『火星に住むつもりかい?』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は、衆人環視の中で刑に処されてしまう。不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」、ただ一人。ディストピアに迸るユーモアとアイロニー。伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作!
「BOOK」データベースより
先日文庫化されたのを機に読んでみましたが、一言で言えば『THE 伊坂幸太郎』な作品でした。
『平和警察』が設立され、事前に犯罪を防止するために「危険人物」を住人から密告させ、場合によっては見せしめに処刑までする世界。
しかし、『平和警察』は正義などではなく、自分たちの都合のために正義を振りかざす悪と呼ぶのがふさわしい存在なのでした。
平和とは名ばかりの、地獄のような世界です。
そんな中で『正義の味方』が立ち上がり、この社会の仕組みと戦うという、ざっといえばこんな内容です。
登場人物を殺すことを躊躇しない伊坂さんだからこそ描くことの出来るディストピアに、光明は差し込むのか?
この記事では、本作の魅力をあらすじな個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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タイトルの意味
あとがきで伊坂さんが書いていますが、デヴィッド・ボウイの名曲「LIFE ON MARS?」からとられています。
伊坂さんはこの曲名の和訳をタイトルのように解釈していましたが、後から「火星に生物が?」という意味だと知ったそうです。
また作中で加護エイジの口から「いっそ火星にでも住むつもり?」と語られていますが、これは理不尽なこの世界で生き抜くか、もしくは火星に逃げるか、といった理不尽な例えとして用いられています。
タイトルからつい宇宙に関係する内容を想像しがちですが、あくまで地球上、しかも日本の話です。
あらすじ
現代の魔女狩り
「安全地区」に指定された仙台に「平和警察」が設置されることになり、平和警察は住人の密告によって危険人物を特定し、場合によっては見せしめに処刑していました。
そのおかげで全国の犯罪件数は減少傾向にありましたが、迂闊なことを言えば例え無実だろうと密告されるリスクがあり、人々は互いに疑心暗鬼な状態に陥っていました。
序盤では各住人がどのようにして裁かれるのか、どのようなことで密告されるのか、どのようにして密告するのかが描かれています。
はっきりいって地獄としか言えない、表現の自由など無いに等しい支配された世界となっています。
一方でそんな平和警察に反対する動きも見られ、どのようにして平和警察を倒すのかを日々考えています。
平和警察への襲撃と正義の味方
人権派を名乗る金子教授を囲む会、通称金子ゼミが仙台で開催され、数日前に関東から来た臼井彬と、仙台在住の水野善一、田原彦一、蒲生義正が集まります。
金子の口から現在の魔女狩りと形容されるような平和警察の卑劣なやり口が語られ、五人は平和警察を倒す計画を立てます。
といっても金子が以前から立てていた計画を聞き、それに協力するという形です。
その場にいた全員の了承がとれたことで再来週の月曜に計画を実行することになり、水野、田原、蒲生の三人は平和警察の取り調べ施設に潜入し、盗聴器とカメラを設置することになりました。
計画当日、三人は清掃業者に扮して平和警察のビルに侵入し、監視カメラをかいくぐって盗聴器を設置します。
脱出に関しても事前に指示されていたため、このまま計画はうまくいくはずでした。
ところが、持っていたカードキーが使えなくなっており、三人は焦って別のルートから脱出を試みます。
しかし、ビルの外に出た瞬間、待ち構えていたのは平和警察でした。計画はバレていたのです。
三人は捕まり、拷問に等しい取り調べを受けます。
すると、取り調べをする加護エイジから金子と臼井は不穏分子を炙り出すための罠であることが告げられ、三人は絶望します。
平和警察は近頃平和警察の活動を邪魔する全身黒ずくめの「正義の味方」を探していて、平和警察は蒲生が正義の味方と同じ型のスクーターを所有していることから彼を正義の味方と決めつけ、尋問を続けます。
蒲生は強靭な精神力で耐えますが、蒲生の釈放を条件に今度は母親に卑劣な取り調べの魔の手が伸び、蒲生は激高します。
絶対に成功しない賭けに母親が参加した時、取り調べ室に現れたのは黒ずくめの男が現れます。
彼は不思議な武器を使って取り調べをしていた警察官を殺害すると、蒲生とその母親、それから水野を救出して姿をくらませるのでした。
正義の味方の捜索
平和警察の旗振り役であった薬師寺警視長は今回の事件を重く受け止め、東京から真壁という男を呼び、この事件の捜査にあたらせます。
真壁は捉えどころのない男で薬師寺は敬遠していますが、優秀な人間であることは間違いなく、金子ゼミなどを考案したのも真壁でした。
対面して早々、主に薬師寺は不機嫌を隠さず、刑事部長はご機嫌とりに苦労します。
真壁はそんなことに構わず今後の捜査方針を立てます。
黒ずくめの男は平和警察の尋問の様子を録画した動画を盗んでいて、それをネタに平和警察を脅迫しますが、それはねつ造だと言い張れば良いので大した問題ではありません。
真壁が注目したのは、助ける人物の基準でした。
平和警察には田原含めて他の人物も捕まっていたにもかかわらず、黒ずくめの男が助けたのは三人だけ。
さらにこれまで平和警察から助けた人物についても、どのような基準を持って助けると決めたのか。
真壁たちは助けられた人物たちの共通点を挙げ、それを元に黒ずくめの男を絞り込もうとしますが、うまくいきません。
また捜査の過程で黒ずくめの男の武器が強力な磁石であることが判明します。
磁石について知ろうとその研究を行う白幡研究所を訪れたところ、試作の強力な磁石が無くなっていること、そして研究室に所属する大森鴎外という学生が行方不明になっていることから、真壁たちは大森が黒ずくめの男ではないのかとあたりをつけて捜査します。
また警察は黒ずくめの男をおびき出そうと、彼の助ける基準に達していると思われる人間を連行し、その情報を流します。
すると予想通り、黒ずくめの男は現れますが、あと少しのところで逃げられてしまい、またその時に真壁は命を落とすのでした。
正義の味方の正体
警察が捜査しても見つからなかった黒ずくめの男の正体。
それは理髪店店主の久慈羊介でした。
彼は代々受け継がれてきた正義感を偽善なのではと苦しんでいましたが、常連客だった大森がトラブルに合うところに出くわしたことで人生が変わります。
鴎外の残した白幡研の磁石と木刀を武器に、自分の店に髪を切りに来る客とその家族だけを助けると決め、正義の味方として活動を始めます。
しかし、彼の活躍が仇となり、罪のない人たちが処刑されることになり、その中には久慈の客である佐藤誠人も含まれていました。
久慈はこの情報を臼井から聞かされ、処刑当日に現場に乗り込むことを決意します。
ちなみに、この臼井は真壁です。
真壁は自分の死を偽装し、薬師寺を陥れるための計画を立てていたのです。
処刑
処刑当日。
住人の目の前で複数の人間が処刑されようとしていました。
警察は黒ずくめの男が現れるのを待ち構えていましたが、警察の予想に反して複数の黒ずくめの男が現れます。
これは事前に久慈が仕込んでいたことでした。
しかし、その人たちは片っ端から捕まえられ、処刑台に立たされます。
無実の人を盾にされて久慈に選択肢などなく、名乗り出る他ありませんでした。
警察は久慈を処刑しようとギロチン台にかけますが、まだ磁石を隠し持って小細工しているのではと疑い、一度ギロチンが正常に動くか確認します。
すると、ギロチンは途中でつかえ、そこには久慈の使っていた武器が取り付けられていました。
これは臼井(真壁)の用意した奥の手でした。
久慈はそれをもって薬師寺警視長を狙います。
薬師寺は刑事監を盾にして難を逃れようとしますが、それを上野刑事部長が庇うのでした。
しかし、混乱に乗じて久慈は姿を消していました。
結末~平和警察の崩壊~
今回の件で平和警察の置かれた状況は一変します。
警視監を盾にした薬師寺の行動が問題視され、上野は薬師寺の良からぬ企みを察知していて、黒ずくめの男と繋がっていたのだと嘘を並べます。
刑事部長は無能な人間を装い、黒ずくめの男を利用して出世するつもりだったのです。
結果として上野は権限を持ち、自分の思うように平和警察を変えていくのでした。
また真壁の死も偽装されていたことが語られますが、その後どうしているのかは不明です。
久慈はそのまま日常に帰っていくのでした。
おわりに
ものすごい人数の登場人物があっちこっちで動くため、どうやって収拾をつけるのかと思っていましたが、さすが伊坂さんというと大変失礼ですが、しっかりと結末まで話を導いてくれました。
しかし、結局のところ、平和警察を倒したところで次の体制が出来、同じような地獄が生まれる可能性だってあります。
そうすると、久慈がやったことに果たして意味はあるのか?
考えるとどうもすっきりしませんが、人生はそういうものなのかもしれません。
そう思って、無理やり納得した僕でした。
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