ミステリー

『セイレーンの懺悔』あらすじとネタバレ感想!報道が生み出す闇、そして在るべき形とは

不祥事で番組存続の危機に陥った帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」。配属二年目の朝倉多香美は、里谷太一と起死回生のスクープを狙う。そんな折、葛飾区で女子高生誘拐事件が発生。被害者は東良綾香、身代金は一億円。報道協定の下、警察を尾行した多香美は廃工場で顔を焼かれた綾香の遺体を目撃する。綾香がいじめられていたという証言で浮かぶ少年少女のグループ。主犯格の少女は小学生レイプ事件の犠牲者だった。マスコミは被害者の不幸を娯楽にする怪物なのか―葛藤の中で多香美が辿り着く衝撃の真実とは。報道のタブーに切り込む緊迫のミステリー。

「BOOK」データベースより

本書は報道に関する光と闇について描いていて、主人公で新米記者である朝倉多香美を通じて読者はそれを知ることになります。

ちなみにドラマ化もされています。

ドラマの公式サイトはこちら

はじめ、多香美の理想と現実をはき違えた仕事ぶりに何度も嫌気が差しましたが、成長するにつれて報道に携わるものとして必要なことに気が付いていく姿は胸を熱くするものがありました。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

タイトルの意味

内容に入る前に、タイトルについて。

タイトルにある『セイレーン』とはギリシャ神話に出てくる妖精で、サイレンの語源といわれています。

セイレーンは上半身が人間の女、下半身が鳥で、岩礁の上から美しい歌声で船乗りを惑わし、難破に誘います。

刑事の宮藤はマスコミをこのセイレーンに例え、視聴者を耳触りの良い言葉で誘い、不信と嘲笑の渦に引き込もうとしていると多香美たちのことを批判します。

その場では言い返せない多香美でしたが、やがてこの言葉を受けて成長を果たします。

報道の在るべき姿として、物語の中核を表したタイトルになっています。

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あらすじ

名誉挽回

帝都テレビの番組である『アフタヌーンJAPAN』は中山七里さんの作品『切り裂きジャックの告白』で描かれた事件で殺人を助長する報道を行い、世間から非難を浴びていました。

テレビ局の上層部は再発防止のために大幅な人事異動すら厭わず、それを許せば番組の弱体化、やがて視聴率低下にともなうスポンサーの撤退など帝都テレビ全体を揺るがす大問題に発展する可能性すら秘めていました。

この事態を打開するためには、特ダネを入手して存在感をアピールする必要があります。

配属二年目の多香美は上司の里谷と共に行動することになり、あてがわれた事件が少女誘拐でした。

殺人事件

高校生の東良綾香を誘拐したと両親宛てに犯人から電話がありましたが、身代金の受け渡し方法などについて連絡が途絶えていました。

報道各社を出し抜くために、里谷と多香美は刑事の中でもエースとされている宮藤賢二を追いかけて事件を追います。

その結果、綾香がすでに殺されていることを報道として最初に知ることができ、さらに容疑者と思われる四人の男女の情報を入手します。

独占で報道することでアフタヌーンJAPANは起死回生を果たしたように思えましたが、里谷の表情は晴れません。

誤報と敗戦処理

多香美は特ダネをすっぱ抜いたことに高揚するも、自分たちのしていることがまるでハイエナのように加害者と思われる人物やその周辺の人たちにたかることであることを思い知らされ、報道の仕事を志した頃の初心がグラつきます。

そして、最も恐れていた事態に発生します。

警察が容疑者として挙げたのは全く別の四人組であり、多香美たちは誤報を流してしまったのです。

番組は再び責任を取らされることになり、里谷は子会社に飛ばされ、多香美は里谷のおかげでそのまま残ることが出来ました。

失意に暮れる多香美ですが、そんな暇はないと己を奮い立たせます。

報道を生業にするものとして、多香美がしなければならないことは誤報をしてしまった原因を探すことと、真実を改めて明らかにすることだからです。

多香美は里谷からの教えを胸に調査を続け、やがてまだ終わっていない事件の真実に辿り着きました。

感想

報道の華やかさと裏に潜む闇

作中でも書かれていますが、テレビや雑誌など報道の仕事は一見煌びやかです。

どんな話題も視聴者が望むような形に仕上げ、警察などのような権力を持たなくても世間に大きな影響力をもたらします。

しかし一方で、目の前の欲に目がくらんでしまうとすぐに人の道を踏み外し、客観的に見ればその姿はハイエナも同然。

浅ましくて醜くて、とても正義の名のもとに情報を伝える仕事とは思えません。

多香美はまだ報道の仕事に身を置いて年数が浅いため読者と同様、報道の裏に潜む闇を何度も目の当たりにし、自分のしていることに何度も嫌気が差します。

中山さんの作品では警察側に立ったものが多いため、その逆がどう思われているのかなど非常に新鮮でした。

正しさを語る上でどちらの立場も知っておくことが重要で、そういった意味でも本書は中山作品の中で重要な位置にあると思います。

里谷の気分で読む

しかし、本書を読んだ人であれば感じると思いますが、主人公の多香美がまあ鼻につきます。

理想を胸に正義を振りかざしているつもりでも、実際は醜いハイエナであることに気が付いて落ち込む。

悔しくても口で言い返せないため、すぐに感情や暴力に訴えてしまう。

はじめ、中山さんの描く女性は『刑事犬養隼人』シリーズの明日香や『ヒポクラテス』シリーズの真琴などこのタイプが多いため、中山さんは女性に対して偏見でも持っているのかとイライラしました。

でも、里谷がいなくなってから多香美は報道に携わる者として自分の羅針盤を持ち、正しくあろうと懸命に食らいつきます。

その姿はまだ青くもまぶしいもので、最後の宣言は良く言った、と拍手を送りたいくらいでした。

上記の理由から多少の我慢が必要ですが、その甲斐以上の感動が待っているので、ぜひ教育担当の里谷の気持ちになって根気強く読んでほしいと思います。

報道に求められること

これは報道に限った話ではありませんが、何事にも慣れてしまってはいけないと感じました。

慣れないとやっていけないこともありますが、慣れないよう抗うことは必要です。

痛いもの、苦しいものはいつまでもそう感じられるからこそ相手を思って仕事をすることが出来、そこには人を動かす心が宿ります。

僕は仕事や家庭において初心を取り戻し、客観的な立場から自分のことを振り返って、常に正しさを探したいと思えました。

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おわりに

SNSが広く普及し、自分が大人になって疑いの眼差しで見ているせいか、年々報道が信用ならないと感じるようになりました。

報道が正しくあってほしいと願う一方で、自分も情報に踊らされて挙句の果てに被害者面しないようしっかり真偽を見極めたいと思います。

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