『世界でいちばん透きとおった物語』あらすじとネタバレ感想!最後にタイトルの意味が分かる
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。それが僕だ。宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」奇妙な成り行きから僕は、一度も会ったことがない父の遺稿を探すことになる。知り合いの文芸編集者・霧子さんの力も借りて、業界関係者や父の愛人たちに調べを入れていくうちに、僕は父の複雑な人物像を知っていく。やがて父の遺稿を狙う別の何者かの妨害も始まり、ついに僕は『世界でいちばん透きとおった物語』に隠された衝撃の真実にたどり着く――。
Amazon商品ページより
『神様のメモ帳』シリーズをはじめ、多くの良作をこの世に送り出してきた杉井光さんが贈る本書。
誰もがタイトルに惹かれ、その意味を考え、最後に驚くのではないでしょうか。
それくらい衝撃的な作品であり、後述しますが、電子書籍化できないのも納得の一冊です。
以下は、本書に関する杉井さんへのインタビューです。
“電子書籍化不可”で18万部突破 著者に聞く制作秘話『世界でいちばん透きとおった物語』
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
不思議な生活
藤阪燈真は生まれてからずっと母親との二人暮らしでした。
というのも、燈真は母親がベストセラー作家・宮内彰吾との不倫の末に生まれた子どもだからです。
母親は宮内に迷惑をかけないよう燈真を引き取り、女手一つで育て上げます。
二人は多くの会話をするわけではありませんが、読書という共通の趣味で言葉を交わし、お互いにかけがえのない存在として大切に思っていました。
唯一の交流
母親は校閲の仕事をしていますが、それ以外に外部の人と交流を持つことはありませんでした。
そんな中で、母親の良い理解者となってくれたのが、S社の編集・深町霧子でした。
入社一年目から母親と仕事で関係を持ち、打ち合わせがしやすいからという理由で頻繁に家を訪れていました。
自然な流れで、名前が混同しないよう燈真のことを『燈真さん』と呼び、彼も自然と霧子に親しみ、あるいは好意を抱いていることが文章から読み取れます。
あまり広くはなく、けれども居心地の良い世界。
それが壊れたのは、母親の交通事故での死でした。
遺作
燈真は母親の死後、残された家に住むことを決めます。
貯金もあったことで、書店のアルバイトだけでもどうにか食べていける程度の余裕はありました。
母親が亡くなってから落ち着きを取り戻したある日、今度は宮内が亡くなります。
燈真にとってなんの感慨もありませんでしたが、その一ヵ月後、今度は宮内の息子・松方から電話があり、二人は霧子たちが同席のもと、S社で会います。
終始無礼な態度の松方が見せたのは、『世界でいちばん透きとおった物語』と書かれた封筒でした。
さらにメモ帳にはこの作品が六百枚あがったこと、何か確認作業があることが書かれていました。
宮内の遺作が存在するかもしれない。けれども、肝心の原稿がどこにも見当たらない。
そこで松方は愛人の子どもである燈真に声を掛けたのでした。
燈真はお金目的に依頼を引き受けますが、やがてこの宮内の遺した謎にのめり込んでいきます。
感想
透きとおった世界観
まず、冒頭に思ったのが、杉井さんらしい洗練された、透きとおった世界観だということです。
リーダビリティが抜群に高く、読者は迷わずに本書の世界観に没入することができます。
基本的には燈真、霧子、松方の三人で物語が回り、これも必要最小限の人数ですっきりしているところが良いです。
物語を通じて深堀されていくキャラクター性。
それに比例して謎が解けていく、あるいは余計に深まっていく物語。
二百ページちょっとと比較的短めの作品ですが、これだけの要素が凝縮されていて、非常に満足感のある一冊でした。
最大の仕掛け
本書の一番の特徴は、もちろんタイトルの意味です。
ネタバレは厳禁として、帯に書いてある『紙の本でしか体験できない感動がある』は、まさしくその通りです。
これが電子書籍化されることはまずないでしょう。
するにしても、他の電子書籍とは取り扱いを変えなければなりません。
物語終盤にその意味が明かされるわけですが、これが杉井さんらしい素敵さと、そんな発想があるのかという純粋な感動でいっぱいでした。
こんなに二度読みしたくなったこともまずなかったです。
ミステリ好きにも挑み甲斐のある謎だと思うので、ぜひ燈真の視点で、このミステリに挑戦してみてください。
おわりに
杉井さんに第二のデビュー作と言わせた本書。
その言葉通りの、現在の杉井さんの名刺代わりになった一冊だと思います。
手軽に読めるのに、この満足感と高揚感。
小説家ではありませんが、こんな物語書けたら、と小説家であれば羨望のまなざしを送ってしまうのではないでしょうか。
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