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『許されようとは思いません』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

harutoautumn
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「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。

「BOOK」データベースより

タイトルに惹かれて手にした本書。

著者の芹沢央さんは初めてでしたが、その貫禄、目が離せなくなる構成、メリハリの利いたパンチのある文章が魅力的で、すぐに虜になってしまいました。

本書は表題作含んだ五つの短編で構成されていて、表題作以外はいわゆる『イヤミス』と呼ばれる作品です。

しかもけっこう強烈で、湊かなえさんで慣れたはずが、すぐには読み返せなさそうです。

しかし、僕は唯一イヤミスではない表題作の『許されようとは思いません』が最も好きです。

嫌な部分もありますが、最後にふっと温かいものが心に残り、いい意味で他の四つの短編とは違う良さがありました。

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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目撃者はいなかった

ミス

葛城修哉は営業マンとしてなかなか実績を上げられず、最下位が定位置でしたが、ある月の成績が良く、先輩に褒められます。

修哉は喜びますが、すぐにミスに気が付きます。

一枚しか注文を受けていない木材の注文を、『十一枚』と打ち間違えていたのです

慌てて訂正しようとしますが、製品はすでに加工され、明日の納品を待つだけになっていました。

修哉はミスを認めるのが怖くて、このまま誤魔化すことを選びます。

偽装

修哉は軽トラをレンタルし、木材を全て受け取ります。

取引先には注文されていた一枚だけ納品し、残りを自分で処分し、会社には十枚分の料金を自腹で払います。

取引先には怪しまれつつも何とか納品し、ピンチを切り抜けたかに思えました。

ところが帰り際、車の衝突事故を目撃。

目撃証言をしてほしいと取引先に求められますが、修哉は仕事があるとその場を逃げ出します。

翌日、事故の詳細を新聞で読みます。

そこには突っ込まれた側のワゴン車の運転手が亡くなり、しかもワゴン車が信号無視をしたと書かれていました。

修哉は重傷を負った女性の車が信号無視をした場面を目撃していますが、その場から逃げ出したため、女性の嘘の証言が本当のこととして取り上げられてしまったのです。

目撃者

事故から三日後、取引先から電話がきて、納品した運送会社の証言が必要なことを知ります。

しかし、運んだのは修哉であり、名乗りでたら誤発注のことが明るみに出るためもう誤魔化すしかありません。

その後、今度は隅田と名乗る女性が会社を訪れます。

彼女は事故で亡くなったワゴン車の男性の妻で、事故の目撃情報を探していました。

しかも運送業者のことなどを調べ上げていて、修哉が誤魔化したことで発生した矛盾に疑問を抱いていました。

ついに修哉は自分が納品したと明かしてしまいますが、それでも証言できないと隅田の頼みを拒否。

『あなたは、自分のためにしか証言できないんですね』と言い残し、隅田は去っていきます。

結末

翌朝、修哉のマンションに警察が現れます。

彼らは事故のあった日に起こった不審火について聞き込みをしていました。

当時、不審火現場近くで修哉を目撃したと証言がありますが、修哉は納品に向かっていたためそんなはずはありません。

しかし、それを否定するためには、事故現場にいたことを認めなければなりません。

警察は修哉を怪しみ、署への同行をお願いします。

そこで修哉は、隅田が嘘の証言をしたことに気が付きます。

修哉が疑いを晴らすためには、当時、事故現場にいたことを認めなければならず、隅田の求める証言が得られるのですから。

『あなた、自分のためにしか証言できないんですね』

茫然とする中、隅田に言われた言葉がよみがえるのでした。

ありがとう、ばあば

なぜこうなった

『わたし』は、雪が降る中、ホテルのバルコニーに閉じ込められてしまいます。

閉じ込めたのは、孫の杏でした。

わたしははじめ、それが冗談だと思いますが、杏の顔に冗談のかけらもなく、次第に命の危険を感じます。

必死に鍵を開けるよう杏に頼みながらも、なぜこうなったのかと考えます。

子役

わたしは娘夫婦が共働きのため、家事や杏の面倒を見ていました。

そして、杏を立派な子役として育てるべく教育しますが、明らかに度が過ぎた教育でした。

しかし、わたしは自分だけが杏の気持ちを理解していると譲らず、その行動はさらにエスカレートしていきます。

杏は時折、わたしの方針に納得いかないこともありましたが、最後には押し切られ、自分の望まない方向に進むこととなります。

そんなある日、杏は喪中の人には年賀状を出してはいけないことを知ります。

結末

冒頭のシーンに戻ります。

わたしはどれだけ杏の気持ちを無視してきたのかを思い知り、謝罪しますが、杏の本当の気持ちは一向に見えてこず、違和感だけが膨らみます。

そして、杏は言います。

ばあばが死ねば、年賀状を出さなくて済む。

ありがとう、ばあば、と。

作中で、杏の母親とわたしは年賀状のことで揉めていました。

また、杏は芸能人が昔の写真を勝手に見られる番組を見て、いつか自分もそうなるのではと心配していました。

つまり、わたしが死ねば、自分の写真がプリントされた年賀状を出す必要はなくなり、他人に見られる心配がなくなるということです。

絵の中の男

呪いの絵

とある女性鑑定士のもとに、浅宮二月の作品と思われる絵が持ち込まれます。

二月はかつて夫を殺害し、そのシーンを目撃したのが家政婦として働いていた鑑定士の私でした。

持ち込まれた作品はすぐに贋作だと分かりますが、私はあることに気が付き、昔話を始めます。

悲劇

二月は幼い頃、強盗によって家族を殺害され、その経験が絵に反映され、絵を描けば飛ぶように売れました。

しかし、息子の猛を産んでからスランプに陥ります。

終わりが見えない中、二月の誕生日を祝おうと猛が張り切り、サプライズの準備の時間を稼ぐために、二月と私は買い物に出ます。

買い物を終えて帰ると、家は燃えていました。

その後、二月は悲しみをぶつけるように地獄図のような絵を何枚も描き、復活を果たします。

しかし、周囲の人間は作品のために子どもの命を利用したのだと非難。

夫の恭一も、猛の死を二月のせいにします。

恭一も画家であり、地獄図のような絵を依頼されますが、それは二月の足元にも及ばない出来でした。

またしばらくして、二月は再びスランプに陥ります。

そして、その事件は起きました。

結末

私のもとに持ち込まれた絵。

それは恭一が描いた地獄図でした。

そして、二月の作品にはそれと同様の構図のものがあります。

私は事件に疑問を抱いていて、ある結論にたどり着きます。

二月が止めるのを振り切り、恭一が自分で首を切って死んだのではと。

恭一は猛の死を利用した地獄図を描いても『生きた証』となる作品を描けないことに気が付き、あることを思いつきます。

自分が二月の目の前で衝撃的な死を迎えれば、絵の題材になって作品の中で生き続けられると。

だから恭一は自分が描いた地獄図のような構図で死に、二月はそれをそのまま描きました。

だから二人の地獄図は似ているのです。

そして、私は恭一の死後、二月が一枚だけ描いて死んでしまったことについて、こう説明します。

二月は、恭一の死をたった一枚で消費し、またスランプに陥ったのではないのか。

そしてわざと逮捕されることで、絵を描くことはできない状況を作ったのでは。

しかし出獄後、二月は亡くなっているため、真実は誰にも分かりません。

姉のように

事件を起こした人の妹

冒頭、志摩菜穂子という女性が三歳の娘を虐待死させたという新聞記事が提示されます。

そして、『私』が登場し、私には事件を起こしてしまった姉がいることが判明。

肩身が狭い思いをしていて、読者は菜穂子=私の姉だと思い込みます。

しかし、最後に真実が提示されます。

追い詰められる

私は、姉に対する心ない誹謗中傷を目にして、心をすり減らします。

また、夫は娘の唯花にまで誹謗中傷が向けられるのではと心配し、妻である私の気持ちに気が付きません。

事件から時間が経っても、周囲は私を避け、唯花もなかなか言う事を聞きません。

次第に私は、姉同様、自分にも邪悪な何かが秘められているのではと被害妄想を浮かべるようになります。

結末

私の気持ちは理解されず、ついに唯花に暴力をふるうようになってしまいます。

そして、ついに自制できなくなり、私は路上近くの階段から唯花を突き落としてしまいます。

結果、唯花は死亡。

その後の警察の事情聴取によって、姉の起こした事件とは知人の家からお金や物を盗んだことであることが判明します。

つまり、冒頭の事件を起こした菜穂子=私だったのです。

警察は、肉親が犯罪を起こしてもあなたを見る目は変わらないと諭しますが、私は、自分を追い詰めたのは本当に被害妄想だけだったのかと自問するのでした。

許されようとは思いません

結婚を躊躇する理由

諒一には水絵という女性と付き合っていて、結婚も考えていました。

しかし、諒一には結婚を躊躇する理由があります。

それは、殺人を起こした祖母の存在でした。

すでに亡くなっていますが、殺人者が身内にいることで水絵に迷惑をかけるのではと思うと、どうしても結婚に踏み切れずにいました。

そんな時、祖母のお骨を彼女の暮らした檜垣村に納骨することになり、諒一と水絵は檜垣村に向かいます。

過去

道中、諒一は祖母について話します。

祖母は、曾祖父が惚けて村人に何度も迷惑をかけたことを理由に、村八分にされていました。

村に四十年住んでも、祖母はよそ者だったのです。

しかし、それよりもひどい扱いを受けていた村人がいて、それが野路家です。

野路家もまた村八分にあっていましたが、入婿が隣人を殺害したことで、『葬式の世話』と『火災の対処』すらもしてもらえない村十分にされます。

惨劇

諒一たちは目的のお寺に着きますが、事前に連絡をしていたにもかかわらず、墓へと繋がる扉が閉じられていました。

諒一たちは一旦昼食をとり、祖母の話の続きをします。

ある日、祖母は気が付いてしまいます。

曾祖父は惚けていたわけではなく、意図的に村人に迷惑をかけていたのです。

祖母は包丁で曾祖父を刺して殺害。

警察が駆け付けると、自分が殺害したことを認めます。

裁判では、殺害の動機が問題となりました。

曾祖父は末期癌で寿命もそう長くなかったため、殺害を頼まれた可能性も考えられます。

しかし、祖母はきっぱりと否定し、『許されようとは思いません』と発言。

その後、癌を患い、獄中で亡くなるのでした。

結末

話を聞いて、水絵はある疑問を抱きます。

それは、祖母の殺害方法についてでした。

衝動的にもかかわらず、なぜ目の前にあった包丁を使わず、シンク下にあった研いであった包丁を使ったのか。

水絵は憎しみではなく、人を殺したかったのではと考えます。

そうすれば野路家同様、村十分にされることができます。

また祖母は自分が癌であることに気が付いていて、村十分になれば『葬式の世話』も除外され、曾祖父と同じお墓に入ることもありません。

水絵は、祖母のお骨を本当にここに納骨していいのかと諒一に問います。

その時、住職が現れ、お墓への扉は開いていると教えてくれます。

二人は言葉にこそしませんが、そこに祖母の意思を感じ、納骨をやめます。

諒一は散骨にするならどこがいいかと聞くと、水絵は自分なら海がいいと答えます。

すると、諒一はそのことを覚えておくと伝え、それはまるでプロポーズでした。

諒一もプロポーズであることを認めると、水絵は嬉しそうに祖母のお骨を手にとるのでした。

おわりに

短編の中でそれぞれ強烈な印象を残す作品ばかりで、芹沢さんの魅力が十二分に伝わりました。

できれば、今度は長編小説を読んでみたいと思います。

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