『恐怖とSF』あらすじとネタバレ感想!未知から生まれる恐怖を表現した全20篇
何度目かのブームを迎えているホラーシーンへのSFからの回答。日本SF作家クラブ会長・井上雅彦が提示する未知なる恐怖21篇。
Amazon商品ページより
日本SF作家クラブ 第二十二代会長に就任した井上雅彦さんが編んだ本書。
ホラー×SFで、未知に対する恐怖を表現した二十篇が収録されています。
恐怖がSFマインドにとって重要な役割を担っていて、想像絶する恐怖を心ゆくまで堪能することができます。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
『#』梨
自律観測機レトロスは「幽霊を見る機械」で、世界で発生している特異な電気信号や磁場を観測することで、四種類の霊体を検知・記録しています。
ここでは記録したものがいくつも提示されますが、そもそもこれは一体なぜ記録されているのか、なぜこうして提示されているのか。
その謎が紐解かれていきます。
『タタリ・エクスペリメント』柴田勝家
人が立て続けに死ぬマンションがあり、生物学者はマンション裏手にある池で新種の磁性細菌を発見します。
これが死んだ人間に関係しているとして、研究者の間で様々な議論が交わされます。
まるで祟りのようだと。
そしてこの細菌を用いた恐怖の実験が行われることになりました。
『始まりと終わりのない生き物』カリベユウキ
私は不登校児でしたが、十代半ば頃からとある仕事を始めます。
それはインターネットの深層で発見された「異界」を探索することでした。
そこには誰が何のために作ったのか分からない仮想空間が広がっていて、私をはじめとした幾人もが解明のために異界に潜り込みます。
『幻孔』池澤春菜
椎名トゥリアは量子脳理論学者で、深層量子ダイブプロジェクトを指揮しています。
目標は認知の進化で、成功すれば物理脳と量子脳、それぞれの思考が共存することになります。
椎名はプロジェクトを成功させるために倫理的に許されないことにも手を出しますが、その中で穴が彼女を襲います。
『あなたも痛みを』菅浩江
東雲公太郎は会社の地下であるものの面倒を見ています。
それは痛みを知るために作られた、肉体を持つ機械でした。
言葉や概念だけではなく、痛みを電気信号に置き換えて、機械に痛みを教え込む。
そんな常軌を逸した実験ですが、一年前に谷崎という神経学の専門家が転職してきたことで、この実験に大きな変化が訪れます。
『ロトカ=ヴォルテラの獣』坂永雄一
物語の舞台は鬼ヶ浦市。
中学生の犬塚シノは人間ではあり得ない身体的な力を獲得して、同級生たちも次第にそのことを知ります。
彼女を家に閉じ込めようと計画する中、シノは自身に沸き起こる感情や衝動に従って行動を起こします。
『戦場番号七九六三』小田雅久仁
中川徹也はちょっとしたことで妻の茜と喧嘩して、そのまま家を出ます。
大阪のU駅で降りると、突然、青空に鉄灰色の雲や霧、煙ともとれるものが現れ、一面を覆ってしまいます。
民衆がどよめく中、謎の存在による侵略が始まりました。
『我ら羆の群れ』飛鳥部勝則
猟師の迫水岩次郎のもとに、カケルという少女が現れます。
姉が羆に喰われてしまったため、敵討ちのために協力してほしいのだといいます。
女を連れていくことはできませんでしたが、迫水は若い女を連れていくことに気をよくしたのか、協力することにします。
やがて敵討ちの機会を得ますが、いくつも予想外の真実が明らかになります。
『フォトボマー』イーライ・K・P・ウィリアム
レナはソーシャルサーバーで響と出会います。
レナは自身のデジタルマーケティング力を活かして起業したいと考えていて、ソフトの開発力を持つ響はうってつけの人物でした。
急に声を掛けられたことに不審さはありましたが、実際に会って話すと信頼できる人物であることが分かり、二人は起業します。
会社は順調に成長し、レナは思いがけない成功を掴みますが、同時に奇妙なこともありました。
『幸せのはきだめ』平山夢明
俺は人殺しをしていました。それも複数回。
だんだんと間隔が短くなってきて、異常性が増していることが分かります。
一方、刑事のラグは俺の犯した事件を追っていました。
その後、偶然ラグの妹と俺が接触したことが事態が大きく動き出します。
『現代の遭遇者 The Modern Encounter』小中千昭
私はYouTubeで都市伝説系の配信をしていました。
専業でなんとか暮らすだけの収入はあるものの、ネタを常に探すことは簡単ではありません。
そんな時、一本の電話がかかってきて、相手はひかり電話の勧誘でした。
私は断りますが、電話の相手は私のチャンネルの視聴者で、声だけで本人であることがばれてしまいます。
まずいと思う私ですが、相手はちょっとした体験あるからといい、二人は会うことになりました。
『牛の首.vue』空木春宵
本書の中で『牛の首』という怪談が登場します。
日本の怪談の中で最も怖いとされている一方で、その内容を誰も知らないという奇妙な特徴を有しています。
色々な説こそありますが、どれもどこかの時期で作られた創作で、本当のところは分かりません。
話が進むにつれて『牛の首』のディティールがはっきりしてきますが、それは別の恐怖の始まりでした。
『初恋』牧野修
ぼくはアズマアスミという女性に恋をします。
女性が苦手で、コミュニケーションもうまくとれないぼくにとって、これは非常に珍しいことでした。
交流を重ねて、ぼくはアスミに告白をしますが、断られてしまいます。
理由はきみが思っているような人間じゃないということで、当然ぼくは納得できずに追及しますが、彼女の言う言葉の意味が分かってくると恐怖が一気に襲い掛かります。
『ヘルン先生の粉』溝渕久美子
明治の話。
私の父は早稲田大学で教鞭をとっていて、そこでヘルン先生と知り合います。
家に招くと、ヘルン先生は異国から東京に来るまでの話などしてくれますが、私は彼が苦手でした。
そんなある日、私は熱を出し、その日に突然亡くなってしまった文鳥と一緒に寝ていると、ヘルン先生がやってきて文鳥に白い粉をふりかけます。
すると、なんと文鳥は一瞬ではありますが甦ったのです。
『漏斗花』篠たまき
日本は敗戦し、ソ連兵による暴虐な振る舞いになす術がありませんでした。
入植地で暮らす俺と妻のもとにもソ連兵の魔の手が迫っていて、捕まれば妻は確実に連れていかれます。
しかも彼女のお腹の中には新しい命が宿っていました。
絶体絶命のピンチですが、同時並行で妻の幼少期からのエピソードが語られ、そこには白い花に関わる不思議な話がありました。
『愛に落ちる』久永実木彦
わたしと篠ノ目は理学部の同級生で、わたしは彼の才能を恐れていました。
幼い頃から神童の名をほしいままにしてきましたが、篠ノ目の才能の前では役に立ちません。
それでも表面的は上手くやってきましたが、学生生活が終わろうとする頃に女性関係で二人の関係はこじれ始めます。
そしてこれが、わたしを地獄の底に落とします。
『まなざし地獄のフォトグラム』長谷川京
ある日から、ネタバレがつまった光景が空に現れるようになります。
それは誰かが死ぬ間際の状況を移した蜃気楼のようなもので、この現象を地獄と呼びます。
私はパライソという企業に勤め、SNSにあげられた地獄の画像のうち、ポリシー違反になるものを弾いていました。
そして、仕事以外にも私にはこの作業にある目的がありました。
『『無』公表会議』斜線堂有紀
これは某所で行われた『高次元観測研究結果公表可否決定会議』の様子です。
世界各国の人間が参加し、審議の対象となっているのは『無』の存在を公表するかどうかでした。
一般的に信じられているあの世が存在しないことが判明し、人間の意識や魂は死後、根本から消え去ることが分かっています。
この事実を公表すれば大きな混乱は避けられず、審議されることになったのでした。
『開廟』飛浩隆
作家である中原瞳子はある日、視界が卍模様で埋め尽くされていることに気がつきます。
クリニックで診てもらうと加齢黄斑変性症であることが分かり、抗VEGF抗体の注射による治療が始まります。
一方、この世界には移住種というものが存在していて、人間以外の知性体がありふれた存在でした。
『システム・プロンプト』新名智
誰かが人工知性に命じるためのプロンプトを打ち込んでいます。
Curtisと名づけ、あらゆる領域で人間と同じような思考ができるのだといいます。
プロンプトが次々に打たれ、詳細や命じる内容が明確になっていきますが、最後に読者を脅かす大きな恐怖が待っていました。
感想
まえがきから秀逸
僕は井上さんが書いた、あるいは編んだ作品がどれも好きですが、まえがきだけでも最高にワクワクしました。
人間が未来に向かって進めば進むほど未知のものが見えてきて、それが想像もしていなかった恐怖を生む。
それを知りつつも、人間の好奇心は止むことはありません。
つまり、恐怖こそが好奇心の出発点なのだと。
数ページだけでグッと読者を惹きつける説得力はさすがで、それでいてお茶目でチャーミングな部分も残している。
ホラー好きに愛されることはもちろんのこと、ホラーやSFに馴染みがない人でも安心して読めるような配慮があり、まだまだこの界隈を盛り上げようという井上さんの心意気が感じられ、嬉しくなりました。
特にオススメの作品
恐怖×SFといっても、様々なテーマがあり、どれも題材に基づきつつも違った味わいがあります。
甲乙つけがたいところですが、特にオススメな作品は『漏斗花』『開廟』『システム・プロンプト』です。
後者二つはいずれも『彼岸の果て』がテーマで、どれだけ考えても仕方ない途方もないスケールがあり、もはや怖いのかどうかすら分からない絶望感がありました。
特に『開廟』は描かれている世界からしてSFですが、タイトルの意味(開廟=作中では墓を開ける)が分かった時の驚きはピカイチでした。
また『漏斗花』ですが、僕は篠たまきさんの描く美しく、切なく、妖しい世界が大好きで、『やみ窓』を読んだ時のことを思い出しました。

ただ一つ言えることは、本当に外れ作品がないというくらい厳選されているので、読み飛ばすことなくじっくり時間をかけて堪能ください。
こんなに贅沢な作品はありません。
おわりに
これだけホラーが盛り上がり、長く続くとは想像もしていませんでした。
思春期のような感受性はないものの、衰えきる前に本書を読めたことを嬉しく思います。
仮にこのブームが去ったとしても、次に備えて未知に対する好奇心をしっかり育てていこうと、新たなモチベーションになりました。
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