『風のマジム』あらすじとネタバレ感想!沖縄県産のラム造りに全力を注ぐ女性の極上のエンタメ小説
ほんとうにあった夢物語契約社員から女社長に――実話を基に描いたサクセス・ストーリー。琉球アイコム沖縄支店総務部勤務、28歳。純沖縄産のラム酒を造るという夢は叶うか!風の酒を造りたい!まじむの事業計画は南大東島のサトウキビを使って、島の中でアグリコール・ラムを造るというものだ。持ち前の体当たり精神で島に渡り、工場には飛行場の跡地を借り受け、伝説の醸造家を口説き落として――。
Amazon商品ページより
本書は原田マハさんが美術関係の小説を世に送り出す前の作品で、彼女の強みの一つである極上エンタメ作品に仕上がっています。
実際にあった話を基にしていますが、本当にこんな行き当たりばったりで成功したのか?というほどドラマに溢れています。
笑いあり感動ありで、誰にもオススメできる名作です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルの意味について。
はじめに『マジム』ですが、これは本書の主人公・伊波まじむの名前からとられているだけでなく、沖縄の言葉で『真心』を意味します。
そして『風の』ですが、これはまじむが一口飲んですっかり魅了されたラムの原料がさとうきびで、風に吹かれて育つことからラム=風が育てるお酒であることを意味しています。
では、この二つが合わさるとどういう意味をなすのか。
それは本書の最後に描かれているので、ぜひご自身の目で見届けてください。
あらすじ
人生を掲げた大計画
伊波まじむは沖縄の那覇で生まれ育ち、通信系事業を展開する会社に派遣社員として勤めていました。
実家は豆腐店を営んでいて、いつか継いでもいいと気楽な社会人生活を送っていました。
そんなまじむですが、ある日突然、人生の転機が訪れます。
それは、社内で開催されることとなったベンチャーコンクールでした。
沖縄の郷土色の豊かな新規事業を社員から募集するというもので、これには派遣社員のまじむも含まれます。
それを聞いてまじむの頭に浮かんだのは、祖母と行きつけのバーで飲んだラムのことでした。
一口飲んだだけで、まじむはラムの虜になってしまい、いつまでも心に残っていました。
ラムの原料は沖縄でさかんに生産されているさとうきびで、身近に感じられそうなものですが、実は沖縄県産のラムはこの時点でまだありませんでした。
まじむはそんな中でさとうきびの生産地であり、『東の果ての島』と呼ばれる絶海の孤島・南大東島の存在を知り、そこで作ったさとうきびを使った沖縄県産のラムを作りたいと夢みるようになりました。
はじめは単なる夢物語かと思われましたが、なんと社内の審査を次々に通過し、気が付けばまじむはプロジェクトのチームリーダーになっていました。
立ちはだかる困難の数々
社内審査をいくつか通過しましたが、本当に大変なのはこれからです。
会社は利益を出せないプロジェクトにお金を出すほど甘くないため、まじむの計画にあれこれと指図してきます。
時にはまじむと思う方向と違う方を向き、社内の調整をするだけで一苦労です。
しかもそれだけではありません。
お酒を造るには様々な資格や条件が必要だし、理想のラムを作るためには醸造家選びが重要です。
そもそもラム作りのためのさとうきびの提供すら許可が取れておらず、物語が始まった時点ではまじむの計画はただの絵空事でした。
支えてくれる人たち
何度も挫けそうになるまじむですが、彼女には支えてくれる人がたくさんいました。
ラムの味を教えてくれた、行きつけのバーのバーテンダーである五郎。
社内でまじむの計画をサポートしてくれる社員の面々や、かつての同級生。
そして母親に、まじむの夢を誰よりも応援してくれる祖母。
まじむは弱音を吐いても彼らの支えによって再び立ち上がり、一歩ずつ前に進みます。
感想
まさに波乱万丈
全くの素人が、沖縄県産のラムを作る。
何とも壮大な話ですが、これには元の話があります。
まじむと同じ様に志した女性がいて、彼女の生み出したラム『コルコル』は今では多くの人に愛されています。
題材が良いのはもちろんですが、展開については波乱万丈の一言。
とにかくすさまじい速度で物語があっちこっちに展開します。
思いつきで行動するたびに思わぬ壁にぶち当たり、凹んでは熱意と努力でその壁を乗り越える。
絶えずこれを繰り返し、それでも夢に届かないと思われた時の奇跡と大どんでん返し。
読んでいる側からすれば、これほど気の休まらない読書はありません。
しかし、だからこそまじむの熱意一つ一つに感情移入できるし、彼女の周囲の人間と同じく、心から彼女の夢を応援できる。
相変わらず原田さんはこのあたりのポイントをよく抑えていて、エンタメ作品を書かせたら超一流です。
どうしても原田マハ=美術関係の小説、というイメージを持っている人も多いと思うので、それを良い意味で払拭するためにもぜひ読んでほしい一冊です。
脇を固める登場人物が良い
まじむに魅力があるのはもちろんですが、彼女の脇を固める登場人物も非常に魅力的でした。
まじむにキツく当たりつつも内心応援してくれている祖母をはじめ、母親やバーテンダーの五郎、南大東島の人たち。
とにかくみんな陽気で、言いたいことをはっきり言うものだから逆に清々しくて大好きです。
個人的には同僚の冨美枝が一押しです。
最初は嫌味ったらしく、したくないことを人に押し付けて自分だけ甘い汁を吸おうとする典型的なヤな人でした。
ところが物語が進行するにつれてまじむの物語に欠かせない人物にまで成長し、いないと寂しいと感じるようになるまでなりました。
沖縄弁がやや読みにくい
本書には沖縄弁がたくさん登場します。
本文は標準語ですが、ルビで沖縄弁が書かれていて、方言が分からなくても読めるようには構成されています。
しかし、これがページの多くを占めるようになると情報量が多くなってしまい、かなり読みにくい印象を受けました。
沖縄だからこそ生まれた物語であり、これも大事なエッセンスの一つであることは間違いありません。
間違いないのですが、それでもやっぱり読みにくいという感覚が拭えず、本書は読むべきと言い切れないところがちょっとだけ残念でした。
おわりに
波乱万丈なエンタメ小説として高い完成度を誇っているのはもちろんですが、これが現実にあった話を基にしていると思うともっと嬉しくなります。
お酒が好きな人であれば、読了後にきっと『コルコル』が飲みたくなるはずです。
下戸だという人も、『コルコル』が完成するまでの話やパッケージなど違った面から楽しむことも出来るので、読了後はラム酒製造会社『グレイスラム』と『コルコル』について調べることをオススメします。
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