『アーモンド入りチョコレートのワルツ』あらすじとネタバレ感想!多感で瑞々しい時期を描く短編集
中1の奈緒がピアノを教わっている絹子先生の元に、フランスからサティのおじさんがやってきた。「アーモンド入りチョコレートのように生きていきなさい」大好きな人と、ときめきの時間がすぎていく表題作。少年たちのひと夏をふうじこめた「子どもは眠る」。不眠症の少年とうそつき少女のラブストーリー「彼女のアリア」。胸の奥のやさしい心をきゅんとさせる三つの物語。第20回路傍の石文学賞受賞。小学上級から。
「BOOK」データベースより
クラシック音楽を題材に執筆された本書。
森絵都さんの作品は、どれも感性が瑞々しく、懐かしさや切なさが生まれるので好きです。
本書もそんな一冊で、短編が三作品収録され、どれも短い中に青春時代ならではの感覚が詰まっていて、本当にオススメです。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
子供は眠る
五人の少年たちは、夏休みになると仲間の一人・章の別荘に集まります。
五年前から始まったこのイベントは、彼らが成長しても変わらず続いていて、いつでもあの日の感覚を呼び起こしてくれます。
かけがえのない時間ではありますが、そこには何の不満もないかというと、そういうわけではありません。
子どもとは分け隔てなく平等というわけではなく、そこからくる優劣や不満など見え隠れして、それが次第に五人の関係に影響を与えます。
彼女のアリア
中学三年生のぼくは一ヵ月も不眠の状態が続いていました。
球技大会の日、ボロボロの状態でスポーツをやるのは無理だと判断し、ぼくは旧校舎へ逃げ込みます。
そこでピアノの音が聴こえ、それを辿っていくと音楽室にいる同級生・藤谷えりこと出会います。
ぼくは彼女のピアノに引き込まれ、不眠症であることを見抜かれたことから本心で話すような間柄になり、そこから二人の奇妙な関係が始まりました。
アーモンド入りチョコレートのワルツ
奈緒は数年前のことを思い出していました。
絹子先生、サティのおじさん、友人の君絵。
奈緒は君絵と共に絹子にピアノを教わっていて、そこにサティが現れて三人の生活ががらりと変わります。
これまでになかった空気感と、一緒にワルツを踊ること。
これは、奈緒がまだ子どもだった時の話です。
感想
どこまでも真っ直ぐ
僕が本書を読んではじめに思ったのは、どの作品も真っ直ぐで瑞々しいということです。
大人ではない、子どもだからこそ感じることのできる期待やワクワク、そして不安。
どれもかつて体験したことのあるもので、シチュエーションとしては全く覚えがないのに、読む出すとすぐに自分の学生時代に戻ったような気分でした。
目の前の世界が全てで、それがいつまでも続けば良いと思ってしまう。
新たな体験を胸を躍らせ、時に変化が怖くなってしまう。
そんな好奇心旺盛で、臆病で繊細な心情。
どの作品を読んでも胸が温かくなり、失っていたものを取り戻した気分です。
『子供は眠る』がオススメ
どれも優劣がつけがたいですが、僕は一番馴染みのあるシチュエーションだった『子供が眠る』をオススメします。
幼い頃からの友人たちとの、定例となった遊び。
何年経っても関係性が変わらず、いつまでもこのまま楽しく遊べるのだという謎の確信がありました。
しかし、その一方で体やそれぞれの交友関係は変化しているわけで、完全に以前のままでいられるわけではありません。
それが各々分かっていて、それでもこれまでのように振舞ってしまう。
この健気なさが切なくて、でも素晴らしいなと思いました。
自分の息子も、これからそういう体験をして大人になっていくのだろうか。
あるいは僕もまたかつての友人たちと集まって変化に気づき、それを踏まえてどうしていくのか。
色々考える部分もあり、とても充実した内容でした。
おわりに
森絵都さんだからこそ描ける透明度、瑞々しさで、疲れている時に読んだせいかより心が潤いました。
名作・良作は数多くあるけれど、ここまで心が癒される作品はそうありません。
読んだタイミングも含めて、素晴らしい作品でした。
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