『MILK』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
結婚して4年目の雄吾は、新入社員の泉希がまとう匂いに強く惹かれる。それは、遠い初恋の記憶へとつながる匂い。けれど、妻の摩子にはない―(表題作「MILK」)。切実な欲望を抱きながらも、どこかチャーミングなおとなの男女たちを描く10篇を収録。切なさとあたたかさを秘めたエロティックな恋愛短篇集。
「BOOK」データベースより
その名を知らない人の方が少ないほどの有名な作家・石田衣良さんですが、実は僕は石田さんの作品を読むのがこれが初めてだったりします。
ありがちな話ですが、有名で著作も多数あるからなかなか手が出し辛かったんです。
あと、世間でもてはやされる人はなんとなく嫌で、自分でこれから活躍するであろう作家さんを発掘したいという理由で、何となく敬遠していました。
しかし、この『MILK』は十篇の短編から構成された作品で、ページ数も少ない方なので、暇つぶしくらいの感覚で購入しました。
テーマはずばり『セックス』です。
官能小説はほとんど読んだことがなかったのですが、興奮したというよりも、セックスについて色々と考えさせられました。
挿れて射精する≠セックスだし、夫婦や恋人、はたまた一夜限りの関係などそれぞれによって考え方も違うし、好みも違います。
そして、本当のセックスって生きていることを実感できる一つの証なのかなと考えたりもしました。
この短編集には十通りのセックスやそれにまつわる話が出てくるので、きっとあなたが共感できる考え方が見つかるはずです。
以下は本書に関する石田さんへのインタビューです。
情感豊かな官能短編集 『MILK』 (石田衣良 著)|本の話
この記事では、本書の魅力についてあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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坂の途中
津田友里恵は三十五歳になって自分の性欲が高まっていくのを感じる一方で、夫の月彦は四十歳を迎え、性欲が衰えて今後の夫婦の生活を心配していました。
同僚の足花涼子からは、セックスについて希望があるならそれを月彦に伝えた方が良いとアドバイスされ、友里恵は月彦と外食したタイミングでそれを打ち明けます。
彼女は学生時代に見たヨーロッパ映画で、男が女を縛り上げて身動きをとれなくしてから、口紅を塗ってレイプするシーンに憧れを抱いていました。
月彦は友里恵の要望を聞き入れ、早速試してみることにします。
いざ始まると予想以上の快感に友里恵は酔いしれていきますが、ふと月彦の目が醒めていることに気が付き、最後は正常位でいつも通りに行為を終えます。
月彦は良い夫だけれども、今日のようなプレイは二度としたいと思わないだろう。
友里恵の性欲はまだ坂道の途中で、まだまだ上に昇っていく。
しかし、月彦はすでに下り坂に入っていて、今晩は唯一二人が坂の途中で出会った最後の夜だったのです。
友里恵はまだまだ続く昇上り坂を思い、静かに絶望するのでした。
MILK
表題にもなった物語。
緑川雄吾は中学二年生の夏、クラスメイトの久間美穂から発せられた塩を振ったミルクのような匂いに魅了され、それ以来、女性と付き合ってはその匂いを求めるようになりました。
しかし、全ての女性が持ち合わせているわけではなく、妻の摩子もその一人でした。
すでに最後のセックスから四か月以上が経過し、夫婦の性生活は冷戦状態に陥っていました。
そんなある日、会社の新人歓迎会で、主役である新人の星井泉希からその匂いがすることに気が付き、ひそかに興奮を覚えます。
しかし、会社の後輩に手を出すほどの勇気もなく、また風邪で寝込んでいる摩子から夕飯を買ってきてほしいとメールが入り、雄吾は早々に飲み会を切り上げて帰宅します。
食事が終わり、二日間お風呂に入っていないという摩子はタオルで体を拭き始め、手の届かない箇所は雄吾が拭くことに。
すると摩子の体からあのミルクのような匂いがして、夫婦はなし崩し的にセックスします。
思わぬ発見に喜ぶ一方で、今後、どうやって摩子に二日間も風呂に入らないよう説得するか、雄吾の課題でした。
水の香り
高校生の崎山一志はたびたび授業をサボっては映画館で洋風のポルノ映画を見漁っていました。
ある日、映画館で長宮水香という女性に声を掛けられ、ランチをおごることを条件に話を聞かせてほしいと依頼され、二人はファミレスに移動します。
水香は脚本家を目指していて、明後日までにAVの脚本を一本書き上げないといけないのだと説明し、二人は周囲の目を気にせずに妄想の世界に浸っていきます。
次第にお互いのプライベートなことまで話し、意気投合した二人は水香の自宅に向かいます。
水香は一志が童貞であることを知ると、彼のものを咥えて絶頂に導きます。
一志は水香がトイレに行くと、これより先を求めて次のデートを申し込もうと考えるのでした。
蜩の鳴く夜に
川西誠司はがん治療による長い闘病生活を終え、妻の美雨と共に自宅に戻ります。
帰宅後、自然と体に触れ合う内にお互いの興奮は高まり、美雨は誠司が帰ってきたことを改めて実感して涙します。
しかしまだ明るいということで行為を中断し、続きは夜にすることに。
その日の夕食、美雨は子供が欲しいと誠司に打ち明けます。
これまで不妊治療をやっても失敗に終わっていたが、もし誠司が死んでしまった時、彼の形見が欲しいと彼女は考えたのです。
誠司は返事を保留しますが、それに関係なく二人は行為に及びます。
美雨は誠司が帰ってきたことに再び涙し、誠司も久しぶりの美雨に溺れるのでした。
いれない
遠藤直哉は妻の光莉の帰りが遅いことを理由に、何の気なしに仕事で知り合った弥生というアルバイトの女性を食事に誘います。
しかし、いざ食事を始めるとお店の雰囲気もあって浮気の言葉がちらつき、直哉は不安になります。
帰り道、手を繋いできたのは弥生でした。
直哉は強引に彼女にキスをします。
弥生は直哉が既婚者であることを知った上で、『いれなければ何をしてもいい』という条件を持ち掛け、直哉もこの条件に同意します。
それから二人の関係は始まり、気が付けば二年以上経過していました。
しかし、三年目の秋、弥生から結婚すると報告を受け、今夜セックスをして関係を終わらせるか、今の形でデートを続けるか決断を迫られ、直哉はこの関係を続けることを望みました。
今後は弥生に赤ちゃんができたら関係を終わらせることを約束し、二人は涙を流しながらキスをするのでした。
アローン・トゥゲザー
谷口皆子は子供が出来てから夫に相手にしてもらえず、不満を抱えていました。
そこで皆子は出会い系サイトに登録します。
すると、多くの男性からお誘いを受け、その中でもファットキャットこと礼二と意気投合し、実際に会って行為に及びます。
礼二もまた、妻とのセックスレスに悩む男性でした。
二人はパートナーに言えない欲求を相手に求め、心の隙間を埋めていきます。
しかし、それでもお互いに家族は大事にしたいという思いがあり、再会を約束して別れると、皆子は息子に頼まれていたドーナツを買って帰路に着くのでした。
病院の夜
慶介と瑞穂は付き合ってから七年が経過した夫婦ですが、仲は良好で性生活にもなんの問題ありませんでした。
ところがある日、瑞穂が倒れて病院に運ばれたと連絡を受け、慶介は慌てて病院に駆け付けます。
瑞穂は生まれつき血管が細く、狭窄が見つかったのです。
幸い大した手術は必要なく、瑞穂は入院中にも関わらず性欲が高まり、慶介のものを咥えます。
その後、手術は無事に成功し、慶介も同じ個室で寝泊まりすることに。
寝静まった夜、慶介は瑞穂に起こされ、この間の続きをしようと持ち掛けられ、今度は自分でして、それを瑞穂がじっくり見ます。
行為が終わると、横になった二人は手を繋いで過去や未来の話をするのでした。
サービスタイム
谷澤浩介はアルバイト先のス―パーで一緒に働く古川智香子のことが気になり、バイト中もつい目で追っていました。
そんなある日、仕事がないからと早く退勤した浩介と智香子は、智香子に誘いでラブホテルに行き、セックスをします。
これまで付き合った女性からは味わうことのできなかった快感に感動する浩介。
話を聞くと、智香子は浩介の視線に気が付いていて、夫と三年もセックスから遠ざかっていたことでたまらず誘ったのです。
倍近くも年齢が離れた青年を誘ったことに罪悪感を覚える智香子ですが、浩介は今までで智香子が一番魅力的だと話し、二人はそれから再び快楽に溺れていくのでした。
ひとつになるまでの時間
篠原倫太郎と早季子は、早季子が仕事の都合で札幌に行ってしまったことで、東京と札幌で離ればなれに暮らしていました。
四か月ぶりに早季子が帰ってくる前日、二人は電話でいやらしい妄想を語り合い、翌日の行為に胸を馳せます。
当日、仕事終わりに倫太郎が早季子を迎えに行くと、彼女はもう我慢できないといった様子で、それは倫太郎も同じだったので食事もそこそこに自宅に戻ることにしました。
知り合ったことで二人の中でセックスという行為は特別で格別なものになり、ただの食事ではなくご馳走なのだと言います。
自宅に着くと、お互いの欲望が尽き果てるまで、何度も何度も体を重ねるのでした。
遠花火
中川和也は中学二年生の時、母親の年の離れた妹・紗枝からキスをされ、それ以来そのことが頭から離れず、和也の就職の内定を祝うために会うこの機会にその理由を確かめようと思っていました。
当時、紗枝は失恋をして塞ぎ込んでいて、元気づけようと和也が誘った花火大会で、紗枝から普通のキスと大人のキスを教えてもらったのです。
久しぶりに再会する二人。
紗枝は離婚したせいか、妙に胸の開いた服を着ていました。
お店に着いてお酒に口をつけると、早々に花火大会の時になぜキスをしたのかを聞きます。
紗枝は当時、失恋して荒れていて、誰かを傷つけたくなったから和也にキスをしたのだと言います。
紗枝は後悔していましたが、和也はあのキスを忘れることができず、内定祝いとして紗枝が欲しいと言います。
紗枝はそれを受け入れ、彼女の住むマンションの屋上から花火を見ようと提案します。
他にも人がいる中、二人はキスをし、紗枝は和也のものを咥えます。
和也はなすがままになりながら、花火の音と射精が同時だといいなと思いながらその時を待つのでした。
おわりに
セックスというと汚らわしいとかマイナスなイメージを抱く人も少なくありませんが、人として当然の欲求であり、本書を読んで改めてそのことを実感しました。
しかし、そういった会話はあくまでお互いの合意があった上で許されるのであって、セクハラは厳禁です。
もし恋人・夫婦でこういった性の悩みを抱えている人がいれば、きっかけもなしに話を切り出すのも難しいと思うので、本書をネタに自分の気持ちを打ち明けてみるのはいかがでしょうか。
きっとお互いに幸せのさらに先へと行けるはずです。
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