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『王とサーカス』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王殺害事件が勃発する。太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、米澤ミステリの記念碑的傑作。『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)“週刊文春”2015年ミステリーベスト10(文藝春秋)「ミステリが読みたい!2016年版」(早川書房)第1位。

「BOOK」データベースより

ベルーフシリーズ第二弾となる本書。

第一弾はこちら。

米澤さんがあとがきに書いている通り、大刀洗が登場するからといって続編というわけではありませんので、この作品からでも十分に楽しむことが出来ます。

本書では2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んでいますので、そちらを実際に調べてみると世界観がより広がるかもしれません。

勤めていた新聞社を辞め、フリーのジャーナリストになって大刀洗のジャーナリストとしての信念が試されます。

これまでの彼女らしさ、そして新たに宿る彼女の強さ、そういったものが堪能できる作品になっています。

以下は本書に関する米澤さんへのインタビューです。

「遠い国の話を自分がどう受け取るのかという主題」にきちんと向き合いたいと思って『王とサーカス』を書きました――米澤穂信(1)|文春オンライン

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いています。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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タイトルの意味

タイトルの『王とサーカス』ですが、作中では異国の地・ネパールで国王含めた王族が殺害され、彼らを護衛する軍の人間が話したことが由来になっています。

民衆とは日常では体験できないことを楽しむ生き物であり、それが悲劇であっても関係ありません。

それは報道にも当てはまることで、ジャーナリストがサーカスの団長とするなら、国王が殺害された事件はサーカスの出し物なのだと。

団長次第で、事件はどんな風にも見せることができ、作中ではジャーナリストの本質が試されることとなります。

あらすじ

カトマンズ

同僚の自殺をきっかけに五年間勤めていた新聞社を辞めた大刀洗万智。

フリーになった彼女は雑誌編集者の知り合いからアジア旅行の特集を組む手伝いに誘われ、事前取材の予定でネパールのカトマンズに滞在していました。

彼女の滞在中の宿はトーキョーロッジといい、名前の響きから日本人が来ることも少なくありません。

彼女は二〇二号室に宿泊していて、他にも数人客がいます。

大学生のロバート・フォックスウェル、通称・ロブが、二〇三号室。

同じく二階に宿泊しているインドから来た商人のシュクマル。

サラリーマンを経て仏門に入り、九年前に家を捨てネパールに来た僧侶の谷津田源信が、三〇一号室。

その他に大刀洗はサガルという少年に出会い、最初こそ観光客として物を売りつけられそうになりますが、後に信用されてお金を渡してコーディネーターとしてこの街を案内してもらいます。

彼は早くに兄を亡くしています。

兄はひどい環境の絨毯工場で働き、テレビで報道されて工場が止まってしまってからは屑拾いを始め、それで出来た傷が原因で死んでしまいました。

それでサガルは学校にも行くことが出来ず、日々お金を稼いでいました。

大刀洗はのんびりと取材をするつもりでしたが、思いがけない事態に陥ることとなります。

恐ろしいニュース

夜中に誰かの声で目を覚ました大刀洗は、食堂でラジオを聞いているシュクマルに会います。

彼は恐ろしいニュースが流れているといい、大刀洗もBBCが流すニュースを聞きます。

BBCによると、王宮で恒例となっている宮中晩餐会において、皇太子が国王と王妃、その他の弟妹たちも殺害し、後に自殺したのだといいます。

情報源を言っていないことから、これは誰かが発表したものではなく、BBCのスクープだということが分かります。

翌朝、大刀洗は谷津田と事件について言葉を交わし、皇太子はまだ亡くなっていないこと、情報が更新されるたび死亡者が増えていることが分かります。

大刀洗は宿主のチャメリからネパールの王族について教えてもらうと、国際電話で今回の雇い主である月刊深層編集部に電話を掛けます。

出たのは今回、大刀洗に仕事を持ち掛けてくれた編集長の牧野で、状況を説明し、仕事の打ち合わせを済ませると、取材を開始します。

またチャメリの夫の知人が王宮に配属されていて、取材ができるよう頼んでくれることになります。その人物の名前は、ラジェスワル准尉といいます。

大刀洗は王宮前で取材しますが、街の人は悲しみと政府の沈黙への批判を口にするものの、暴動の気配はまだありませんでした。

またチャメリからラジェスワルが会ってくれると報告があり、日時や場所は後で伝えてくれるといいます。

翌日も大刀洗は街に出て取材をしますが、市民は事件の裏に陰謀が隠されていると疑っていて、少しずつ悪い方向に進んでいるのが分かります。

証人との接触

宿に戻ると、サガルがチャメリの残したメモを持っていて、そこにはラジェスワルが午後二時、クラブ・ジャスミンで会ってくれること、秘密厳守で一人で来ることと書かれていました。

さらにサガルは王宮の前に大勢の人間が集まり、警官と一触即発な雰囲気であることを教えてくれ、大刀洗はサガルの道案内に従って近道で王宮に向かいます。

途中でサガルと別れると、大刀洗は一人で王宮に向かいますが、そこは怒声に包まれ、他の記者たちも取材しようと試みていました。

大刀洗はそこに日本人の記者を見つけると情報交換をし、ラジェスワルとの待ち合わせ場所に向かいます。

廃ビルの地下一階、かつてはダンスフロアだったそこに軍服を着たラジェスワルが待っていました。

彼は当時、警備の当直ではなく詰所にいたといいますが、それでも世界を驚かせた大事件の証人に間違いありません。

大刀洗は心して取材に臨みますが、国王の死について、ラジェスワルは何も話すことはないといい、早くも取材は暗礁に乗り上げます。

その後も粘りますが、彼は大刀洗ではなくその裏で情報を待つ人々の願いを叶えたくないのだと応じてくれません。

ラジェスワルはサーカスを例に出し、大刀洗をサーカスの団長だとすると、彼女の記事こそがサーカスの演し物になります。

そして、自分たちの国王の死をサーカスにしたくないのだといいます。

ここで取材は終わり、大刀洗はジャーナリストとしての信念を答えられなかったことを恥じ、悔いるのでした。

変死体

翌日、王宮の前に行くと、群衆に突然催涙弾が放たれ、遂に警官たちが鎮静化に向けて動き出します。

大刀洗は死の恐怖を感じ、近道を通ってトーキョーロッジに戻ろうとします。

すると道中、男が倒れていました。

大刀洗はその顔を確認して驚愕します。

倒れていたのは上半身裸のラジェスワルで、死んでいることが一目で分かりました。

さらに背中には『INFORMER』という文字が彫られていていましたが、何を意味するのかは分かりません。

大刀洗が写真を撮り終えると、通報を受けた警官が現れて死体を運び出します。

トーキョーロッジに戻って大刀洗はラジェスワルの背中に書かれた文字を調べます。

すると、電子辞書にはこう書かれていました。

『密告者』と。

疑い

自分と会ってしまったからラジェスワルは殺されたのではないか。

そんな考えが浮かび、大刀洗はこれ以上取材を続けるべきか問いかけます。

その末に出た結論。

それは誰のためでもなく、自分が知りたいからだと。

気持ちを新たにした大刀洗は、ラジェスワルの死体が写った写真データの入ったメモリーカードを抜き取ると、机の引き出しにある聖書の適当なページに挟み込み、部屋を出ます。

食堂に行くと谷津田がいて、お茶を飲みながら話すことになります。

この前とは袈裟の着方が変わっている谷津田。

弔意を示して本式に変えたのだといいます。

大刀洗は彼と話す中で他の誰かが報道したとしても、それを自分が報道することに意味があるのだと気が付き、取材を続けようと思います。

ところがそこに警官が現れ、事情も話さずに彼女を署に連行します。

ラジェスワル殺害の容疑をかけられていたようですが、証言に問題がないこと、さらに発射残滓が出なかったことで解放されます。

その後、トーキョーロッジに戻った大刀洗ですが、部屋に戻ると何か違和感を覚え、部屋を確認します。

中には誰もいませんでしたが、鍵穴には誰かがピッキングした傷が残されていました。

聖書に挟んでおいたメモリーカードは無事で、犯人が誰なのか、何が目的だったのかまでは分かりません。

しかし、大刀洗はそこで怖気づくことなく、負けてなるものかと性根を据えたのでした。

取材

ただ行動に移せばいいというわけではありません。

ラジェスワルの死体の写真を掲載することで、読者は誰に何を密告したのだと疑問に思うはずです。

その相手が大刀洗ではないかと疑われ、彼の死の責任は大刀洗にあると言われてしまえば、真実かどうかは関係なく彼女の評判は致命的に悪くなってしまいます。

そうなれば、ジャーナリストとしておしまいです。

そこに牧野から連絡が入り、大刀洗はこの写真が王宮事件と関係があることの裏がとれていないことに気が付き、裏を取るために取材を開始します。

同時に、大刀洗は谷津田からある頼み事をされます。

谷津田は行きつけの天ぷら屋の吉田に、日本の友人宛の仏像を預けようとしていましたが、大麻を吸って寝込んでしまって頼めなくなってしまったのだといい、代わりに大刀洗に運んでもらえないかと谷津田は言いますが、大刀洗は答えを保留して取材に臨みます。

残された時間は、三十六時間です。

ところが、またしてもトーキョーロッジに二人の警官が現れ、今度は大刀洗を護衛したいと言い出します。

ラジェスワルの仲間は復讐を望んでいて、もしかしたらそのターゲットとして大刀洗が上げられることを懸念していて、仕方なく大刀洗は二人を連れて取材に向かいます。

ラジェスワルの死体が置かれていた路地やその周辺の状況、警察が知っている情報を合わせ、大刀洗の頭に疑問が浮かびます。

ラジェスワルは銃弾によって大動脈を傷つけられたという話でしたが、死体が置かれた現場にあまり血は残されておらず、別の場所で殺害されて連れてこられたのではと考えます。

またラジェスワルの背中に刻まれた『INFORMER』について、仮に脅しだとしても、何に怖がればいいのか分からず、効果的とは言えません。

すると会話の中で、『文字に意味がある』のではなく、『文字を刻んだことに意味がある』ことに気が付きます。

そして最後に、大刀洗はラジェスワルと会ったクラブ・ジャスミンに向かいます。

警察に言っていなかったことに二人の警官は怒りますが、三人はそこで大発見をします。

エレベーター前には何かを引きずった跡が残されていて、ラジェスワルと会った場所には大きな血だまりが広がっていました。

つまり、誰かがラジェスワルの死体を引きずり、埃で白くなってしまったため上着を脱がせたのです。

凶器の拳銃もそこに落ちていました。

通称チーフと呼ばれる拳銃です。

そこで警官たちは内緒でラジェスワルの経歴を教えてくれ、かつてはガイドを務め、大麻をさばいていた疑いがあるのだといいます。

しかし、誰と組んでいたのかも分からず、とても注意深い男であったことが分かります。

その後、十二時に外出禁止令が出されることが判明し、大刀洗はしぶしぶトーキョーロッジに戻り、残された時間を執筆と整理・推理の時間にあてることにしました。

残った取材と執筆

トーキョーロッジに戻ると、大刀洗は部屋にいるロブに声を掛けますが、彼は数日前から部屋から出てこず、今回も部屋に入れてくれません。

すると、大刀洗は人に聞かれたくないとして、自室に戻ってロブに電話をかけます。

電話に出たロブに対して、大刀洗は言います。

銃が盗まれたんじゃない?

ロブは大刀洗が盗んだのだと悲鳴を上げますが、大刀洗が事情を説明し、クラブ・ジャスミンに残されていた拳銃がロブのものだと判明します。

大刀洗は、彼が『チーフがついている』と口にしていたことで持ち主を推理したのです。

するとロブはピッキングについても認めますが、開けたのはサガルだといいます。

彼は客室係に呼び出された時に拳銃が盗まれたことで、客室係を疑っていましたが、彼は宿の現金も持ち出してすでに逃げた後でした。

ロブは夜明けと同時にアメリカ大使館に行くといい、大刀洗は執筆を始めます。

原稿が仕上がると眠り、朝になってチャメリにお願いしてFAXを月刊深層に送ってもらいます。

犯人

旅立つロブ、シュクマルを見送り、最後に八津田と話す大刀洗。

以前に依頼されていた仏像を持たせてもらいますが、軽いことに気が付き、大刀洗は自分の推理を話します。

仏像こそが原因であり、ロブの拳銃を盗んだのは八津田だと。

ロブの部屋の鍵穴にはピッキングの痕がなく、鍵で開けたことになりますが、八津田ならばそれが可能です。

なぜなら彼は九年の間に部屋をころころ変え、全ての部屋に宿泊したことがあり、その時に合鍵を作っていたからです。

そして、ロブから拳銃を盗んだのは、ラジェスワルと会う時の護身用でした。

八津田は、大麻をさばくためのラジェスワルの相棒だったのです。

この仏像の中には大麻が入っています。

本来であれば吉田に持っていってもらう予定でしたが、大麻を吸った彼には大麻のにおいが染みつき、空港で麻薬犬に引っ掛かるリスクがあります。

そこで八津田は、運ぶ役目を大刀洗にさせようとしたのです。

ここまでいうと八津田は自分のしてきたことを認め、トーキョーロッジという名前に引かれてやってきた日本人を運び屋にしていたことを明かしますが、今回の件と国王の死は全く無関係ではないといいます。

国王が亡くなり、ラジェスワルは弱味を残すのは不利だと手を引こうと考えていましたが、期日までに約束の量を送らないと危ないのは八津田です。

大刀洗がラジェスワルに会った後、八津田は彼と会って押し問答になり、仕方なく殺害したのです。

彼は袈裟の中に拳銃を隠していて、そこから撃ったために袈裟に穴が開き、それを隠すために着方を変えていたのです。

ここまで明かされても、大刀洗はこのことを誰かに明かすことはありません。

抵抗すれば勝ち目はないからです。

最後に八津田は、客室係の安否を確認する前に自分の仕事を優先させた大刀洗の判断を指摘し、それは人殺しの自分ですらおののくほどの冷たい心だと言い残して去るのでした。

真実と結末

原稿に問題ないことが確認でき、帰りの手配をしようと街に出るとサガルと会い、少しの間だけ散歩をします。

大刀洗は彼に今回書いた記事のことを話しますが、ラジェスワルのことを書かなかったことにサガルはがっかりしていました。

ラジェスワルを殺害したのは八津田ですが、運んだのはサガルです。

彼は殺害までの一連のことを見ていて、兄がかつて屑拾いで使っていた荷車を使って死体を運んだのです。

死体に文字を彫ったのもサガルでした。

ロブは『INFORMER』という単語は普段使わないと言っていましたが、それはサガルが辞書で調べて彫ったからでした。

彼がそこまでそうした理由。

それは大刀洗に記事を書かせることでしたが、それは大刀洗を思ってのことではありません。サガルは大刀洗を憎んでいました。

これまで外国の記者がこの国のひどい現実を報道する度に彼らの生活は厳しくなり、兄は仕事をなくさずに済んだ。

彼は大刀洗が王宮事件とラジェスワルの死を結びつけさせることで、ろくに調べずに他人を引っ掻きまわすクズだと証明したかったのです。

しかし、大刀洗は寸での所で立ち止まり、サガルの思惑は消え失せました。

サガルは最後まで憎しみを吐き捨て、しかし大刀洗はこれまでの彼の行動に感謝するのでした。

こうしてフリージャーナリストとしての初仕事を終え、王宮事件から七年が経ち、今も大刀洗は自分の調べたことを疑い、調べ、書き続けています。

時々自分が正しいと思いそうになった時は、デスクにしまってある『INFORMER』の部分をプリントアウトした写真を見つめます。

彼女が記者として誇れること、それは何かを報じたことではなく、この写真を報じなかったことです。

それを思い出すことで、誰かを悲しみをサーカスにすることから逃れられる。

そう信じているのでした。

おわりに

大刀洗の魅力が最大限に引き出された名作であり、しかしジャーナリストとしての業を背負う覚悟をした彼女は、この後も決して楽しいだけの人生を送るわけではないのだろうと思うと複雑な気持ちにもなります。

またこの記事ではかなりの部分を省略していますが、異国の情緒や緊迫感も見所の一つなので、ぜひこの記事を見て読んだ気にならず、ご自分の目で確かめてみてください。

この後も彼女の活躍が描かれた作品が出版されることを、切に願っています。

シリーズ第三弾はこちら。

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