ホラー

阿部智里『発現』あらすじとネタバレ感想!一族を襲う幻覚の正体とは?

「おかしなものが見える」憔悴しきった姿で実家に戻ってきた兄。
お兄ちゃん、あの時の母さんと同じ顔してる―-―大学生のさつきは、幼い頃に亡くした母の顔を思い出し衝撃を受けるが、心の病と信じて兄を気遣う。しかし、さつきの眼にも咲き乱れる彼岸花と少女のイメージが映りはじめた。これは本当に病なのだろうか?

昭和四十年、ある男が橋から身を投げて死んだ。男はシベリア抑留を生き延びて帰国し、幸せにくらしていたはずだったのになぜ――その橋の脇には、彼岸花が咲いていたという。

昭和と平成、二つの時代をまたいで繋がる「恐怖」の正体とは?

大ヒット160万部ファンタジー「八咫烏シリーズ」の著者が描く
戦慄のノンジャンル長編。中島京子氏との対談を収録。

Amazon商品ページより

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八咫烏シリーズの阿部智里さんの作品で、僕は彼女の作品をはじめて読みました。

一言でいうとホラーですが、本書で描いているのはそんな簡単なものではありません。

謎の幻覚、幻聴に襲われ、原因を調べていると過去にいきつくというもので、答えからどう考えるというところまでしっかり描かれていています。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

謎の幻覚

村岡さつきの兄・大樹がある日、憔悴した状態で実家に帰ってきます。

彼には現実には存在しないものが見えていて、統合失調症と診断されて治療の最中でした。

さつきは大樹が見るものを幻覚だと断じて、本当は見えないものだと言い続けますが、ある時からさつきも知らない少女と彼岸花の幻覚を見るようになります。

打ち明けると、それは大樹と同じものでした。

それだけでなく、自殺した母親もまた同じ幻覚を見ていたのでした。

一族との関連

母親と兄妹で同じ幻覚を見ている。

しかも祖父も何らかの幻覚を見ていたことが分かり、その原因が血の繋がりにあることが考えられます。

さつきと大樹は父親と相談し、幻覚の原因を掴むために祖父の血縁者を探します。

祖父は養子だったため手掛かりがないように思われましたが、母親の葬儀で幻覚についてしつこく聞いてきた人間がいたことを思い出し、そこから調査を始めます。

さつきたちは色々な話を聞く中で、自分たちに遺伝したものの正体を知ることになります。

過去の戦争

物語はさつきたちの生きる平成三十年と並行して、昭和四十年の様子も描かれます。

山田清孝、省吾は満州開拓のために駆り出され、壮絶な経験をして日本に帰ってきました。

それからしばらくして、家庭を持って幸せの絶頂だった清孝が突然、立体交差橋から飛び降りて自殺します。

省吾は原因を知るために調査を始めますが、清孝の妻・京子は調査に反対していて、何かを知っていることは明らかでした。

それでも省吾は諦めずに調べ続け、やがて満州で清孝が経験したことを知ります。

そして、そのことはやがてさつきたちの幻覚と繋がっていきます。

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感想

怖いだけじゃない

ジャンル分けしようとするとホラーとなりますが、本書は単なるホラーではありません。

恐怖の対象は人智を超えたものではなく、恐怖に襲われるのにはちゃんとした理由があります。

本書はその理由を二つの時代から突き止めるという構成になっていて、はじめは何の接点もない二つの物語がやがて思いもよらないところで交差する構成が非常に計算されています。

謎を突き止めるという点においてはミステリともいえそうですが、やはりジャンルでくくるには無理があります。

それくらい様々な要素を含んでいるし、それが見事に調和した名作になっています。

事実から何を思うか

終盤、恐怖の原因が明かされるわけですが、それで解決という話ではありません。

幻覚を見るものが原因をどう捉え、どう生きていくのかがカギになっていて、人によって考え方はそれぞれです。

そして、どう考えるのかは読者にも当てはまります。

事実を知って、それをもとにどう生き方に反映させていくのか。

読み終わった後の余韻もしっかり残されていて、最後にいたるまで見事でした。

さつきに関する賛否両論

少しだけ気になることがあることがあり、それはさつきの性格、言動です。

さつきは思い込みが激しいのか自分の物差しで物事をはかり、他の価値観や思っていることを受け入れることが苦手な面があります。

そのため幻覚を見る大樹に対して苛立ちを見せるし、恐怖の原因に対しても否定的な考えを見せます。

他人に理解されない恐怖を考えればおかしくない反応ですが、それについて不快感を覚える人もいるかもしれません。

ただし、全てを知ってからのさつきの心境に変化が訪れ、それまでの彼女との違いがメリハリとなって効いてくるので、さつきがとっつきづらいと思った人はあまり感情移入しようと考えずに読むのも一つの手かもしれません。

おわりに

タイトルや表紙、あらすじから想像した物語とは最終的に大きく離れましたが、それが思いもよらぬ感動を生んでくれました。

阿部智里さんの作品と相性が良さそうなので、今後も追いかけてみたいと思います。