『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』あらすじとネタバレ感想!空想的弾丸しか撃てない青春悲劇
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。
「BOOK」データベースより
桜庭一樹さんの代表作の一つとしてよく挙げられる本書。
タイトルや表紙のテイストにあるような甘さはなく、ただただ残酷な現実が描かれています。
ジャンルを越えて読者の心の訴えかける力のある作品で、比較的短い物語なのでぜひ読んでほしい一冊です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
あらすじ
悲劇
冒頭、本書の主人公である中学生・山田なぎさと友情を育むことになる海野藻屑がバラバラ遺体として山で発見されたことが描かれます。
本書はまず悲劇であることを前置きした上で、なぜそこに至ったのかを追います。
過去と遺体発見に至るまでのパートが交互に描かれ、それによってなぎさの心理状態がより鮮明に浮かび上がるよう構成されています。
実弾を手にしたい少女
中学二年生のなぎさは不幸の中にいました。
十年前の大嵐で漁師の父親を亡くし、兄の友彦は中学二年生の途中から家に引きこもってしまいます。
働かず、興味のあることだけを追う美しい友彦は現代の貴族のようで、なぎさはそんな兄のことが好きでした。
母親は働き、少しばかりの生活保護を受けていますが、それでも生活は苦しく、なぎさは中学卒業後、自衛隊に入ることをすでに決めていました。
彼女の追い求めるもの。
それは生活を支える確かな力であり、なぎさはそれを実弾と称します。
そのためなぎさは他の同級生と違ってどこか醒めていて、実弾を詰める作業をひたすら繰り返していました。
空想的弾丸を撃つ少女
そんなある日、なぎさのクラスに海野藻屑という転校生がやってきます。
父親は地元の有名人である海野雅愛で、クラスメイトはすぐに彼女に興味を持ちますが、藻屑はかなり変わっていました。
美しくも痩せた容姿で一人称が『ぼく』、自身を人魚だと名乗り、足を引きずるように歩きます。
明らかな嘘を平気でつくため次第にクラスメイトは興味を失いますが、藻屑はなぜかなぎさと友だちになりたいと言い出します。
なぎさから見て、藻屑は何の力も持たない『砂糖菓子の弾丸』を撃ちまくっているだけの少女であり、近づきたくもない存在のはずでした。
ところが、藻屑から近づいてきて少しずつ彼女のことを知る中で、なぎさは自分の誤解を少しずつ理解します。
藻屑の体中に浮かぶ痣。
引きずる足。
父親の存在。
やがて物語は残酷な結末にたどり着きます。
感想
青春に入りこんだ不条理
はじめに、桜庭さんの描く少年少女が瑞々しく、平易な文章がまたなぎさらしさを象徴していて、何の違和感もなく物語の世界に入りこむことが出来ました。
その一方で、この物語は悲劇であると知っている大人の目線でも読んでいるため、なぎさや藻屑の姿が時に痛々しく思えてなりませんでした。
なぎさも藻屑も生き抜くためにそれぞれ実弾、砂糖菓子の弾丸を選択しますが、大人からすればどちらも大した力はありません。
結局、子どもは環境に生かされているのであって、自分の力だけではどうにもなりません。
そんな不条理を突きつけられ、それでもなぎさや藻屑は足掻き、でも待っているのは冒頭の悲劇的な結末。
物語を読み終える頃には、タイトルの本当の意味が見えてきて、余計にやるせない気持ちになりました。
なぎさの成長
本書の中で特に印象に残っているが、なぎさの成長です。
例え悲劇が起きてもほとんどの人の日常は続くわけで、そこで学んだことを活かして前に進むしかありません。
あるいは、生きることを諦めて殺されるか。
本書では、なぎさは藻屑の死を持って砂糖でできた弾丸で子どもが世界と戦えないことを知り、成長します。
その結果、それまでまるで理解できなかった担任教師の気持ちが少しだけ分かるようになり、進路を少しだけ変えます。
今回の一件は友彦や他の人にも影響を与え、彼らを次のステージに押し進めます。
少女の成長という意味で青春小説ですが、その成長の代償はあまりにも大きく、やはり作品としては悲劇としか言いようがありません。
おわりに
不思議な読書体験でした。
これを富士見ミステリー文庫から出したのだから驚きです。
桜庭さんの作品には誰も想像すらしなかったような強烈な何かが込められていて、本書にもその何かが間違いなく込められています。
それを読むことこそが読書最大の魅力だと僕は思っているので、タイトルや表紙で本書に興味を持ったという人はぜひ読んでみてください。
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