『影踏亭の怪談』あらすじとネタバレ感想!怪奇現象をどこまでも論理的に突き詰めたホラーミステリ
僕の姉は怪談作家だ。本名にちなんだ呻木叫子というふざけた筆名で、専攻していた民俗学でのフィールドワークの経験を生かしたルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。この常識を超えた怪事件は、彼女が取材中だった旅館〈影踏亭〉に出没する霊と関連しているのか? 姉を救う手掛かりを求めて宿へ調査に出向くことにした僕は、宿泊当夜に密室で起きた殺人事件の容疑者となってしまい……第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか、全4編を収録。
Amazon商品ページより
『乗物綺談~異業コレクションⅬⅤⅠ』でそのお名前を知り、作風に惚れて購入した本書。
収録されている四編は独立しているように見えて、後で繋がりが見えてくると面白さがさらに加速します。
また怪談ものに見えて、実はとても論理的なミステリ要素もあり、様々な要素を楽しむことができます。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
影踏亭の怪談
怪談作家の梅木杏子、筆名・呻木叫子が自宅マンションで、椅子に粘着テープで高速され、両瞼が彼女の毛髪で縫われていました。
発見したのは彼女の弟こと僕で、杏子は今も意識不明です。
僕は彼女が調べていた件に関連した霊の仕業だと考え、調査を開始します。
その中で杏子が、事件の直前に影踏亭という旅館に宿泊していたことを知り聞き込みをしますが、その中で杏子と霊の関係が次第に見えてきます。
朧トンネルの怪談
枝野優愛は実家近くの心霊スポットに行こうと、友人三人を誘います。
現地に着くと霊感を持つ辺見沙彩の気分が悪くなり、彼女を車に置いて三人で先に進みます。
特に何もなく車に戻った一同ですが、沙彩がいなくなっていました。
誘拐か、あるいは怪異の仕業か。
杏子はこの心霊スポットである朧トンネルを調べていて、その中で優愛たちと接触することとなります。
ドロドロ坂の怪談
杏子は十三年ぶりに福島県にある通称ドロドロ坂を訪れます。
以前は民俗学を専攻する中で訪れ、今回は旧友の望月法子のために訪れました。
法子から連絡があり、彼女の息子が神隠しにあったのだといいます。
普通であれば笑い飛ばすような話ですが、ドロドロ坂の研究をした杏子は神隠しが起きても不思議はないと判断し、調査を始めます。
冷凍メロンの怪談
杏子は心霊番組のロケに参加しますが、ロケ中に頭部に怪我を負って意識不明の重体となってしまいます。
彼女がこうなったのは、頭部に冷凍メロンが落下したからでした。
廃工場に冷凍メロンがあるはずもなく、人為的なものを感じます。
また都内では複数の死体の傍らに冷凍メロンが置かれていたという事例が複数報告されていて、何者かと意図が感じられました。
感想
まずは王道ホラー
実録ではありませんが、怪談作家が執筆のための取材の中で怪異と出会うというのは設定として王道です。
好きな人であれば外れることはまずないでしょう。
杏子は至って理知的な人で、彼女視点で語られる物語は非常に整理されていて、リーダービリティーに優れています。
また実際の出来事と、杏子の手記が交互に描かれるのも特徴で、これによってメリハリがついてより面白くなっているのもポイントです。
ミステリでもある
表紙、タイトルだけ見れば完全なるホラーですが、読み進めると本書がどこまでも現実的で、不可解な現象を現実に置き換えていくミステリであることに気が付くと思います。
杏子は職業柄、心霊的なものを信じているにも関わらず、決して安易に心霊のせいにしないところに好感が持てます。
上記の性質からホラーとして見ると恐怖が足りない可能性もありますが、その分、心霊現象から現実にシフトする際の感動を味わうことができます。
怪談系が好きな人であれば、まず読んで損はないのでしょうか。
おわりに
これから追いかけたい新たな作家さんが出来ました。
作家としての走り出しからこれだけ面白いので、今後が楽しみで仕方ありません。
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