『春夏秋冬代行者 春の舞 上』あらすじとネタバレ感想!四季を巡らす現人神の物語
「春は――無事、此処に、います」
世界には冬しか季節がなく、冬は孤独に耐えかねて生命を削り春を創った。やがて大地の願いにより夏と秋も誕生し、四季が完成した。この季節の巡り変わりを人の子が担うことになり、役目を果たす者は“四季の代行者”と呼ばれた――。
いま一人の少女神が胸に使命感を抱き、立ち上がろうとしている。四季の神より賜った季節は『春』。母より授かりし名は「雛菊」。十年前消えたこの国の春だ。雛菊は苦難を乗り越え現人神として復帰した。我が身を拐かし長きに亘り屈辱を与えた者達と戦うべく従者の少女と共に歩き出す。彼女の心の奥底には、神話の如く、冬への恋慕が存在していた。暁 佳奈が贈る、季節を世に顕現する役割を持つ現人神達の物語。此処に開幕。
Amazon商品ページより
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で知られる暁佳奈さんの作品です。
神から力を授かった四人の代行者が四季を巡らせる、という設定がまずそそられます。
美しい物語に強い怒りや悲しみが渦巻き、密度の濃い読書時間を楽しむことができます。
本書に関する暁さんへのインタビューはこちら。
電撃文庫初登場の暁佳奈先生が今だから言える、『春夏秋冬代行者』主人公の従者は当初は男の子だった?
2021年に専業作家になられたことで、今後がますます楽しみです。
また日野聡さん×花澤香菜さんの声で作品が紹介されている動画もあります。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
四季のはじまり
世界にははじめ、冬しかありませんでした。
冬は孤独に耐え兼ね、自分の生命を削って春を生み出します。
こうして二つの季節が巡るようになると、今度は春を知ってからの冬に世界が耐えられなくなり、冬はさらに自分の生命を削って夏と秋を生み出します。
こうして四季が生まれますが、四季があることによって春と冬の蜜月が失われてしまいます。
見かねた夏と秋は自分たちの役目を別の誰かに譲ろうと提案し、その役目を担うことになったのが人間でした。
こうして四季の代行者が生まれ、彼らが四季をもたらすことになります。
さらわれた少女
物語の十年前。
当時六歳だった春の代行者・花葉雛菊は、四季に不満を持つ賊によって誘拐され、十年もの間行方不明になっていました。
賊の目的は冬の代行者で当時十歳の寒椿狼星の殺害でしたが、雛菊は狼星やその従者である寒月凍蝶、自身の従者である姫鷹さくらを守るために自らを差し出したのでした。
この一件が原因でさくらは狼星、凍蝶を憎むようになり、彼ら二人もまたこの時の後悔を今でも引きずっていました。
雛菊は十年後に奇跡的に戻ってくることが出来ましたが、賊によって心を壊され、以前とは違う人間になっていました。
十年ぶりの春
このように絶望的な物語のスタートですが、雛菊とさくらは少しずつ会えなかった時間を埋め、ようやく春の代行者と従者として各地を回り始めます。
十年ぶりの春をもたらされ、世界が一気に春色に染め上げられます。
嬉しいニュースですが、問題が解決されたわけではありません。
雛菊を誘拐した賊はいまだに捕まっておらず、四季の代行者への襲撃も続いていたからです。
十年前の後悔を乗り越え、これまでの関係に戻れるのか。
悪しき慣習にとどめを刺して、四季の代行者や従者が幸せになれる世界を作ることができるのか。
雛菊とさくらの視点が中心となって、物語は動き出します。
感想
総合芸術
下巻にて、暁さんは本書について『総合芸術』と語っていますが、思わず頷いてしまいました。
登場人物や風景の描写は丁寧で美しく、まるで目の前で映像を見ているかのように鮮やかに浮かび上がります。
スオウさんのイラストはその美しさを損なわず、むしろ引き上げるような素晴らしい出来で、相性抜群です。
そこに川谷デザインさんの装丁も加わって、まさに総合芸術です。
それから時折挟まる黒背景に白文字のページなど小説だからこそできる演出をふんだんに盛り込んでいて、この辺りにも暁さんのこだわりを感じました。
紙媒体だとよりこのこだわりを感じることができるので、できれば紙の本で購入することをおすすめします。
不思議な世界観
本書の主要人物の多くが和装や和を意識した衣装に身を包んでいて、丁寧な言葉遣いもあって古風な印象を受けます。
その一方でスマホやタクシー、防犯カメラなど文明の利器も登場するので、不思議な世界観だなとずっと思っていました。
読み進めると次第に違和感がなくなってくるので、じっくり読んで設定に馴染ませていけば問題ありません。
人間の美しい部分も醜い部分もすべてさらけ出した世界で、とにかく最初から最後まで引き込まれます。
ぜひ堪能してください。
それぞれの苦悩
四季という美しさを題材にしていますが、煌びやかなイメージとは裏腹に、物語にはいつも過去の後悔がつきまといます。
賊の襲撃。
腐敗した組織。
一部人間として扱われない代行者たちの孤独。
季節を巡らせることで困る人がいるなんて考えてもみなかったので、驚きとともに新たな視点から四季について考えることができました。
四季の代行者と従者の悩みや後悔が消え去り、いつか物語が本来持つ美しさを取り戻すことができるのか。
物語は下巻に向けて一気に面白くなってくるので、ぜひ本書で世界観や人間関係など把握しておくと良いと思います。
おわりに
暁さんの文章は寄り添うように優しく、読んでいていつも心を洗われます。
イラストなど含めて物語のみならず、一冊の本として本当に美しいので、ぜひその贅沢な時間を堪能してもらえればと思います。
次の話はこちら。
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