『アルファベット荘事件』あらすじとネタバレ感想!何も持たない探偵が伝説と事件に挑む
岩手の洋館・アルファベット荘は、庭や屋敷内に奇怪なアルファベット形のオブジェが並ぶ奇妙な屋敷だ。そこに招かれた売れない役者・未衣子とその仲間(変人の看板女優・美久月と、何も持たない探偵・ディ)は、パーティのほかの客とともに、謎の物体・『創生の箱』をめぐる、血も凍るような惨劇に出会う…。雪の山荘に展開する、幻想本格推理小説。
「BOOK」データベースより
本書は2002年に刊行されたもので、約二十年越しの文庫化になります。
一応他にも文庫がありますが、希少性からか値段が高騰していて手に取りにくかったので、かなり嬉しいです。
ミステリとして王道な魅力、本書にしかないさりげない魅力が程よく合わさっていて、2021年に読んでも全く古さを感じませんでした。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
創生の箱
1982年のこと。
僕は父親の都合で西ドイツを訪れていて、そこで一人の少女に恋をします。
僕と少女が出席することになっているパーティーでは、創生の箱と呼ばれるものがお披露目される予定になっていました。
空の創生の箱に鍵を閉めておくと、誰も触れていないにもかかわらず何かが入り込んでいるという伝説があり、箱を手に入れた人物はみんな死ぬともいわれています。
パーティーが始まり、要望で創生の箱が開けられますが、中から現れたのはバラバラの死体でした。
招待
1998年。
創生の箱は美術商の岩倉清一という男の手に渡っていて、彼の所有するアルファベット荘で保管されていました。
小さな劇団の女優である美久月美由紀は岩倉からアルファベット荘に招待され、主人公であり同じ劇団の女優・橘未衣子、過去の記憶を失った探偵・ディと共にアルファベット荘に向かいます。
ちなみにディとはDetective(探偵)からとられており、名前すらも持っていません。
伝説の再来
招待客の一人の情報では、岩倉はすでに亡くなっていて、他の誰かが岩倉に成りすまして客を招待した可能性が浮上します。
吹雪で外に出られず、電話など通信手段も断たれた状態で事件は起きます。
創生の箱の中で、招待客の一人が死体となって発見されたのです。
犯人は痕跡を残さず、どうやってこの犯罪を成し遂げたのか。
創生の箱の伝説は本当なのか。
アルファベットのオブジェが散在する不思議な屋敷。
様々な憶測が流れる中、ディは静かに探偵としての役割を果たします。
感想
THE探偵もの
本書の探偵であるディですが、はっきりいって目立ちません。
ほとんど会話に参加しないし、口を開いても血の通っていないような冷たい言葉がしばしば漏れます。
魅力的かというと、判断に困る部分ではあります。
しかし探偵としての能力は超一流で、彼の手にかかれば解けない事件はありません。
このご都合主義ともいえるキャラクター設定が彼の存在意義であり、まさに『ディ(Detective)』のふさわしいと思います。
この潔さについて著者の北山猛邦さんも言及していて、当時だからこそ出来た設定だといっています。
キャラクターの味付けについては美由紀をはじめとして人格破綻者のような人がたくさんいるので、ディが控え目でも全く問題ありません。
トータルすると非常にバランスが良く、探偵ものとしてある意味王道のような感じがしました。
謎の余韻も楽しい
本書は最後にディによって謎が解かれますが、読者にはさらなる謎が残されます。
気になることはありますがそれが明らかになることはなく、あとは読者それぞれが自分なりに考えるしかありません。
この余韻を消化不良と捉える人もいるかもしれませんが、僕は作品をさらに印象付ける良いスパイスになっていると思っていて、最後の部分は何度も読み返してしまいました。
今の読者の傾向を考えると、この時代にこういったテイストの作品はあまり受けがよくない気がするので、非常に貴重な読書体験でした。
おわりに
色あせることのない魅力があって、北山さんのミステリはやっぱり面白いなと久しぶりに読書欲に火がつきました。
城シリーズも良いし、まだ読んだことのない作品にも挑戦してみたいと思います。
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