『レプリカたちの夜』あらすじとネタバレ感想!何もかもが理解を超えたとんでもないデビュー作
動物レプリカ工場に勤める往本がシロクマを目撃したのは、夜中の十二時すぎだった。絶滅したはずの本物か、産業スパイか。「シロクマを殺せ」と工場長に命じられた往本は、混沌と不条理の世界に迷い込む。卓越したユーモアと圧倒的筆力で描き出すデヴィッド・リンチ的世界観。選考会を騒然とさせた新潮ミステリー大賞受賞作。「わかりませんよ。何があってもおかしくはない世の中ですから」。
「BOOK」データベースより
数年前に購入したものの、なぜか最後まで読み切れなくてずっと本棚に眠っていた作品を今回手にとりました。
あらすじにある通り、訳が分からない作品です。
加えて決して読者に優しい文体ではありません。
なのに、強烈な世界観、登場人物たちにどうしようもなく惹かれてしまう。
そんな、一條次郎のデビュー作です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
シロクマが出た
往本は動物のレプリカを製造する工場の品質管理部に所属しています。
残業していたある夜、往本は工場内で本物のシロクマを見つけます。
この世界では一昨年、最後のシロクマが死んでもう生息していないはずです。
往本は本物かどうか確認する余裕もなく逃げ出したので気のせいという可能性もありましたが、同僚の粒山にその話をしていたところ、工場長が現れておかしな話を始めます。
新たな仕事
工場長は二人がシロクマの話をしていたのを聞いていて、二人に内密で調べるよう指示を出します。
普通なら真に受けない類の話ですが、工場長もまたシロクマを目撃したのだといいます。
本物でないとしても、レプリカが動いたのであれば確かに調査する必要はあります。
しかし、工場長は往本しかいない品質管理部の仕事はしなくてもいいと言い出し、製造の現場を預かる人間の言葉とは思えません。
往本に断れるわけもなく、シロクマの調査が仕事になりました。
早速工場長に渡されたシロクマの毛を分析しますが、驚くべきことに、それは本物のシロクマの毛でした。
ドッペルゲンガー
往本は天然素材を取り扱っている可能性があるのか確かめるために、資材部のうみみずのもとをたずねます。
うみみずはなぜかうんざりしていて、聞くとすでに往本から別の質問をされたのだといいます。
往本にそんな覚えはありませんが、うみみずの怒り方からして本当のことしか思えません。
ドッペルゲンガーが存在するのだろうか。
シロクマの毛について工場長に報告すると、彼は侵入者が持ち込んだものだと判断し、見つけたら捕まえるか始末するよう指示します。
こうして往本は本来の業務からどんどん逸脱し、やがておかしな世界に巻き込まれていきます。
感想
分からないのが良い
あらすじを読んだ人は分かると思いますが、どうもつかみどころがありません。
読み進めるとどうやら僕らが生きているこの世界とは異なる世界観であることが分かり、そこで完全なフィクションとして本書と向き合うことになります。
絶滅したはずのシロクマの出現。
侵入者を殺せという命令。
一会社員が遭遇するにはかなりヘビーな内容で、しかもこれが序の口だというのだから本書が強烈な設定を有していることは言うまでもありません。
もちろん設定だけが魅力ではなく、それを支える登場人物のキャラクターにも目を引くものがあります。
会話がくどめではありますが、意味がありそうでなさそうなユーモアがとにかく秀逸で、魅力的でした。
帯に伊坂幸太郎さんのコメントがあるせいか、彼のユーモアに通ずるものを感じてしまいました。
ある程度の忍耐力が必要
本書は異色で、圧倒的な個性を放っています。
目立つのですが、読む人を選ぶことは間違いありません。
参考文献は軽く二十冊以上を超えていて、相当作りこまれていることがうかがえるのですが、決して読者に優しいとはいえません。
物語の終着点は見えないし、描写や登場人物の会話に意味があるのかも分からない。
秩序のある物語を好む読者からしたら、本書はあまり合わないかもしれません。
そう言う僕も、二回目のトライでも後半はやや惰性で読んでいました。
面白いことは分かるのですが、自分には混沌としすぎていて楽しめない。
そんな感覚でした。
この辺りが大衆作品にはならず、一部の人から熱狂的な支持を受けている所以かもしれません。
おわりに
数年ぶりに読み終えてほっとしたと同時に、やっぱり最後まで奥底が見えない作品でした。
多分、一條さんの作品は僕には合わないのだと思います。
でも、面白いことは分かるからなんとか理解したい。
そんな未練の残る作品でした。
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