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『ホワイトラビット』あらすじとネタバレ感想!エンタメとサスペンスが融合した新たな伊坂ワールド

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊 SIT を突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!

Amazon商品ページより

伊坂ワールドをさらに進化させ、新たな一面を見せてくれたのが本書です。

一つの事件を複数の視点、そして神視点のようなナレーションで語り、うまく一つの結末に収束させていく。

エンタメとサスペンスが見事に融合し、まだ伊坂幸太郎作品を読んだことのないという人にもぜひオススメしたい一冊です。

また『重力ピエロ』、『ラッシュライフ』など多数の作品に登場する泥棒・黒澤も活躍するので、伊坂ファンであれば必読です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

物語の中心

本書の中心となるのが『白兎事件』と呼ばれる仙台での立てこもり事件です。

実際には誰もそう呼んでいませんが、便宜上、そう呼ぶことを冒頭で断っています。

とある家に強盗が押しかけ、そこに住む家族を人質に立てこもり、警察に対してある人物を連れてくるよう要求する、というのが白兎事件の概要です。

犯人は新妻を誘拐されていて、誘拐犯の指示に従うしかありませんでした。

警察はそんなことは知らず、立てこもり現場を取り囲み、緊迫した状況下で交渉します。

白兎事件の全貌を簡単にいえばこんな感じですが、そこには多くの人の意思が複雑に絡み合っていました。

誘拐

兎田孝則は人を誘拐することで利益を得るグループに属し、真面目に、という言葉はおかしい気もしますが、真面目に仕事に取り組んでいました。

ところがある日、グループのトップである稲葉から兎田の妻・綿子を誘拐したと告げられます。

誘拐する側が誘拐される側に転じた瞬間でした。

稲葉の目的は、男に騙された経理の女性がどこかに移してしまった会社のお金のありかを見つけることでした。

騙した男はコンサルタントの折尾豊、通称オリオオリオと呼ばれていて、兎田は綿子解放の条件としてオリオオリオを探すよう指示されます。

交渉の余地などないことを誰よりもよく知る兎田は、この条件を飲むしかありませんでした。

立てこもり

兎田はオリオオリオを見つけます。

あいにく捕まえられなかったものの、彼のバッグに発信機を入れることに成功。

GPS情報を辿って、とある家にオリオオリオがいることを知り、不法侵入します。

家には両親と息子の三人がいて、兎田は三人を拘束してオリオオリオを探しますが、ここで奇妙な偶然が起きます。

兎田が拘束した父親は本当の父親ではなく、この家にとある事情から侵入していた泥棒・黒澤でした。

黒澤は事を荒立てたくない気持ちから父親のふりをして、母親と息子もこれに合わせていたのです。

兎田はそうとは知らずに警察にオリオオリオを連れてくるよう指示しますが、この誤解が新たな混乱を招くことになります。

驚きの展開

警察は立てこもり事件を知り、現場に駆け付けます。

兎田がオリオオリオという男と会いたがっていることを知り、その後、運良く市民の通報があったおかげでオリオオリオを無事に見つけることが出来ました。

警察はオリオオリオが兎田とグルであることも考慮しながら、穏便に事件を解決しようと試みます。

しかし、ここで読者も気が付いていない大きな試みが密かに行われていました。

兎田は誘拐された綿子を奪還することができるのか。

白兎事件はどのようにして解決するのか。

最後まで結末が予想できない展開が続くので、一気読み必至です。

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感想

新たな伊坂ワールド

伊坂作品を語る上で、シンプルで魅力溢れる登場人物など伊坂ワールドと呼ばれるような独特の雰囲気、魅力を抜きにしては語れません。

本書ではファンにとってもはやお馴染みの黒澤が登場し、他の登場人物も目立ちまくりなので、この点についてはこれまでの流れを踏襲しています。

一方で、本書では各登場人物の視点から以外に、いわゆる神視点からも物語が描かれます。

『レ・ミゼラブル』について作中で何度も言及され、神視点についてはその文章を真似ていることが序盤で明かされます。

それによって読者は作中の人物たちが知りえない情報を知ることができ、事情を知った上で彼らの驚き、混乱ぶりを楽しむことが出来ます。

しかし、それでも大きな仕掛け部分は後半になるまで読者に対しても明かされないので、展開の読めないドキドキは十分楽しめます。

まさか読者が神のように見下ろしていた物語の中で、あんなことが起こっていたとは。

この仕掛けはさすが伊坂さんだと感心せずにはいられませんでした。

このエンタメとサスペンスの融合がもう本当にお見事で、伊坂作品の中でもけっこう上位の面白さではないかと個人的には思っています。

複雑な仕掛けがスッキリまとまっている

相変わらず伊坂さんは話をまとめるのがうまいなと感心しました。

感心というと、何を偉そうにと思われるかもしれませんが、とにかく感心しました。

あれだけ複数の視点から物語を動かしながら、それがちゃんと一本の線に収束するのですから、読んでいる方はハラハラドキドキして、最後にちゃんと納得して安心することができます。

しかし、それでもやや複雑であることは否めません。

伊坂作品を読んできた人はある程度耐性があるので特に問題にならないと思いますが、複雑な話を理解するのが苦手だという人は意識して丁寧に読むと良いと思います。

何がどうなっているのかは作中でちゃんと解説されているので、焦る必要はありません。

くどさを感じるかもしれない

僕は本書を面白い、と断言しますが、一方でくどさを感じる人もいるのではと予想しています。

特に神視点について。

僕は良い味付けになっていて、嫌らしさを特に感じませんでしたが、神視点を用いること自体に否定的な人も一定数いるのではと思っています。

また時系列が前後するので、それが分かりにくいと感じるかもしれません。

話が複雑であることは事実なので、これを辛抱して読めるかがカギになります。

とはいえ、こういった試みが面白さに繋がっているので、ぜひ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

おわりに

ここにきてもまだ進化する伊坂幸太郎さんには驚かされました。

長年読んでいると伊坂作品だからとりあえず読む、という惰性がどうしても働いてしまうのですが、本書を読んでそんな気持ちが吹き飛びました。

早く新作が読みたい、という新鮮な気持ちで一杯です。

伊坂幸太郎さんのランキングを作りました。