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『盤上の向日葵』あらすじとネタバレ感想!白骨死体の共に見つかった名匠の将棋駒の意味とは?

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平成六年、夏。埼玉県の山中で身元不明の白骨死体が発見された。遺留品は、名匠の将棋駒。叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志した新米刑事の佐野は、駒の足取りを追って日本各地に飛ぶ。折しも将棋界では、実業界から転身した異端の天才棋士・上条桂介が、世紀の一瞬に挑もうとしていた。重厚な人間ドラマを描いた傑作ミステリー。

「BOOK」データベースより

昭和五十五年、春。棋士への夢を断った上条桂介だったが、駒打つ音に誘われて将棋道場に足を踏み入れる。そこで出会ったのは、自身の運命を大きく狂わせる伝説の真剣師・東明重慶だった―。死体遺棄事件の捜査線上に浮かび上がる、桂介と東明の壮絶すぎる歩み。誰が、誰を、なぜ殺したのか。物語は衝撃の結末を迎える! 

「BOOK」データベースより

本書は2018年本屋大賞第二位に選ばれ、ドラマ化もされています。

近年、テレビなどでも将棋を目にする機会が増えてきましたが、それでも馴染みのない僕にはあまり面白さが分からずにいました。

しかし本書を読んで、将棋の勝負の中でどんなやりとりがされているのか、どんな思いが込められているのか、少しですが分かった気がします。

それだけでなくあまりに辛く悲しい現実の連続は叫び出したくなるほどで、慟哭のミステリの名に恥じない名作です。

以下は、著者の柚月裕子さんと加藤一二三さんの対談の様子になりますので、合わせてご覧ください。

話題の将棋ミステリー『盤上の向日葵』 ひふみんが柚月裕子さんと語った“プロ棋士のリアル”とは…?

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

白骨死体と将棋の駒

物語は、埼玉県の山中で白骨死体が見つかるところから始まります。

死後三年が経過していますが、身元は不明。

身元を特定する遺留品として将棋の駒がありました。

しかもただの駒ではなく、名匠の作った六百万円もする一品でした。

誰が何のためにこんな稀少な駒を死体と一緒に埋めたのか。

刑事である石破は、かつてプロ棋士を目指した新米刑事の佐野とコンビを組み、駒の足取りを追います。

世紀の一戦

捜査と時を同じくして、将棋界では世紀の一戦が注目されていました。

一人は史上初の七冠に王手をかけた若き天才棋士・壬生。

そしてその対戦相手は、上条桂介。

その経歴は華々しく、東大を卒業後は外資系企業に就職。

それもたった三年で辞めると自分でソフトウェア会社を立ち上げ、あっという間に年商三十億円を達成してしまいます。

ところが、上条はその会社を売却し、目指したのがプロの棋士でした。

上条にプロの棋士になる資格はありませんでしたが、その圧倒的な実力が評価され、奨励会を経ないプロ棋士となりました。

どちらが勝っても話題になることは間違いなく、誰もが勝負の行方を注目していましたが、その裏には今回の事件が関係していました。

異端の天才の過去

捜査と並行して描かれるのは、上条の過去です。

現在の彼からは想像ができないような辛い日々でした。

上条が小学二年生の時に母親は精神を病んでしまって自殺。

父親はその辛さを酒やギャンブルで忘れ、桂介の面倒を見ようとすらしません。

そのせいで桂介は小学生の身であるにも関わらず新聞配達で家計を支えなければならず、一言でいえばかわいそうな子でした。

そんな桂介の唯一の楽しみが将棋で、元教師の唐沢は将棋をきっかけに桂介の健やかな成長を手助けするようになりました。

次第に分かってくる桂介の将棋の才能。

唐沢によって桂介の目の前にプロ棋士の道が開かれたように見えましたが、それは幻想でした。

感想

叫び出したくなるような憎しみと悲しみ

事件の捜査視点では決して分かることのない、上条の壮絶な過去が描かれています。

それはあまりに辛く悲しく、何度も叫び出したくなりました。

しかも、負の連鎖は止まることを知らず、もはや生きているだけで地獄にいるようでした。

そんな背景を見てしまうと、上条と壬生の世紀の一戦が全く違ったものに見えてきます。

どんな思いで、覚悟でこの試合に望んでいるのか。

真剣勝負という言葉では足りないほどで、息が詰まる勝負は将棋を知らない僕でも圧倒されるほど面白かったです。

捜査側はあくまで脇役

ミステリというと、捜査をしている刑事や探偵が主役のように思えます。

ところが、本書はそうではありません。

作品が進めば進むほど刑事二人の印象は薄れ、上条の圧倒的な憎しみや悲しみが作品を支配するようになります。

本書の主人公は、間違いなく上条です。

そのことに読んでいる途中で気が付いた時、ミステリを読んでいるという感覚は一切抜け落ちました。

本書が描いているのは、人間ドラマです。

犯人当てが目的ではない

序盤で犯人は分かったようなもので、本書の目的が犯人を当てることではないことはすぐに分かると思います。

誰が犯行に関わっているのかが分かり、白骨死体の身元も分かった。

では、どうしてこの結果になったのか。

動機というか、その過程が焦点になっています。

次第に事件の全貌が浮かび上がってくるとページをめくる手はいよいよ止まらず、最後は一気読み必至です。

おわりに

将棋という興味のある人とそうでない人が分かれやすいテーマを扱っていますが、そこは柚月さん。

全く将棋を知らないという人にもしっかり読ませ、かつしつこすぎないよう洗練されています。

柚月さんの作品をまだ読んだことのない人にも自信を持ってオススメできる名作です。

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