『目を擦る女』あらすじとネタバレ感想!良質で奇怪なSFホラー
「わたしが目を覚まさないように気をつけて」隣室に棲む土気色の肌の女は言った。指の付け根で目を擦りながら―この世界すべてを夢見ているという女の恐怖を描いた表題作、物理的に実行不可能な密室殺人を解明する驚天動地の推理劇「超限探偵Σ」、無数の算盤計算によって構築された仮想世界の陥穽「予め決定されている明日」ほか、冷徹な論理と呪われた奇想が時空間に仕掛ける邪悪な7つの罠。文庫オリジナル作品集。
「BOOK」データベースより
表題作をはじめ、ミステリやSFなど様々な方向から邪悪さが漂う短編集になっています。
不気味さだけでなくユーモアさも兼ね備えているので、充実した読書になること間違いなしです。
また詳細は後述しますが、『見晴らしのいい密室』と収録作品が重複しているため、注意が必要です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
目を擦る女
波瀬操子は引っ越した先で隣人に挨拶に向かうと、そこには三十歳くらいの女性が住んでいました。
女性は目を覚ましてしまうから静かに話してほしいといい、しかし赤ちゃんはいないのだといいます。
彼女いわく、起きているように見えて、寝ているのだといいます。
操子は彼女のことが理解できないまま隣人として過ごしますが、やがて彼女との交流の中で思いもよらない世界に巻き込まれていきます。
超限探偵Σ
Σと呼ばれる名探偵の話。
彼は生来の探偵であり、警察がお手上げかつ合理的な解決が存在しない事件に対してのみ行動します。
そのため依頼のほとんどが警察からのため無報酬であることも多いですが、それでもΣは己の欲求を満たすために今日も難事件に挑みます。
脳喰い
西山下腕彦をはじめとした船員たちは、クラーク号という宇宙船に乗っています。
彼らに下された新たなミッション。
それはカイパーベルトの有人基地A3が奇妙な天体を発見し、その天体を接近して観測してほしいというものでした。
A3には頭角河子がいて、腕彦は喧嘩をしてしまった彼女に会いたいと思っていました。
空からの風が止む時
オトが生まれた日、最初の重力衰退が起こりました。
それによってオトの世代は重力が小さいために体が縦に大きく成長するという特徴がありました。
オトは周囲の子どもたちとは変わっていて、ずっと風を見ているような少女でした。
誰もが彼女のことを理解できないようでしたが、彼女のこの観察が後に大きな意味を持つようになります。
刻印
日本にエイリアンが現れたらしい。
そんなニュースが流れた時、僕の家のトイレの中に等身大の蚊がいました。
蚊の言葉は理解できないものの意思疎通はでき、僕は蚊のことを『蚊子』と名付けて奇妙な共同生活を始めます。
未公開実験
三人の男性は、かつてのクラスメイトである丸鋸遁吉に呼ばれます
二十年ぶりに呼ぶ出した丸鋸は、何かの研究をしているようでした。
彼の意図が読めない三人ですが、現れた丸鋸は奇妙な格好をしていました。
予め決定されている明日
ケムロは大勢の仲間とともに算盤を弾いていました。
厳しいノルマを課せられ、ミスをすれば罰を与えられるという厳しい環境です。
ある日、ケムロは電子計算機の存在を知り、それを手をつけますが、彼の思い付きが思いも寄らない事態を引き起こします。
感想
バラエティ豊かな短編集
本書は作品紹介で『邪悪』というキーワードで説明されていますが、全てがそういったテイストというわけではありません。
ダークな一面を持つ作品があれば、くだらなくもユーモア溢れる作品もあり、とにかく飽きがきません。
次はどんな作品がくるのだろう。
タイトルを見ては内容を予想し、良い意味でその予想を裏切られる。
この繰り返しがたまらなく良い読書体験でした。
重複に注意
冒頭にも書きましたが、『見晴らしいい密室』と一部収録作品が重複しています。
具体的には『目を擦る女』、『未公開実験』、『予め決定されている明日』はどちらの作品にも収録されています。
とはいえ、片方にしか収録されていない作品もまた面白いので、重複があっても本書を気に入った人であれば両方買って問題ありません。
一応その心づもりをしてください、という意味合いで記載しました。
おわりに
表題作はもちろんのこと、一編一編に面白さが詰まっていて、非常にコスパの良い作品でした。
それでいて小林ワールドもきっちり展開されているので、ファンも納得の一冊です。
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