『悪魔が来りて笛を吹く』あらすじとネタバレ感想!フルートの音色が意味することとは?
世の中を震撼させた青酸カリ毒殺の天銀堂事件。その事件の容疑者とされていた椿元子爵が姿を消した。「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」という遺書を娘美禰子に残して。以来、どこからともなく聞こえる“悪魔が来りて笛を吹く”というフルート曲の音色とともに、椿家を襲う七つの「死」。旧華族の没落と頽廃を背景にしたある怨念が惨殺へと導いていく――。名作中の名作と呼び声の高い、横溝正史の代表作!!
Amazon商品ページより
シリーズ第四弾となる本書。
前の話はこちら。
金田一耕助シリーズの中でも名作と名高い本書ですが、本格ミステリとはやや趣が異なります。
純粋な推理を楽しむという点ではフェアさに欠ける部分がありますが、人間の闇を描くという点で群を抜いていて、読了後もしばらく心をもっていかれるようでした。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
天銀堂事件
昭和二十二年一月のこと。
銀座でも有名な宝石商、天銀堂に一人の男性が現れます。
男性は付近で感染症が発生したとして従業員全員に青酸カリを飲ませ、十三人のうちに十人が死亡します。
毒を飲ませて従業員が苦しみ出すと、男性は大したことのない量の宝石を盗んで逃げます。
これは後に天銀堂事件と呼ばれることになります。
本書で起きる事件ではありませんが、物語が進むにつれて関係性が浮かび上がります。
失踪
その約五十日後、今度は椿英輔の失踪が報道されます。
椿家は堂上華族ですが年々その落ち目になっていましたが、新宮秌子と結婚することで華族としての位の高さを取り戻しました。
しかし終戦後、英輔の家に秌子の母の兄にあたる玉虫伯爵や彼の甥・新宮利彦が転がり込んできたことで、状況が変わります。
英輔は馬の合わない親族との関係に疲弊し、自殺を目的に失踪したのではないかと言われていました。
その後、英輔は予想通り、死体として発見されますが、死後しばらく経っていたにも関わらず、ほとんど腐敗していませんでした。
この件はこれで終わったように見えましたが、半年後、本書で起きる事件によって再度見直されることになります。
疑惑
金田一耕助のもとに椿美禰子という女性が現れます。
彼女は警視庁の等々力警部より、耕助を紹介されたのでした。
美禰子は英輔の娘で、彼女は父親が亡くなったことを疑っていました。
彼女の目で英輔の死体を確認しているものの、秌子が英輔の復讐を恐れているのだといいます。
英輔は天銀堂事件の犯人の容疑で警察から厳しい取り調べを受けていて、身内の誰かが密告したのではという疑いがあります。
耕助は先の読めない話を聞くうちに、この一族の問題に巻き込まれていきます。
感想
どこまでも暗い
冒頭の段階で、事件の当事者たちを取り巻く環境がいかに薄暗いかが分かります。
薄暗いだけでなく、ギトギトとまとわりつくような不快感があり、それが作品が進むにつれて薄まるどころか粘度を増していくばかり。
読み応えがあるし、心理的にもかなり応える内容です。
文句なしに面白い反面、人によっては常人では考えられないような悪意や人間の醜さにやられてしまうかもしれません。
そういった意味で万人に受け入れられる作品ではありませんが、それだけ特定の人に刺さるような名作になっています。
推理の不公平さ
記事の冒頭にも書きましたが、推理という面ではやや不公平な部分があります。
タイトルにある笛、つまりフルートに関しても、本書を読んだだけでは分かりえない情報が大事な役割をしている部分があり、推理小説としてはフェアではありません。
その他にもこういった部分があるのですが、おそらく本書を読んだ人はそこが主眼ではないことはすぐに気が付くと思うので、あまり気にならないのかなというのが個人的な感想です。
おわりに
僕は金田一耕助シリーズをまとめて購入するまで、本書のタイトルすら知らなかったので、こんな名作があったのかと驚きました。
戦後という時代背景もあって、最近の小説では絶対に味わえないエッセンスもあり、大満足の読書でした。
次の話はこちら。
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