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辻村深月『サクラ咲く』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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塚原マチは本好きで気弱な中学一年生。ある日、図書館で本をめくっていると一枚の便せんが落ちた。そこには『サクラチル』という文字が。一体誰がこれを?やがて始まった顔の見えない相手との便せん越しの交流は、二人の距離を近付けていく。(「サクラ咲く」)輝きに満ちた喜びや、声にならない叫びが織りなす青春のシーンをみずみずしく描き出す。表題作含む三編の傑作集。

「BOOK」データベースより

中高生にも読みやすい文体、誰もが共感してしまうような瑞々しい心の動き。

辻村さんのように着実にキャリアを重ねてきたにもかかわらず、今でもこういった物語を書けることに素直にすごいと思いました。

意外な展開がない分、ゆったりとした気持ちで読めるので、読書が苦手だという人にもおすすめです。

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

約束の場所、約束の時間

物語は、若美谷中学二年三組に菊池悠が転校してきたところが始まります。

悠は武宮朋彦の隣の席になりますが、朋彦は大人しそうでいわゆる真面目そうなタイプの悠に興味がありませんでした。

また保育園からの付き合いで女子陸上部の部長であるクラスメイト・砂原美晴は朋彦に悠と仲良くするよういいますが、朋彦は彼女のことも少し苦手に思っていました。

その日、朋彦は陸上部の練習を放り出して一人、裏山に走りに向かいます。

すると立ち入り禁止の遺跡近くに悠がいて、右手には何かの本が握られていました。

朋彦は声を掛け、危ないことを教えますが、視線が本の表紙を捉えると驚きます。

そこには『ドラゴン・クラウン9』と書かれています。

朋彦が熱中している『2』よりも遥かに新しいナンバリングです。

なぜそんなものを悠が持っているのか。

そもそもなぜそんなものが存在するのか。

朋彦は聞こうとしますが、悠はごめんと言って逃げ出そうとします。

ところが苦しそうに胸をおさえ、蹲ってしまいます。

そこに練習に呼びにきた美晴が現れ、悠に言われた通り、彼のかばんから薬を取り出して飲ませます。

すると症状は治まりますが、依然として事情は話してくれず、悠は帰ってしまいます。

残された通称『ドラクラ9』の表紙の本。

美晴はゲームに疎いため何も気が付かず、返しておくと朋彦が引き受けます。

翌日、朋彦と悠は放課後、裏山に待ち合わせをし、朋彦がドラクラ9の攻略本を返すと悠が事情を説明してくれます。

彼はタイムスリップでこの時代に来た未来人でした。

未来ではこの時代にない新しい病気が流行していて、悠もそれにかかっています。

原因が特定されていないため、その特定の意味を込めて、悠はまだその病気が確認されていないこの時代に療養に来ていました。

悠の時代の技術力では、過去に行けても未来に行くことはできないので、未来で治療することはできません。

そして本来であれば未来のことをその時代の人に話してはいけないため、黙っていてと朋彦にお願いし、彼も了承。

条件として、ドラクラ9を裏山にいる時だけ遊ばせてもらうことにします。

未来においてドラクラは続編がずっと出ていませんでしたが、悠の時代になって数十年ぶりに9が発売します。

それから朋彦は陸上部の練習を早めに切り上げては悠と裏山に合流し、ゲームを楽しみます。

一方、陸上部の部員である長谷川にたるんでいると注意されます。

そのことを悠に話し、その苛立ちを体育の授業もろくに参加できない悠にぶつけ、ドラクラ9を持ち帰らせてほしいといい、悠もそれを拒めません。

しかし翌日、朋彦はドラクラ9がなくなっていることに気が付き、慌てて探します。

すると美晴が見つけて渡してくれます。

長谷川が元々は探していて、渡してほしいと頼まれていたのです。

朋彦は長谷川が自分のことを気にかけてくれていることに気が付き、悠に言って真面目に部活に参加するようになります。

そして十二月の新人戦、朋彦は百メートル走を終え、リレーのアンカーとして試合に臨みます。

レースは朋彦たちが一位をキープしていましたが、三番手の長谷川の横の選手が転倒し、長谷川もそれに巻き込まれて転倒。

朋彦は過去に戻してほしいと願いますが、長谷川は諦めずにまた走り出します。

その気持ちに応えたい朋彦は個人戦以上の走りを見せ、結果は逆転の一位。

スタジアムには悠も来ていて、遠くからでもおめでとうと言っているのが分かります。

後日、新人戦の時の話になり、タイムマシンでは一人分しか運べないことが判明。

また、二人の仲は深まり、朋彦は初めて悠の家に遊びに行きます。

両親は未来に残っていて、やりとりはホログラム・レターと呼ばれる一方的な動画のやりとりのみ。

朋彦は悠の寂しいという気持ちを察し、今度はうちに来てほしいと悠を誘い、彼も喜びます。

しかし、それが実現することはありません。

三学期に入り、先生から二人が裏山に出入りしていることがバレてしまい、厳重注意されます。

朋彦は告げ口をしたのが美晴だと決めつけ、彼女を傷つけてしまいます。

そして翌日、大雨が降って裏山に行くことを諦めると、夜、クラスの学級委員の高橋から連絡があり、美晴がまだ家に帰っていないのだといいます。

そこで先生に告げ口をしたのは高橋だと判明し、朋彦のかばんからドラクラ9を抜き出して裏山に放置したのも彼でした。

朋彦は怒ることはせず、教えてくれたことにだけお礼を言うと、悠にも連絡して二人で裏山に向かいます。

おそらく美晴は、二人の秘密を守るために先生たちに見つかる前に裏山で目的のものを見つけようとしているはずです。

雨が強くなる中、裏山に行くと、美晴はやはり探し物をしていました。

朋彦は疑ったことを謝罪し、彼女を連れて帰るつもりでした。

しかし、次の瞬間、木で組まれた足場が崩れ、朋彦と美晴はそれに巻き込まれてしまいます。

崩れた遺跡は石と柱が互いに折り重なっていて、二人は抜け出すことができません。

いつ崩れるかも分からない中、悠が隙間から手を伸ばし、美晴と手を繋いだ朋彦はその手をとります。

発作が出る中、悠は決心します。

規則を破ってでもタイムマシンで二人を救おうと。

悠が触れているものであればタイムスリップさせることができます。

朋彦は止めますが、悠はすごく楽しかったことを伝え、タイムマシンを起動させます。

気が付くと、朋彦と美晴は数時間前の教室の廊下にいました。

担任の星野やクラスメイトたちに確認しますが、悠のことは誰も覚えておらず、知っているのは朋彦と美晴だけ。

放課後に二人で裏山に行きますが、隠しておいたゲームもなくなっています。

頼みの綱は、悠がいなくなった時に掘り起こしてくれと頼まれていた木の下。

掘り起こすと、土の中からホログラム・レターが出てきて、再生すると悠の姿が浮かびます。

ルール違反のせいで悠に関する記憶は消されていますが、朋彦と美晴だけは思いが強すぎて消せなかったのだといいます。

もう二人とは会えないと別れを告げる悠に、二人は涙を流します。

しかし、悠がここにいた証はあります。

それは朋彦が握りしめていた悠のメガネで、これがタイムマシンでした。

もう壊れています。

朋彦は、未来に備えて悠の病気の治療方法を考えたいと口にしますが、未来はそんなに簡単に変えられるのかと美晴は不安そうです。

その時、美晴は太陽を指さし、朋彦も理解します。

雨が降る予定だったのに、晴れて夕焼けが広がっているのです。

悠が未来を変えたことに勇気づけられ、次は自分たちの番だと二人は力強く頷くのでした。

サクラ咲く

中学一年生の塚原マチは気弱で、言いたいことが言えずに周りに流されてしまう自分の性格を直したいと思っていました。

しかし、小学校から一緒だった光田琴穂の推薦で、字がうまいという理由だけでクラスの書記にされてしまいます。

こうして委員長の守口みなみ、副委員長の琴穂、長沢恒河と共に活動することになりますが、本当は図書委員に憧れていました。

また本当は陸上部に入りたいと思っていましたが、琴穂の言葉に言い返すことができず、結局科学部に入部します。

思っていた部活とは違いましたが、隣の席の海野奏人と一緒になり、楽しい日々を過ごします。

そんなマチの一番の趣味は読書で、中学校の図書館ではどんな本に出会えるのだろうと胸を躍らせ、早速本を借ります。

すると、中には『サクラチル』と書かれた紙が挟まっていました。

最後に借りられたのは新学期になってからで、名前はありませんがマチと同じ一年五組です。

しかし、この時点では誰がこの紙を残したのかは分かりません。

中学に入り、マチの交友関係に変化が生じます。

琴穂はバスケ部が忙しいことを理由に何でもマチにお願いし、マチは不満を募らせていきます。

一方、みなみが本好きだと分かって以来、おすすめを教えたりと距離を縮めていきます。

ある日、マチのクラスでゴールデンウイーク明けから不登校になってしまった高坂紙音という女子生徒の家にプリントなどを一緒に届けにいかないかとみなみに誘われ、マチたちは紙音の家に向かいます。

マチは紙音とは一回しか話したことはありませんでしたが、とても優しくいい子だったことを覚えています。

同じ小学校だったみなみに休んでいる理由を聞きますが、みなみは言いたくなさそうです。

中間テストが終わって久しぶりに本を借りると、同じ筆跡の紙がまた挟まっていて、そこに書かれている気持ちはまるでマチの気持ちを代弁しているようでした。

誰の目にも触れさせたくないと、マチはつい持ち帰ってしまいます。

その後、紙が挟んである本には奏人の名前があり、マチは奏人が紙を挟んだ人物なのではと意識し始めます。

夏休みになると、マチ、みなみ、奏人、恒河の四人で自由研究をすることになり、マチの提案で『タイムマシンは可能かどうか』について調べ始めます。

その中でメモの主と奏人の字が決定的に違うことが判明し、相手探しは振り出しに戻ります。

ある時、マチは勇気を出して自分の気持ちを書いた紙を挟んで本を返却すると、後日、その本に返事の紙が挟まっていて、奇妙な手紙のやり取りが始まります。

マチは真面目でいい子だという言葉が褒められているように聞こえず、誰にも嫌われたくない自分は臆病だと、誰にも言えない悩みを手紙に書きます。

すると、見えない相手はそんなマチを、人の傷まで背負える強いだから頑張ってと励ましてくれます。

一方で、みなみが掛けてくれる言葉はマチの柔らかな部分にすっと入り込んできて、見えない相手と似ています。

マチはみなみがその相手かと疑ったりもします。

文化祭の合唱の練習を通してマチと琴穂は仲直りし、頑張りすぎるみなみを琴穂が気遣い、結束はより強固になっていきます。

マチも琴穂もお互いに言えなかったことをしっかりと言葉で伝え、マチはちゃんと自分が前進していることを実感します。

またみなみの陸上部での話で、『約束の場所、約束の時間』に登場した朋彦、美晴も登場します。

ぜひ確認してみてください。

楽しい日々を送るマチですが、ある日、見えない相手から『来年はからは来られないかもしれない』と言われ、どうしてとショックを隠せません。

その後、学級日誌のみんなの筆跡と手紙の筆跡を見比べますが、同じものはありませんでした。

マチは話をぼかして奏人に相談し、気が付きます。

自分は手紙の相手と友達になりたいのだと。

だからマチは決心し、年が明けると自分の名前を書いたメモを挟み、あなたは誰ですか?と聞きます。

ところが次の日、関係ない男子生徒に見つかってしまい、面白半分で他の手紙も探されるところでしたが、琴穂が注意してくれたことで難を逃れ、昨日が自分が手紙を挟んだ時点を見ます。

すると、返事が挟まっていて、手紙の主は紙音だったことが判明します。

マチは琴穂だけでなく、その場にいなかったみなみ、奏人、恒河を呼び、これまでの事情を説明し、助けを求めます。

紙音は授業は受けていないけれど図書室には通っていたようで、そのことを知られたくないという意志が感じられます。

そして、みなみが事情を説明してくれます。

紙音は声楽の教室に通っていて、音楽に熱心な私立中学を受験し、実技試験で失敗してしまいました。

そして、同じ小学校から進級してきている子たちにそのことを知られていることが恥ずかしくて、教室に来られないのだといいます。

最初のメモにあった『サクラチル』とは、この受験に落ちたことを示していました。

マチは紙音の苦しんでいる現状を知り、なんとか彼女の力になれないかと考えます。

その考えが浮かんだのは、卒業する三年生に向けたクラスの出し物を考えている時です。

マチは文化祭での合唱をもう一度やりたいと提案し、『一緒に、歌おう。教室でずっと、ずっと待っています。』という手紙を時点の続きの巻に挟もうとします。

するとすでに紙が挟まっていて、それは奏人が紙音に向けた手紙でした。

そこに同じことを考えていたみなみと恒河も合流。

恒河の手紙には『サクラチル』とは反対の『サクラサク』が書かれていました。

みんなの気持ちは一つで、紙音が来てくれることを待ちます。

バレンタインデー、マチはいつも相談に乗ってくれた奏人に告白しようと彼の自宅に行ってチョコを渡します。

頭が真っ白になって伝える言葉を忘れてしまいますが、奏人からマチに告白してくれ、二人はお互いの気持ちを知ることができました。

そして三月、紙音がついに学校に来てくれました。

紙音はみんなに感謝の気持ちを伝え、紙音もまじえて合唱の練習をし、当日を迎えます。

みんなの歌声が重なる中、マチは紙音にとって一番いい居場所を見つけてほしいと願いました。

一年かけて変わることが出来た自分のように。

歌の最後で、マチは体育館の扉の向こうに目を向けます。

外には、校庭の桜が咲き始めていました。

世界で一番美しい宝石

武宮一平、生田リュウ、平野拓史は映画同好会に所属し、自主作成映画に出演する主演女優を捜していました。

そんな時、一平は図書室でとても絵になる女子生徒を見つけ、二人に報告。

見てもらうと、その人は三年生の立花亜麻里だと判明します。

亜麻里は演劇部で華々しい活躍を見せていましたが、ある日突然退部し、当時とは少し雰囲気が変わっていました。

一平は思い切って映画出演のオファーをしようと図書室に行きますが、今日は帰ってしまったと司書教諭の海野はいいます。

ここでは明言されていませんが、おそらく奏人と結婚して姓の変わったマチのことだと思われます。

翌日、図書室に行くと今度は亜麻里がいましたが、出演を断られてしまいます。

しかし、一平はしつこいと言われても何度も何度もお願いをし、ある日、亜麻里は小さい頃に読んだものの、探しても見つからない本を探してくれたら出演を検討するといいます。

前半だけしか覚えていませんが、話の内容は宝石職人のもので、職人の元に魔法使いが現れ、『全てに別れを告げる代わりに世界で一番美しい宝石を作れる才能を与えよう』

とささやくという物語です。

三人は本探しを始めますが、亜麻里が何年も探しただけあって簡単には見つかりません。

拓史は、本当はそんな本はこの世に存在せず、断るための嘘だと言いますが、一平は諦めきれません。

するとリュウは、違う角度から亜麻里のことを知るのはどうかと提案し、彼女が演劇部をやめるきっかけになったという三年生の三根に会いに行きます。

新聞部の部長である彼に当時のことを聞くと、彼は亜麻里が映画に出ないことを断言した上で、当時亜麻里に対して行ったインタビューが原因なのではとボイスレコーダーで当時のインタビューの様子を聞かせてくれます。

最初こそ普通のインタビューでしたが、次第に三根はプライバシーを無視した取材によって中学時代は彼女が地味だったことを突き止め、昔とは違う今の彼女を辱しめます。

三根はこのインタビューを記事にできなかったことを悔やんでいましたが、三人は三根の勘違いしたジャーナリズムに嫌気が差し、絶対に亜麻里を映画に出演させると宣言します。

その後、宝石職人の話と亜麻里の境遇が似ていることに気が付いた三人は、自分たちで物語の続きを作り、一冊の本にすることを決めます。

またその夜、製薬会社の研究員である一平の父親が、白カビが原因の新種の喘息の事例が確認されたといい、ずっと研究してきた薬が使えるかもしれないと言って家を飛び出し、母親の目にも涙が浮かびます。

二人とも陸上部に所属していて、苗字は武宮。

そう、『約束の場所、約束の時間』で登場した朋彦と美晴です。

二人は結婚し、悠の病気を治すために研究を続けていたのです。

その後、『世界で一番美しい宝石』と名付けた絵本は出来上がり、亜麻里に読んでもらいます。

前半部分はそのままに、職人は全てを犠牲に才能を手に入れ、名誉と金を手に入れますが、どうしても自分が作った宝石を美しいと感じることが出来ず、人々の笑顔と引き換えに全てを失ったことに気が付くという内容になりました。

読み終えた亜麻里。

彼女は涙を流し、映画に出てもいいと言ってくれます。

撮影が始まってしばらくした頃、海野が『職人と世界一の宝石』という本を見つけてきます。

それこそが、実在した亜真里の探した本でした。

海野はこの本を探すために図書室を通じて友達になった人物に協力してもらったのだといい、おそらく紙音のことだと思われます。

この本は個人の作者の自費出版だったため、あまり出回っておらず、その存在を知られずにいました。

しかし、一平にはその結末にもう興味はありません。

亜真里が嘘をついていなかったと分かっただけで十分です。

その後、図書室で撮影を終えた後、一平は申し訳なさそうに映画部ではなく映画同好会であることを伝えますが、亜真里はいいます。

自分も部員であり、顧問なら海野に任せればいいと。

海野は苦笑しながらも引き受け、亜真理は『映画部、発足だよ』と宣言します。

こうして自分たちにも居場所ができ、一平は、学校は俺たちみんなのものだと胸を張るのでした。

おわりに

短編なので非常に読みやすいですが、胸に刻み込まれるような物語でした。

テイストは非常に爽やかですが、一方で思春期ゆえの心の闇も描かれ、共感を覚える人たちの背中を押すことができる作品だと思います。

あと、辻村さんは作品の垣根を越えて人物を登場させることがしばしばありますが、本書は一冊でそれが見られるのでとてもお得です。

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