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『心淋し川』あらすじとネタバレ感想!心に淀みを抱える江戸の人々の人生を描いた短編集

harutoautumn
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「誰の心にも淀みはある。でも、それが人ってもんでね」江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、六兵衛が持ち込んだ張方をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして……(「閨仏」)。ほか全六話。生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、著者渾身の時代小説。

Amazon商品ページより

第164回直木賞を受賞した本書。

直木賞ってなに?という人は以下の記事をご参照ください。

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普段、時代小説はほとんど読まないのですが、せっかくの機会だと思い読んでみました。

時代背景や時代特有の名前、言葉遣いなど慣れるまで少し時間がかかりましたが、次第に物語の根底に流れる生きる辛さ、寂しさに触れ、違和感なく読めるようになりました。

時代小説が苦手という人は、以下のインタビューを読んでから本書を読むと、事前準備が出来てスムーズに読めるかもしれません。

本書に関する西條奈加さんへのインタビューはこちら。

【第164回直木賞受賞!】『心淋し川』西條奈加インタビュー

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

心淋し川

十九歳のちほは、志野屋という仕立屋から仕事を回してもらっていますが文句ばかり言われ、自分の住む町や家も嫌いでした。

そんなちほにとって唯一の楽しみは、志野屋で会える上絵師の元吉と会うことでした。

会えば会うほど期待は膨らみ、ずっと一緒にいたいと願うようになっていました。

しかしある日、父親が呑み屋で客を殴ったと知らせが入り、ちほに嫌な予感が走ります。

閨仏

りきは二十歳の時から六兵衛の長屋に住むようになり、もう十四年が経ちました。

この家にはりき含めて四人の妾がいて、いずれもおかめで醜女に分類されるという共通点がありました。

年齢を重ねるにつれて相手にされなくなり、いつか長屋を追い出されてしまうかもしれない。

不安や寂しさを抱えるりきですがある日、妙な悪戯心が湧いて張形という道具に小刀で顔を掘ります。

それを見た六兵衛はりきの予想を遥かに超えて評価され、仏を彫ることに次第に没頭していきます。

はじめましょ

すべての食事が四文銭で片がつく『四文屋(しもんや)』。

与吾蔵は先代から店を受け継ぎ、やり甲斐を感じていました。

そんなある日、道を歩いていると聞いたことのある歌が聞こえます。

歌っていたのは六、七歳の少女・ゆかですが、与吾蔵にその歌を聞かせてくれたのはかつて捨てた女性・るいでした。

別れた時、るいは誰かの子どもを身ごもっていた。

ゆかの母親はるいで、自分の子どもではないか。

そんな疑問が生まれ、それから与吾蔵は母親を待つゆかと会うようになり、やがてゆかの親のことや歌の意味を知ることになります。

冬虫夏草

吉は大怪我を負って歩けない息子・富士之助と二人暮らしで、心町に引っ越してきて五年。

富士之助の吉に対する暴言は止まらず、周囲の人間も止めさせることを諦めていました。

そんなある日、町を訪れた薬売りの男性が吉のことを知っていて、高鶴屋のおかみと呼びます。

吉は十年前のことを思い出し、親子がなぜ今のような生活を送ることになったのかが描かれます。

明けぬ里

ようは夫の桐八の賭博による浪費癖に困り、よくケンカしていました。

そんなある日、悪阻で難儀しているところを女性に助けてもらいますが、その顔を見て驚きます。

女性は、かつて同じ遊郭で働いていた明里でした。

遊郭一の美貌を持ち、常に妬ましいと思っていた相手。

ようは会いたくないと思っていましたが、明里は久しぶりの再会を喜び、昔話をします。

明里には何か迷いが感じられ、その時はその正体が分かりませんでしたが、後に明里の言葉の真意に気が付きます。

灰の男

茂十は十二年に渡って心町に住んでいますが、それには理由がありました。

それは、この街に息子を殺害した相手がいるからです。

茂十の目的はその相手を監視し、然るべき時に復讐を果たすことでした。

その相手はここまで読んできた読者の知る人物で、登場人物たちのイメージががらりと変わるエピソードが隠されていました。

感想

いつの時代も変わらない人生

本書に描かれているのは、不安や不満、悲しみなどやり場のない感情を抱えた人たちの人生です。

理由こそそれぞれですが、その根底にはいつの時代も変わらない人間の本質があって、思うことは今の人と何ら変わりありません。

時代小説に馴染みがなかったので面白さが分かるか不安でしたが、そんなことは杞憂でした。

西條さんの手慣れた文章は分かりやすく丁寧で、登場人物たちに簡単に感情移入することが出来ました。

感情移入出来ると彼らの置かれている状況がより分かるようになり、心町がどういう場所なのか、どういう時代なのかなども知識としてだけでなく感覚としても理解することが出来ました。

こういった点で時代小説に不慣れな人でも大変読みやすい作品に仕上がっています。

短編が繋がることで物語が広がる

個人的に思った本書最大の魅力は、短編それぞれが繋がっていることです。

物語一つ一つの面白さがあることはもちろんですが、前の物語での何気ないやりとりが後の物語に繋がることがあり、それによって本書の世界観がぐんと広がります。

特に最後の短編『灰の男』はその最もたるもので、それまでの短編があるからこそ成り立つ構成になっています。

どんでん返しというわけではありませんが、それまでの登場人物に抱いていた印象ががらりと変わり、本書の締めとしてふさわしい内容になっています。

おわりに

直木賞に選ばれたことが本書を手にとるきっかけになりましたが、時代小説に対する食わず嫌いのような感覚が薄れたような気がします。

それくらい時代の違いを除いて人の世は変わらないし、その時代だからこそ描かれるものがあるのだと知ることが出来ました。

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