『ジェリーフィッシュは凍らない』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船“ジェリーフィッシュ”。その発明者である、ファイファー教授たち技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところがその最中に、メンバーの1人が変死。さらに、試験機が雪山に不時着してしまう。脱出不可能という状況下、次々と犠牲者が…。第26回鮎川哲也賞受賞作。
「BOOK」データベースより
21世紀の『そして誰もいなくなった』というとんでもない評価を受けている本書。
いわゆる『クローズド・サークル』ものです。
著者である市川憂人さんのデビュー作ですが、デビュー作とは思えない緻密さで、トリックが分かってから思わず二度読みしてしまいました。
物語の舞台は1980年代のU国ですが、僕らの世界とは異なるパラレルワールドになっています。
そのため現代でも登場していない技術が登場しますが、それもしっかり論理的な考えの元に設定されているので、十分推理できるのもポイントです。
一方で、メインの二人、特にマリアの荒っぽい性格や言動など受け入れられないという意見も目立ちました。
これが許容できれば、本書はミステリー好きとしては外せない一冊になると思います。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
本書には『ジェリーフィッシュ』という物語独自の小型飛行船が登場します。
視点は主に三つのパートに分かれ、新型ジェリーフィッシュが事故を起こすまで、刑事たちが事故を捜査する過程、そして犯人の独白で構成されています。
パートごとに分けてしまうと分かりにくいので、この記事では本書の構成に従って事故が起こるまで(ジェリーフィッシュ)→捜査(地上)の順番を繰り返す形で書いています。
新型ジェリーフィッシュ
ジェリーフィッシュ
新型気嚢式浮遊艇(ジェリーフィッシュ)の長距離航行試験を行うために、六人のメンバーがジェリーフィッシュに乗り込みます。
計画書に記載されたメンバーは以下の通り。
・フィリップ・ファイファー(技術開発部部長)
・ネヴィル・クロフォード(同副部長)
・クリストファー・ブライアン(同研究員)
・ウィリアム・チャップマン(同研究員)
・リンダ・ハミルトン(同研究員)
・エドワード・マクドゥエル(派遣社員)
新型ジェリーフィッシュは業界世界最大手のUFA社が開発したもので、六人のメンバーは二泊三日の航行で評価をします。
責任者であるフィリップは気嚢浮遊艇の権威と呼ばれる教授でしたが、今は酒に溺れてた年寄りのため、ネヴィルが実質的な責任者といえます。
それぞれの命運がかかった重要な試験ですが、実際のところは自動航行システムのおかげでそれほどやることもなく、暇を持て余していました。
ところが最終日、事件が起きます。
フィリップが自室で亡くなっていたのです。
地上
H山系の中腹でジェリーフィッシュが燃えていると通報を受け、刑事のマリア・ソールズベリーとその部下・九条漣は現場に向かいます。
六名の乗員は全員死亡。
しかもそのうちの一体は首と手足が切断されているため、事故死ではなく他殺である可能性が高くなります。
現場に向かう間、漣はジェリーフィッシュの歴史について話してくれます。
今から十年以上前、フィリップたちの研究グループが『真空気嚢』を生み出したことが始まりです。
この技術によって航空機の可燃性ガスは不要になり、四十メートルにまで小型化することにも成功しました。
鍵は窒化炭素という特殊な素材で、これを合成に使うことによってダイヤモンド以上の硬度と樹脂の割れにくさを併せ持った軽量の気嚢が実現できたのでした。
フィリップと当時の研究室の学生たちは学内ベンチャーを設立し、それがUFA社の目に留まって吸収合併。
今の技術開発部となり、その三年後にジェリーフィッシュは発売されました。
マリアたちは現場に到着しますが、燃えて残骸となったジェリーフィッシュは軍が回収してしまいます。
遺体には目をくれない点から、事故ではない可能性が浮上します。
墜落ではなく不時着した程度で、その後に事件が起きたのではないか。
謎の少女『R』
ジェリーフィッシュ
残されたメンバーがフィリップの遺体を調べた結果、毒を飲まされた可能性があることが分かりました。
警察に通報しようと声が上がりますが、ネヴィルは拒否。
航行試験のことが外部に露見したら、ただでは済まないと。
彼らの裏にスポンサーがいることが描写されています。
一同はとりあえず試験の目的地に向かいますが、ここでも問題が発生。
自動航行システムがトラブルを起こし、制御の利かなくなったジェリーフィッシュはH山系の中腹に不時着することを余儀なくされました。
地上
翌日、一体の遺体の歯の治療痕からフィリップであることが判明。
また技術開発部のメンバーとUFA社は数日前から連絡がとれなくなっており、残り五体の遺体も技術開発部のメンバーである可能性が高くなります。
マリアたちはUFA社への聞き込みで、今回の航行は新型機の最終試験であることを知ります。
技術開発部は元々別会社であったことが原因で、新型機についてよく知る人物はUFA社にいませんでした。
新型機は全て技術開発部の中だけで話が進められていましたが、肝心の真空気嚢の元となる素体開発はつい最近までまるでうまくいっていませんでした。
そして、二か月前に技術開発部が持ち込んだ素体だけが真空気嚢として完成しましたが、それは従来品と同じに見えたといいます。
その後、マリアたちはフィリップの部長室を訪れ、事件を解くヒントがないか探します。
すると、実験ノートが見つかり、以下のことが分かりました。
・『R』という人物が実験に関与していて、技術開発部は彼女の知識を欲していたがRはすでに亡くなっている
・新型機の開発はうまくいっていなかった
それからマリアは写真を見つけます。
そこには技術開発部の面々と一緒に見知らぬ少女が写っていて、裏にはRと一緒に撮った写真だと記載されていました。
つまり、この少女がフィリップたち以上の真空気嚢に対する知識を持っていたことになります。
それからコンピュータを見ると、自動航行プログラムが消去されていました。
それが何を意味するのか。
マリアたちが考えていると、人がやってくる気配がして、やってきたところを取り押さえます。
侵入者はU国空軍でした。
Rの正体
ジェリーフィッシュ
何とか墜落は免れましたが、再び飛び立てる気配はなく、五人は雪山に閉じ込められてしまいました。
自動航行システムが改ざんされていたことが分かり、この中の誰かがやったのではと疑念が広まります。
自力での脱出は不可能ですが、すでにスポンサーには連絡済みということで一同は助けを待ちます。
しかし、事件はまだ終わっていませんでした。
ネヴィルがワインに入っていた毒によって死亡。
混乱は広がり、リンダは『レベッカ』という名前を口にします。
フィリップの研究室にいなかったエドワードは知らない名前でしたが、他の三人は知っている様子です。
そして、そこに重大な秘密が隠されていることは明白でした。
地上
軍人はジョン・ニッセンといい、彼は新型機の技術がR国の手に渡ることを恐れて資料を回収、もしくは破棄しにやってきたことが分かりました。
空軍が新型機の残骸を回収したのも同様の理由です。
マリアに追及されると、ジョンは内密にすることを条件に本当のことを打ち明けます。
新型ジェリーフィッシュ、あれは空軍がUFA社に依頼して作らせたものでした。
ただのジェリーフィッシュではなく、レーダーを吸収して捕捉できないようにするステルス型のジェリーフィッシュです。
開発は順調に進んでいましたが、試験直前の三日前から連絡が途切れていたといいます。
しかし、UFA社に提出された計画書には出発日が六日前だと明記されていて、話がかみ合いません。
UFA社と空軍に違う計画書をわざと提出した可能性があります。
それからジョンは墜落ではなく事故、あるいは故意の不時着だと考えていますが、外部の人間が入り込む隙はほとんどなく、乗員は全員亡くなっているため、依然として犯人が見えてきません。
するとジョンは遺留品として残されていた写真を提示します。
そこに写っていたのはマリアの探していた実験ノートの複写で、レベッカ・フォーダムという名前が記されていました。
ここでR=レベッカであることが明らかになります。
七人目
ジェリーフィッシュ
エドワードはレベッカについて聞きますが、強く拒絶されてしまいます。
これによって残った三人への疑念を強めます。
ここで犯人が四人以外にいると仮定し、真っ先にサイモン・アトウッドの名前が挙がります。
彼はレベッカの高校時代の先輩で、フィリップの研究室にいました。
このジェリーフィッシュに隠れているかもしれないし、この雪原におびき寄せてあらかじめ待っていたかもしれません。
一同は中を調べてサイモンがいないことを確認しますが、それは四人の中に犯人がいるかのうを強めただけで、何の解決にもなりませんでした。
エドワードは彼らの態度から、レベッカを殺害、あるいはそう仕向けたことを察しますが、クリスは秘密を知ってしまったエドワードを殺害しようと持ってきた散弾銃を構えます。
地上
これまでの証拠から、真空気嚢の技術を開発したのはフィリップたちではなくレベッカで、彼らは彼女の成果を横取りしたことになります。
レベッカの死について調べると、実験中の事故であることが分かりました。
死因はシアン化ナトリウムで、真空気嚢の実験であることは間違いありません。
マリアたちはレベッカの事故について調べる中で、以下のことを知ります。
・レベッカの所属はフィリップの研究室ではなかったが、よく遊びに来ていた
・誰にも好かれていたが、特別親しくしていた人はいなかったと思われる
・遺体の精器に裂傷があり、誰かに凌辱された可能性がある
これらの点から、犯人の目的はレベッカの復讐である可能性が出てきます。
それから犯人はレベッカの実験ノートを所持していて、フィリップたちの不正に気が付き、脅すために複写を送ったのかもしれません。
マリアは六人の誰かが犯人だと考えますが、検死の結果、全員が他殺であることが判明し振り出しに戻ります。
計画書に名前のない七人がいたことになりますが、手掛かりはまだありません。
犯人の生存確認
ジェリーフィッシュ
緊迫する中、エドワードとウィリアムはクリスをとりおさえますが、なおもナイフで抵抗しようとしたため、ウィリアムは散弾銃でクリスを殺害します。
残った三人はクリスが犯人だということで話をつけ、ウィリアムは観念してレベッカについて話し始めます。
真空気嚢はレベッカとの共同研究で創り上げたといいますが、これも嘘で、本当はレベッカが創ったものを横取りしただけだということが後に判明します。
フィリップの研究室にレベッカを連れてきたのはサイモンでした。
レベッカの死体は素体の試作用に使われてきた工場で見つかりますが、明らかに誰かに襲われたような形跡がありました。
ウィリアムたちは自殺だと判断。
警察の疑惑の目をそらせるために、レベッカの死体を所属していた学部の実験室に移動させ、実験中に命を落としたかのように偽装しました。
実験ノートを探しましたが、肝心な合成方法などが記された部分が見つからず、それがこれまでの失敗に繋がります。
後は救援を待つだけですが、ふと気が付きます。
空軍と連絡をとっていたのはクリスですが、実は連絡などしていなかったのです。
どの通信機でも通信はできず、救援を期待するのは難しい状況となります。
地上
マリアたちは様々な仮説を立てる中、新たな事件が発生します。
フィリップの別荘が全焼したのです。
このタイミングでは事件と関係しているとしか思えず、つまり、犯人は新型機に乗っていた六人以外ということになります。
従来型の意味
ジェリーフィッシュ
不安の中、ウィリアムはドアを叩くような音で目が覚めます。
エンジンルームに向かう途中、見つけたのはリンダの死体でした。
背中にはナイフが刺さっています。
これで残り二人になり、消去法で犯人はエドワードということになります。
ウィリアムは警戒しながらゴンドラの中を探し、こちらに背中を向けて座っている青年を見つけます。
エドワードだと思い声を掛けますが返事がなく、ようやくウィリアムは様子がおかしいことに気が付いて青年の肩に触れます。
次の瞬間、青年の体がバラバラに崩れ落ちました。
ウィリアムはエドワードが殺害されていたことに気が動転し、そして犯人がまだどこかに潜んでいることに気が付きます。
血眼になって探すと、扉に書かれた血文字を見つけます。
そこには『決して許さないわ、ウィル レベッカ』と書かれていました。
ウィリアムは怒り狂いますが、彼の心情描写からレベッカを強姦し、その上で殺害したのがウィリアムであることが判明します。
そしてついにウィリアムも後頭部を殴られて死亡するのでした。
地上
フィリップの別荘が全焼したことで犯人がまだ生きていることが分かりました。
さらに技術開発部の会議室から盗聴器、フィリップの自宅から脅迫状がそれぞれ見つかります。
盗聴器が仕掛けられていたということは、犯人がUFA社に自由に出入りできることを意味し、自動航行プログラムを改ざんすることも可能となります。
また脅迫状の主は金銭を何度も要求していたこと、新型機を開発するには多すぎる金額、素材が空軍に請求されていたことが判明します。
次に試験中のジェリーフィッシュの足取りについて。
計画書はUFA社に提出されたものが正しく、食料などの調達のために立ち寄った五つのチェックポイントフィリップを除いた全員がそれぞれ目撃されていることが判明します。
第二と第五のチェックポイントはしっかりと目撃されていたわけではありませんが、容姿の特徴から人物を特定することができます。
しかし、検視結果を再度確認する中で驚きの真実が発覚します。
バラバラ遺体はサイモンで、マリアたちはサイモンがジェリーフィッシュに乗っていたメンバーの一人であると認識していたことが判明。
読者はこの時点でエドワードがまだ死んでいない=彼が犯人であると気が付くことができますが、マリアたちはまだ気が付きません。
しかし、驚きの事実はこれだけではありません。
フィリップたちはステルス型ジェリーフィッシュの開発に成功していましたが、機体の残骸からは電波吸収性が確認されなかったのです。
なぜステルス型真空気嚢素材を試験機に採用しなかったのか。
この瞬間、マリアは事件の真相に辿り着きました。
犯人
レベッカの墓石の前。
マリアと漣が待っていると、一人の人物が現れました。
エドワードです。
マリアたちは犯人である彼がここを必ず訪れると踏んで何日も待っていたのでした。
エドワードは観念し、真実を明かします。
十年前、ショッピングモールの模型店でレベッカはアルバイトをしていて、その店に十歳の少年が通っていました。
エドワードはこの少年で、本書中の『インタールード』にてその様子が描かれています。
真実
マリアが事件の真実に気が付いたのはサイモンの死体でした。
なぜ彼だけ首と手足を切断されたのか。
それは試験の前に殺害され、コンパクトにして機内に持ち込むためです。
一方、チェックポイントではフィリップ以外の別々の五人が目撃されていることから、七人目が六人目として搭乗していることが分かります。
エドワードは容姿がサイモンに似ているため、チェックポイントで目撃されても問題ありませんでした。
では、なぜ新参者であるエドワードが試験に組み込まれたのか。
これには別の計画が関係しています。
表向きは新型ジェリーフィッシュの航行試験でしたが、真の目的はU国外への亡命計画でした。
ネヴィルたちはレベッカのノートなしに新型の真空気嚢を開発することができず、空軍から逃げるために亡命を考えていました。
そこにエドワードの仕掛けた罠に食いつき、彼らは亡命を決意。
そして、実はジェリーフィッシュははじめから二機あったのです。
一機は新型で、もう一機は十年前に作られたデモ機です。
亡命の首謀者はネヴィルとサイモン、残り一、二名で、残りのメンバーはデモ機に乗せて事故を装って亡き者にし、ネヴィルたちは新型機で亡命するつもりでした。
ところが、エドワードは自動航行プログラムを改ざんして二機ともH山系に不時着するよう細工されていたのです。
亡命のことを知らないメンバーには、新型と旧型との比較対象実験ということで納得させていました。
また彼らは二機のジェリーフィッシュで片方は奇数、片方は偶数のチェックポイントに交互に寄ることであたかも試験機は一機しかないよう見せかけていたのです。
空軍に請求する資材が多かったのはデモ機の分も含まれていたからであり、フィリップの別荘を燃やしたのはデモ機に関する証拠が多く残されていたからです。
独白
マリアの推理に観念し、エドワードは胸中で今回の事件について語ります。
レベッカの実験ノートは、彼女の意思でエドワードの手に渡っていました。
エドワードは成長してA州立大学に入学し、そこで講師を務めるサイモンと再会します。
サイモンはエドワードのことを覚えていませんでした。
エドワードはサイモンとの会話の中で、彼らが空軍からステルス型ジェリーフィッシュの開発を依頼されているが行き詰っていることを知り、レベッカの復讐に利用することを決めます。
エドワードは技術開発部の一員となり、ネヴィルたちの計画をも含めて復讐計画を立てました。
試験直前になってサイモンが思い悩むようになり、このままでは亡命計画を他のメンバーにバラされてしまう危険性がありました。
しかし、手を下したのはネヴィルで、エドワードは死体を掘り起こして今回の計画に利用します。
ネヴィルによって自動航行プログラムは改ざんされていましたが、エドワードがそれを上書きし、あとは機内であった描写の通りに計画を遂行しました。
そして全員の殺害を終えると、デモ機を燃やし、自分は新型機で雪山から脱出したのでした。
結末
これで全て解決したはずでした。
ところが次の瞬間、前触れもなくジェリーフィッシュが現れ、エドワードは垂れ下がった縄梯子に捕まってその場を後にします。
新型のステルス型ジェリーフィッシュのため、レーダーで感知できなかったのです。
エドワードはレベッカの残した実験ノートを読み解き、新型真空気嚢の作り方を知っていたのでした。
エドワードは『彼女』に広い空を見せてあげたいと言い残し、青い空に消えていくのでした。
おわりに
緻密に練り上げられたトリックで、一度読んだだけではすっきりせず、読み直して伏線を何度も確認してしまいました。
すでにシリーズ化されていますので、今後もマリア&漣の活躍が期待されます。
次作はこちら。
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