『リズム/ゴールド・フィッシュ』あらすじとネタバレ感想!瑞々しい森絵都のデビュー作
中学1年生のさゆきは、いとこの真ちゃんが大好きだ。高校へ行かず金髪頭でロックバンドの活動に打ち込むようになっても、真ちゃんのかっこよさは変わらない。家族ぐるみでずっと一緒にいたいのに、真ちゃんの両親の離婚話を聞いてしまい…。第31回講談社児童文学新人賞、第2回椋鳩十児童文学賞を受賞した著者デビュー作「リズム」と、その2年後を描いた「ゴールド・フィッシュ」を収録した不朽の名作集。
「BOOK」データベースより
森絵都さんのデビュー作である本書。
中学一年生という大人に少しずつ変わっていく多感な時期をこれでもかと瑞々しく描いていて、森さんの持つ魅力がすでに発揮されています。
一九九一年に発表されたこともあり時代を感じる描写もありますが、今読んでも共感できるものが多く、普遍性を感じました。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
リズム
中学一年生の藤井さゆきは、従兄の真治に恋をしています。
真治は中卒でガソリンスタンドで働いていて、今は金髪でロックバンドで歌うことに夢中です。
さゆきの母親や姉からの評判はあまり良くありません。
しかし、さゆきはそんな真治のことが大好きでした。
そんなある日、さゆきは両親が真治の両親が離婚するのでは、と話しているのを聞いて驚きます。
真治だけでなく家族として大好きなのに、なぜバラバラにならないといけないのか。
その後もさゆきにとって耐えがたい出来事が続きますが、その時、真治から教わったのがリズムの大切さでした。
ゴールド・フィッシュ
『リズム』から二年後の話。
真治は東京に出てバンド活動を頑張っていて、さゆきは誇らしい気持ちでいっぱいでした。
一方で、さゆきにとって受験の年ですが、勉強に身が入らず、担任の先生からも親からも心配されていました。
二年の間に、さゆきや真治だけでなく、周囲の人間にも大きな変化が起きていて、時間の流れを感じさせる寂しさが漂います。
そんな時、さゆきは東京から真治が帰ってきていたことが判明し、驚きます。
なぜ自分には知らせてくれないのか。
慌てて真治の住むアパートに電話をすると、すでに使われていませんでした。
感想
誰にでも起こりえる物語
本書は特別なことを書いているわけではありません。
一人の少女が恋をして、家族のことを疎ましく思ったり、誰にでも訪れる別れの瞬間に悲しさを抱いたりする。
そんな物語です。
大人が読むと、そういうもんだよ人生は、なんて上から目線でさゆきに分かったような口をきいてしまうかもしれません。
でも、僕はさゆきの揺れ動く気持ちが本当に大好きで、ずっと彼女や真治、テツのことを応援しながら読んでいました。
人生は一度きりで、その人生はその人のものです。
感じたことは誰とも違くて、それを大したことないと軽んじる権利など誰にもありません。
僕は目の前のことに一生懸命になれるさゆきたちが微笑ましく、同時に素敵だなと思っています。
二作の相乗効果
本書の良いところは、二作を収録することで時間の流れを合わせて楽しむことができることです。
中学一年生から三年生の二年間。
大人からしたらほんの誤差程度の時間で、大したことはないのかもしれません。
しかし、さゆきたちにとってそれは大きな時間の流れで、前に誓い合った夢も平気でなくなっている。
そんな衝撃的なことだって平気で起こりえます。
実際、さゆきが受験という一つの節目を迎えたことをはじめ、誰もが新たな価値観や問題を抱え、違う方向に人生を歩んでいます。
それが良いのか悪いのかは判断できませんが、まさに人生そのものだなと思いました。
あと、『ゴールド・フィッシュ』というタイトルが好きです。
由来は読めばすぐに分かりますが、そこで存在感を発揮してくるのかと嬉しくなってしまいました。
おわりに
特別な物語でないのに、さゆきや真治たちの目線で見ると毎日が特別で、過ぎ去った感覚への懐かしさと愛おしさが終始こみ上げていました。
児童文学賞を受賞していますが、何も子どもだけが読むものではありません。
毎日を惰性で過ごすようになった大人にはぜひ本書を読んでもらって、何か気づきを得てもらえると嬉しいです。
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