『異人たちの館』あらすじとネタバレ感想!折原一のベストミステリがここに
【2018年本屋大賞 発掘部門 超発掘本!】
著者の初期最高傑作が復活!
8歳で児童文学賞を受賞し天才少年と呼ばれた小松原淳は、なぜ富士の樹海に消えたのか? 母親の依頼で淳の伝記を書くことになった作家志望の島崎は、膨大な資料を読み、関係者に取材して淳の人生に迫るが、やがて不気味な〝異人〟の影が彼の周辺に出没するようになり……。
Amazon商品ページより
折原一さんが「マイベストは何か」と聞かれた時、決まってあげるのが本書です。
僕は別のブログを見るまで本書を知りませんでしたが、その面白さになんでもっと早く読まなかったんだと後悔しました。
第一期の集大成ともいえる作品で、これまでの折原さんのキャリアの全てがここに詰め込まれています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
失踪
富士の樹海で『HELP』という文字が木の枝で作られているのが発見されます。
さらにその近くから白骨遺体が見つかり、同時に運転免許証も見つかっています。
運転免許証は小松原淳のもので、警察は白骨遺体が淳のものであると考えます。
しかし、母親の妙子は子どもが生きていると信じていていました。
そんな時、新聞で自費出版の案内を見つけ、淳の自伝を書こうと思いつきます。
これは淳が死んだのを認めるのではなく、淳のこれまでの輝く人生を記したもので、淳が帰ってきた時に自伝を作って驚かせるのだと。
妙子は本気でそう考えていました。
依頼
妙子は出版社に佐藤に自費出版を依頼します。
執筆経験がないことを不安に感じていましたが、佐藤は通常、自伝を書いているのは本人ではなく、ゴーストライターなのだと教えてくれます。
妙子は信頼できるライターを要求し、佐藤も一人思い当たる節があると自信をのぞかせます。
そのライターとは、これまで新人賞を二つも受賞した小説家・島崎潤一でした。
島崎は実力こそありますが運に恵まれず、まだ売れているとは言い難い状況で、高額な報酬の出るこの依頼を受けることにします。
こうして島崎は、淳の自伝を書くために彼のことを調べはじめます。
浮かび上がる過去
島崎は早速、淳の年表に従い、彼が生まれてから関係を持ってきた多くの人に会い、彼について話を聞きます。
そこには、妙子が教えてくれなかった淳がいました。
島崎は様々なことに驚きつつも、順調に淳の自伝を書いていきます。
それから彼にとって嬉しいことがありました。
それは、妙子の娘で淳の妹・ユキの存在です。
美しくこれまで多くの男を魅了してきたユキに島崎も惹かれ、ユキもまた彼に興味を持ちます。
妙子はユキのことを嫌っていますが、島崎は隠れてユキと会い、彼女への思いを次第に募らせていきます。
それと並行して執筆作業を続けますが、次第に淳の驚くべき過去が浮かび上がってきます。
感想
緻密に作られた構成
本書の魅力は、なんといっても幾重にも張り巡らされた伏線と、それを活かせるだけの構成です。
これでもかというくらいに魅力的なモチーフが登場し、一見、関係ないように配置されています。
ところが読み進めていくとそれらが実は関係していることが判明し、読者はそこではじめて折原さんが計算してそこに配置していたことに気づかされます。
複数のストーリーが同時並行で描かれ、交わった時に一気に面白さが加速する。
この感覚はたまらなく、六〇〇ページ近いボリュームもほとんど気になりませんでした。
叙述トリックはメインではない
折原さんというと=叙述トリックと思っている人もいるでしょう。
実際、僕もその印象が強かったというのが本音です。
しかし、本書を読んで決してそんなことはないと考えを改めることとなります。
確かに本書には叙述トリックが仕掛けられていて、読者を大いに驚かせます。
ところがそれは物語を盛り上げるための一パーツに過ぎず、本書の真骨頂は緊迫感あるサスペンス部分にあります。
童謡『赤い靴』と過去に登場した異人が現在に現れる不気味さ。
これが最後までよく効いていて、なるほど折原さんがマイベストに選ぶだけのことはある、と何度も頷いてしまいました。
おわりに
そこまで知名度が高くなく、評価もそれなりな本書ですが、折原さんを知る上では外せない一冊です。
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