吉本ばなな『キッチン』あらすじとネタバレ感想!孤独を抱える人たちが送る温かな物語
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う――。同居していた祖母を亡くし途方に暮れていた桜井みかげは、田辺家の台所を見て居候を決めた。友人の雄一、その母親のえり子さん(元は父親)との奇妙な生活が始まった。絶望の底で感じる人のあたたかさ、過
Amazon商品ページより
ぎ去る時が与える癒し、生きることの輝きを描いた鮮烈なデビュー作にして、世界各国で読み継がれるベストセラー。「海燕」新人文学賞・泉鏡花文学賞受賞作。
『平成怪奇小説傑作集』で吉本ばななさんの素晴らしさに気が付き、遅まきながら挑戦した本書。
色々語りたい魅力がありますが、シンプルに読んで良かった作品です。
僕らが言語化できずにこぼしていそうな感情を明確に描き、それを優しく肯定してくれる。
傷を抱える人にこそオススメしたい一冊です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
キッチン、満月
この二つは繋がっている作品のため、ここでは一つの作品としてあらすじを書きます。
桜井みかげの両親は彼女が幼い頃に二人とも亡くなっており、みかげは祖父母に育てられます。
ところが、今度はその祖父母も亡くなってしまい、みかげは家族と呼べる人をみな失ってしまいました。
どうやって生きていこうかと静かに絶望していると、みかげに対して田辺雄一が手を差し伸べます。
雄一は一個下で、同じ大学に通っていて、みかげの祖母によくしてもらっていました。
そんな彼は一人になったみかげを心配して、家に来てくれといいます。
みかげは運命の様に彼の家に行くことにしますが、そこには雄一と雄一の母親であるえり子(元男)が待っていました。
二人は母親を亡くしていて、それからえり子はえり子になったのでした。
みかげはその家のキッチンを気に入り、その日から不思議な三人の生活が始まります。
ムーンライト・シャドウ
さつきは高校の同級生だった等と交際をして、四年という時間で関係を重ねてきました。
ところが、その等が亡くなってしまいました。
深い傷を負い、さつきは自分が死に近づいていることを感じます。
そんなある日、さつきは観光でやってきたといううららという女性と出会います。
うららは、出会った橋で百年に一度のものが見られるといい、二人は再会を約束して別れます。
感想
人生の儚さ
まだまだ人生歴は浅いですが、それでも生きれば生きるほどに、人生は無常だなと思います。
僕らがどれだけ悲しい目にあっても人生は止まってくれないし、慰めてくれることもありません。
ただ過ぎていく時間の中で、僕ら自身がどうかしない限り、現状は好転しません。
一方で、自分一人ではその悲しさから立ち直れないこともあり、そこで誰かによる手助けが必要になります。
本書は大きく分けて二つの物語で構成されていて、登場人物の多くが一人では立ち直れないほどの悲しみを背負っています。
一人で抱え込んでしまえば耐えられないほどの悲しみですが、本書ではそこに救いの手が差し伸べられます。
さりげない差し伸べ方、そのありがたさ、それが十二分に伝わる優しく丁寧な描写。
吉本ばななさんの作品は本当に素晴らしいです。
人生は続く
これも自身で感じたことですが、自分の中では大きいと思える事件が起きても人生は当たり前のように続くし、自分もまた時間によってそれを適度に忘れて順応することができます。
この逞しさは人間の強さであり、忘れてしまうことの儚さも同時に感じました。
しかし、同じ感情を共有できる人がいれば、たまに思い出して悲しさを正しく受け入れることができます。
本書では悲しさを少し忘れても悪くないこと、たまに思い出すことの大切さも描いていて、肌寒い夜に毛布にくるまれているような安心感を覚えました。
好きなシーン
ネタバレになるので詳細は書きませんが、僕はカツ丼の下りが一番好きでした。
抗えない衝動と、行動した後に訪れる後悔と、行動して良かったと思えるその瞬間。
どれをとってもパーフェクトで、自分にもそんな衝動が訪れるようなドラマがこの先待っているのだろうか、そもそもその衝動に対して素直になれるのだろうか。
考えると年齢による冷静さにちょっとガッカリしましたが、とにかくこのシーンが好きで、頭の中で映画を見ているような感覚で楽しめました。
おわりに
二〇〇ページに満たない長さなので、読書が習慣になっていない人にもオススメです。
そして読書慣れしている人は、ぜひ多くの作品の中の一冊と思わずに、ぜひ時間をとって丁寧に読んでみてください。
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その価値が間違いなくある作品であり、ここで得た感動は間違いなく人生を豊かにしてくれます。
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