっています。

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感想

相変わらず千葉が素敵すぎる

感想の一言目として、とにかくこの言葉に尽きます。

山野辺夫妻やその他の人間からすればただの怪しい男に見えますが、『死神の精度』を読了済みの読者であれば登場した瞬間からにやけてしまうこと間違いありません。

職務に真面目で寡黙で、どこかズレたことを至って真面目に話し、音楽を何よりも愛する変わった死神。

その魅力は本書でも健在です。

千葉が会話に参加するだけで妙に和み、死のルールがあることでどんなに危険な目に遭っても助かることは分かっているので、本来であれば心臓に悪い展開でも安心して読むことが出来ました。

もう一人、香川という死神が登場しますが、こちらは至って一般的な死神で、千葉との違いについて楽しめます。

ルールの応用が活きている

本書では『死神』という超常的な存在を介入させることで、普通の小説では取り入れにくいルールをなんなく導入しています。

例えば死神の調査対象である人間は死ぬ日が決まっているので、その日まではどんなことがあっても死にません。

それから死神は人間の姿をしていますが、中身はどんなことでも出来てしまうスーパーマン仕様なので、まず不可能なことはありません。

これらのルールがあることで、どんな絶体絶命のピンチも期日前であれば乗り越えられると分かるし、大体は千葉が何とかしてくれます。

また、本書では千葉と同じく死神の香川も絡んでくるので、ルールがちょっと複雑になるのも面白いです。

全て死神の手のひらの上なのに、そんなことを知らずに懸命に生きる人たちがとてつもなく愛おしい。

無茶苦茶な設定をうまく制御し、この感情を抱かせてくれる本書は本当にうまく出来ていると思います。

シンプルだけど仕掛けが効いている

これは伊坂幸太郎さんの作品全般にいえることですが、本書でも細かい仕掛けがいくつか登場し、意外なところで役目を担ってきます。

特に『なつみ饅頭』について、最初はあれほど憎たらしい演出はありませんでしたが、あんな形で活躍するとは思っていなくて思わず声が出てしまいました。

仕掛け自体はそれほど多くないですが、伏線を回収したと分かる使い方は読者に親切で、シンプルで最高に面白いです。

山野辺夫妻の魅力

これも伊坂作品の多くでいえることですが、主人公やそれに準じる登場人物に仲の良い夫妻が多く、多くを語らなくても伝わる安定した仲の良い関係が本書でも活きています。

さらにそこに千葉が加わるわけですから、そのやりとりが面白くないわけがありません。

本書は文庫版で五〇〇ページ以上あり、かつ身のない会話も多いので途中でダレそうですが、千葉に加えて山野辺夫妻にも魅力があるので、この時間こそが一番が楽しいのではと思えるほどでした。

伊坂作品と森博嗣さんの作品は、とにかく会話がシャレてて癖になるんですよね。

おわりに

文庫版で五〇〇ページを超えますが、それを長く感じさせないほど面白く、『死神の精度』の単なる続編と片付けてしまうにはもったいない作品です。

死神である千葉の抜群の魅了はもちろんのこと、長編だからできるスケール、死や死神の特性、ルールを活かした物語の構成、どれをとっても伊坂さんの良さがふんだんに詰まっているので、ぜひ前作を読んでいなくてもお気軽に読んでみてください。

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